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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸編
211/300

第211話 男女差別?

 リックバードを出発し、二週間程が過ぎ、すでにゲート一の大きさを誇る大陸、ルーガスが目視できる位置まで到着していた。

 ただし、ルーガスに上陸できる場所は南側のある一箇所の海岸で、そこまではまだ少し時間が掛かりそうだった。

 そびえ立つ様に切り立ったルーガス大陸の崖。それは、海からの侵入を防ぐように、抉れたような形をしていた。

 故に、ルーガス大陸へは、南側にある一定時期にしか姿を見せない海岸からしか侵入は出来ない。

 もちろん、それは、船だけの話ではない。

 飛行艇でも、この大陸では南側のその場所にしか上陸する事が出来ない。それは、ルーガスを覆う不思議な雲による影響だった。

 その雲は、空からの侵入を防ぐように渦巻き、暴風が吹き荒れていると言う。

 以前に、飛行艇で侵入しようと試みた者も多数居るが、皆、その雲と暴風に阻まれ、帰還を余儀なくされた。

 それ程、ルーガスは未知なる環境にさらされる大陸だった。

 そんな環境ゆえに、ゲート一の大きさがありながら、九割以上が未開拓と言う変わった大陸だった。

 広大なその大陸には一体、何があるのか、どのような資材・鉱物が眠っているのか、それすら未だに分かっていないのだ。



 切り立った崖を甲板から見据えるパルは、海賊ハットを右手で押さえ、その長い黒髪を潮風に揺らす。

 流石に日の光が遮られ、辺りは薄暗い。それ程、崖は高かった。

 海流の流れは決して速いわけでも、複雑なわけでも無く、とても穏やかだった。

 その流れに任せ、海賊船は進む。

 ショートパンツに、ヘソだしの相変わらずの軽装姿のパルは、深く息を吐くと目を細めた。


「全く……難攻不落って奴だな……」


 呆れた様子で呟くパルに、トボトボとその後ろを歩いていたミィが足を止めた。


「んっ? どうしたんスか?」


 パルの声が聞こえたのか、キョトンとした表情を向ける。

 そのミィの声に振り返るパルは、腰に手を当てると、福与かな胸を弾ませ息を吐く。


「いやな、改めて見てみると、ルーガス大陸ってのは、凄い所だと思ってね」

「あぁー……そうッスね。侵入不可の巨大要塞、何て比喩されるッスからね」


 ハッハッハッと笑うミィに、パルは大きく息を吐いた。


「そうだねー。全く……大層な大陸だよ」


 と、パルはもう一度そびえる崖を見上げた。

 そんな時、甲板で激しい爆音が響き、爆風が吹き荒れる。

 舞う土煙は空を覆うように広がり、吹き荒れた爆風はパルの長い黒髪とミィの肩口まで伸ばした朱色の髪を激しく揺らした。


「や、やめろ!」


 土煙の向こうから響いたのはクロトの声。


「何で逃げるの!」


 と、遅れてセラの声。

 呆然とその光景を眺めるパルは、目を細めるとミィに尋ねる。


「一体、これはなんだい?」


 表情を引きつらせるパルに、ミィはケホッケホッと咳き込んだ後に、答える。


「あぁー……何でも、クロトがケルベロスと手合わせをしようとしたら、セラが私がするって、乱入したらしいッス」


 苦笑するミィに、パルは「へぇー」と腕を組み頷いた。

 土煙が晴れると、土でコーティングされた甲板に片膝を着き、右拳を減り込ませるセラの姿があらわとなる。

 そして、その少し前に横転したクロトの姿があった。

 額に薄らと汗を滲ませるクロトは、呼吸を僅かに乱しセラを見上げ、セラは拳をゆっくりと引き、クロトを見据える。


「もーっ。手合わせするんでしょ?」

「いやいやいやいやいやいや! 俺は、ケルベロスと手合わせしたいんであって、セラとじゃないから!」


 激しく両手を振りそう答えるクロトに、セラは頬を膨らませる。


「何? 私じゃ役不足だって言うの?」

「いや、そう言う問題じゃなくて……俺は、女の子に手を挙げるつもりはないから!」

「それって、男女差別じゃない?」


 セラは不満そうにジト目をクロトに向けた。

 セラの眼差しに困り果てるクロトは、右手の人差し指で頬を掻く。


「いや、差別する気は無いけど……」

「なら、手合わせしてよ!」


 声をあげ、セラは地を蹴る。

 そして、右拳に魔力を込めた。

 その行動に瞬時に立ち上がるクロトは、「くっ」と小さく声を漏らした。


「属性強化! 風!」


 右拳に込めた魔力が風へと変化し、その風が拳を包み込む。


(風って事は……スピード重視の波状攻撃!)


 すぐに風属性の特徴を思い出すクロトは、眉間にシワを寄せる。

 どうかわせばいいか、どう防げばいいかを考えていた。

 だが、そんな余裕を与えないと、セラは両足にも風を纏い、一気に加速する。


「――ッ!」

「いっけぇーっ!」


 驚くクロトへと、セラは拳を振り抜く。

 疾風が駆け、風を切る鋭い音が響いた。

 クロトの思い描いた波状攻撃では無く、高速の鋭い一発のパンチは、空を切った。

 しかし、振り抜いたその衝撃は凄まじく、クロトの体は後方へと大きく弾かれた。


「クッ!」


 二度、三度と床を横転するクロトは、右手を床に着くとその勢いを殺した。

 上体を大きく仰け反らせ、セラの一撃をかわしたつもりだったが、まさか拳を振り抜いた風だけで吹き飛ぶとは思っても見なかった。

 セラの魔力の使い方に、驚きつつも、やはりクロトには戦う気は無く、身構えようとはしない。

 そんなクロトの行動に、セラは不満そうに目を細めると、頬を膨らせる。


「もーっ! そんなんじゃ、手合わせになんないよ!」

「だーかーら! セラとは手合わせする気はないって!」


 クロトの発言に、セラは一層不快そうな表情を浮かべると、静かに俯く。


「そっか……じゃあ、私が、クロトを本気にさせればいいんだね?」

「えっ? ……いや、だから……」

「なら、私も、全っ力で、行くから」


 セラはそう言うと、全身から膨大な魔力を放出する。

 それは、とても純度の高い魔力で、セラの体は輝いて見えた。


「せ、セラ……さん?」


 表情を引きつらせるクロトがそう呟く。

 しかし、セラは返答などせず、強い眼差しを向け、口ずさむ。


「魔力硬化」


 全身を土属性により硬化。


「属性強化……風!」


 硬化した両腕に風を纏わせる。


「更に、属性強化! 火!」


 続いて、両腕に纏わせた風に、火を引火させ、両腕を逆巻く炎の渦が包み込んだ。

 その魔力の質と属性の合わせ方に、クロトの右目は僅かに反応を示し、赤く輝く。敵意を感じ取ったのだ。

 流石に、セラが本気なのだと理解するクロトも、真剣な表情を見せる。

 ここまで、本気のセラに、女だからと言うのは失礼だと、クロトも覚悟を決めた。


「分かった……けど、素手の相手に、武器は使わない。俺も素手で行く」


と、クロトも両拳へと魔力を込めた。

 セラ程、クロトは魔力の属性変化を上手く使いこなせない。

 その為、クロトがその手に纏わせたのは、業火の炎のみだった。

 赤黒い炎がクロトの拳を包み、火の粉を僅かに上げる。

 クロトの行動を見据え、更にセラは魔力を込める。


「属性変化――水」


 硬化した両足へと水を纏う。

 セラのその行動に、クロトは一瞬疑念を抱く。水など纏った所で何になるんだろうか、と。

 だが、次の瞬間、その意味を知る。


「属性強化、雷!」


 両足に纏った水に雷が駆ける。それは、徐々に全体へと広がり、セラの体を雷が包み込んだ。


(雷を纏ったって事は……瞬発力の強化……か。アオの雷火と同じスピードだって考えるべきか……)


 と、クロトは警戒を強める。


「行くよ。私の全力!」

「ああ。俺も、全力で迎え撃つ!」


 クロトがそう答えると、セラは静かに息を吐いた。

 だが、そこまでだった。

 唐突に、セラの魔力が消失し、その体は静かに前のめりに倒れた。


「えっ?」

「せ、セラ!」


 あまりの呆気ない幕切れにクロトは目を白黒させ、倒れたセラへとミィが駆け寄った。


「だ、大丈夫ッスか!」

「うぅー……」

「どうやら、大丈夫そうだね」


 腰に手をあて、ゆっくりと歩み寄ったパルがセラの顔を覗きこみそう口にする。

 そんなパルへと不安げな眼差しを向けるミィは、


「ど、どうしたんスか? 急に」


と、心配そうな声を発した。

 しかし、パルにも何が起こったのか分からず、困った様に腕を組んだ。

 そんな時だ、船室のドアが開き、ケルベロスがその場に姿を見せたのは――。


「どうしたんだ? 一体」


 眉間にシワを寄せ、白髪を潮風に揺らすケルベロスが、周囲を見回しそう口にする。

 その問いに対し、両腕に灯していた赤黒い炎を消したクロトが、歩みながら答えた。


「いや、それが……急にセラが倒れて……」

「あぁ? セラが……急に?」


 訝しげな表情を浮かべるケルベロスへと、クロトは事の経緯を話した。

 すると、ケルベロスは呆れた様にセラを見据え、


「自分の魔力に対して、体の方がついてこれなかったんだな」


と、吐息を漏らした。

 その言葉に、ミィは不思議そうな表情を浮かべ、クロトは首を傾げる。

 全く、分かっていないと気付いたケルベロスは、もう一度深く息を吐くと説明した。


「どれ程、大量の魔力を所有していても、セラの様に魔力を込めて肉弾戦をすれば、当然、体力も消費する。元々、セラは箱入り娘のお嬢様だ。体力をつけるような鍛錬などしていない。正直言ってしまえば、体力は並みよりも少し下位だろう」

「て、事は……」

「ただの体力切れか……」


 明らかに呆れた表情を浮かべるクロトとパルは、同じようなタイミングで大きくため息を吐いた。

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