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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
201/300

第201話 千載一遇のチャンス

 凄まじい威圧感がケルベロスとパルを襲う。

 初めて強い感情をあらわにする劉漸は、長刀・桜千を地面へと叩きつけ、吼える。

 大気が震え、衝撃が広がり、ケルベロスとパルを襲った。

 ケルベロスの白髪が激しく揺れ、パルも被っていた海賊ハットが飛ばされそうになるのを、左手で押さえる。

 険しい表情で劉漸を見据えるケルベロスとパルは、目を凝らした。

 怒号が鳴り止むと、劉漸は半開きの口から熱気の篭った息を吐き出し、血のように真っ赤な瞳を二人へと向け、やがてニヤリと白い歯を見せる。

 その瞬間、ケルベロスとパルは身の毛を逆立て、瞬時に身構えた。

 一瞬だが、殺されるイメージが脳裏に過ぎったのだ。

 圧倒的な威圧感に、心拍数は上昇し、呼吸も荒くなっていた。

 二人の緊迫した表情に、劉漸は地面を砕いた長刀を持ち上げ、ゆっくりと構える。


「貴様らに……絶望を味あわせてやろう」


 殺気を込めた鋭い眼差しを向けた後、劉漸は地を蹴った。

 砕石を残し突っ込む劉漸に、パルが即座に反応しもう一丁の銃を抜き、二丁の銃の引き金を交互に引く。

 小気味良く交互に銃声は鳴り響き、弾丸は一定の間隔を開け、劉漸へと飛ぶ。

 しかし、劉漸は長刀の刃に水の膜を張ると、


「静明流独式四の太刀。水面みなも


と、何度も流れるように刃を振るった。

 澄んだ金属音が幾重にも重なり、刃は弾丸を捉える度に火花を散らし、刃は小刻みに振動する。

 その振動は水面に出来た波紋の様に次々と広がった。

 足を止める事無く突き進む劉漸に、パルはその場を飛びのき、それに合わせた様にケルベロスが前へと出る。


「爆炎拳!」


 右拳へと紅蓮の炎を灯し、ケルベロスは直進する劉漸へと振り抜いた。

 火の粉が舞い、炎が揺らめき、熱風が空を切った。


「くっ!」


 思わずそう声を漏らしたケルベロスは、視線を空へと向ける。

 劉漸は跳躍し、ケルベロスの拳をかわしたのだ。

 その動きに、ケルベロスは唇を噛み締めるが、パルはこれはチャンスだと銃口を向け引き金を交互に引く。

 銃声が轟く中で、劉漸は先程と同じく刃へと水の膜を纏わせ、


「静明流独式四の太刀。水面」


と、素早く長刀を振る。

 またしても澄んだ金像音が幾重にも響き、弾丸が火花を散らす。

 だが、その瞬間、真っ二つにされた弾丸に僅かな電流が流れ、やがてそれが爆発するように放電した。

 青色の電流が花火の様に空中で広がり、それが劉漸の刃にまとう水の影響も受け、激しく弾ける様な音を轟かせた。


「うぐっ!」


 凄まじい放電により吹き飛ばされた劉漸は地面へと背中から落ちた。

 長刀の刃は僅かに黒煙を吹き、劉漸の頬は少々こげていた。

 まさか、このような小細工をしているとは思わず、劉漸は思い切り放電を体に受けた。

 その影響で、右の脹脛が痺れ、立ち上がる事もやっとな状況だった。

 呼吸を乱すケルベロスは、すり足で左足を前へと出す。

 警戒していた。動けないフリをして誘っているんじゃないか、そう考えたのだ。

 一方のパルも同じく、何かを誘っていると思い、銃を構えたまま僅かに肩を上下に揺らしていた。

 慎重な二人の行動は劉漸にとって幸いな事で、この間に足の痺れを取る事が出来た。

 そんな事とは知らず、間を置く二人に、劉漸は俯き静かに笑う。


「ふっ……ふふふっ……」

「何がおかしい?」


 劉漸の笑い声に、ケルベロスがそう声を上げる。

 すると、劉漸は静かに顔を上げ、ケルベロスを真っ直ぐに見据え、大手を広げる。


「お前達は千載一遇のチャンスを逃した」

「「――!」」


 劉漸の言葉で、ケルベロスとパルはハッとする。

 今のは演技でも、誘っていたわけでも無く、実際に動けなかったのだと、この時ようやく気付いた。

 あまりにも、長刀・桜千の能力を気にしすぎて、慎重になりすぎていたのだ。

 何せ、あの刃が掠っただけで、出血が止まらなくなる代物だ。警戒して当然だった。

 奥歯を噛み締め、険しい表情を見せるケルベロスとパルに、劉漸は頭を右へと傾け、薄ら笑いを浮かべる。


「残念だったな。もう二度と、あんなチャンスは与えない。あんな小細工に引っかからない。お前らを抹殺する」


 劉漸はそう言うと、刃へと水を纏わせる。

 瞬時にパルが引き金を引くが、それと同時に劉漸も動く。


「静明流独式一の太刀。飛沫」


 下段に構えた長刀・桜千で地面を斬り付けながら向かい来る弾丸を切り上げた。

 切り上げた事により、地面を走る水の刃が飛沫を上げケルベロスとパルへと迫り、弾丸を受けた事により散った水飛沫は更に細かな水の刃となり、二人へと滑空しながら迫る。

 一目見てすぐにそれは触れてはいけないモノだと悟るケルベロスは、右拳に紅蓮の炎を灯すとその火力を最大限まで引き出した。


「うおおおおっ!」


 雄たけびを上げ、ケルベロスは拳を振り上げる。

 そんなケルベロスへと不敵な笑みを浮かべる劉漸は、静かに囁く。


「今更、何をしても無駄だ」


 その声は誰にも聞こえない程小さな声で、劉漸は小さく首を振っていた。

 あの水の刃を攻撃しようものなら、弾け更に水の刃を増やす事になり、一層ケルベロス達の逃げ場は無くなる。

 そう劉漸は考えていた。

 だが、ケルベロスは振りかぶっていた拳を勢い良く自らの足元へと叩きつける。


「爆炎弾!」


 拳が地面へと減り込み、衝撃は地面を陥没させ、無数の亀裂を生む。

 そして、地面へと打ち込まれた炎は、大地を揺るがし、やがて亀裂の入った地面を打ち破り、激しい爆発音と共に炎を噴き上がらせた。

 上空数十メートル程まで噴き上がった炎は砕石を周囲へと飛ばし、その高熱は周囲の水分を即座に奪った。


「くっ……」


 だが、それは同時に、ケルベロスの今もてる全ての精神力をも奪い去っていた。

 額から大粒の汗を滲ませ、片膝を着くケルベロスの意識はモウロウとしていた。

 周囲に広がる高熱もあいまってか、その視界は激しく歪む。


(くっ……こんな所で……)


 倒れてたまるかと、必死に意識を保つケルベロスは、深い呼吸を繰り返し瞼を閉じる。

 少しでも精神力が回復すればいい、と行った行動だが、それは最悪一手となる。

 瞼と閉じると言う事は、相手から目を切る事になり、それは同時に隙を生む事になるのだ。

 そして、劉漸がその隙を見逃すわけもなく、次の瞬間ケルベロスの体を衝撃が突き抜ける。


「うぐっ!」


 激痛が右肩を襲い、ケルベロスは後方へと弾かれながらそう声を漏らす。


「ケルベロス!」


 遅れて、パルはそう声をあげる。

 まさか、劉漸が攻撃を仕掛けてくるとは思ってもいなかった。

 何故なら、ケルベロスの前には炎の壁がそびえたち、それが消えるまでは安心だと勝手に思い込んでいたのだ。

 だが、劉漸の長刀はその炎を突っ切り、切っ先でケルベロスの右肩を捉えた。

 もちろん、致命傷を与える為の一撃ではなく、ほんのかすり傷をつける為の一撃だったが、最悪な事に片膝を着き前のめりになっていたケルベロスの肩にその切っ先は深く突き刺さった。

 衣服の下から滲む鮮血が、みるみる内にケルベロスの服を赤く染め、右肩から溢れた血は右手の指先からシトシトと零れ落ちる。

 自らの失態に表情を歪めるケルベロスは、左手で右肩を押さえ真っ直ぐに視線を向ける。

 炎の壁の向こうに薄らと見える劉漸の姿。その姿がやがて消え、ケルベロスは目を凝らした。


(何処へ行った?)


 魔力を失った今のケルベロスでは、劉漸の気配を探れず完全に姿を見失っていた。

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