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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
197/300

第197話 また戦場に

 一週間と言う時はあっと言う間に過ぎた。

 パルの海賊船は先日ようやくクレリンス大陸の主要島であるリックバードへと到着した。

 航海中は特になにか問題がおきると言う事も無く、順調にリックバードまで辿り着いたが、その順調さが逆に不気味で、船内はやけにピリピリしていた。

 リックバードに到着すると、龍馬と秋雨は領主である天童と剛鎧への報告へと向かい、ミィはいつも通り買出しに町へとでた。

 ケルベロスは失った魔力を補う為に精神力を強化に努め、セラはパルに魔力制御のやり方を教えていた。

 これは、パルから直々にお願いされ、セラもまだ制御の鍛錬をしないといけない為、一緒に鍛錬しようと言う事になったのだ。

 元々、魔族と人間のハーフであるパルには多少なりに魔力が宿っており、今までは銃や弾丸を媒介に精神力を魔力へと変換し、それと魔力を混合し使用していた。

 パルがそうしていたのは、ハーフの為魔力量が少ないと言うのもあるが、一番の理由は属性変化を加える為だ。

 パルの使用する銃は四丁あり、それぞれ異なる魔法石がその銃身に練りこまれている。これに、魔法石の練りこまれた弾丸を詰める事により、精神力でその属性へと魔力を変える事が出来、極僅かな魔力量でも膨大な力を生むことが出来るのだ。

 しかし、現在は魔力よりも精神力に頼りきりになっている。極僅かな魔力でも魔力コントロールの出来ないパルだと、大幅に魔力を消費してしまい、すぐに疲れてしまうのだ。

 だが、精神力で生み出した魔力と、純粋な魔力とではその質に差が生じる。それは、絶対に精神力で生み出した魔力では越える事の出来ないものだった。

 だからこそ、パルは魔力の制御をセラに教わる事を決断した。それが、自分が強くなる為、少ない魔力量を最大限に生かす為に必要不可欠だとパル自身が悟ったのだ。


 各々が自分なりに鍛錬をする中で、レッドは一人悩んでいた。

 何をすれば良いのか、道が見えなかったのだ。

 精神力を鍛える?

 いや、違う。今更、精神力を鍛えた所であまり意味が無い。

 なら、聖力を?

 これも違う。聖力は生まれ持った資質。鍛えてどうにかなるモノではない。そもそも、聖力はヒーラーなどの回復・補助がメイン。鍛えた所で戦闘では役に立たないのだ。

 だったら、魔力を?

 いや、これだけは絶対に嫌だった。魔族でもないのに、魔力など……。それに、レッドにとってこの力は嫌な記憶を呼び覚ます不快な力だった。

 様々な事を考えるが、結局行き着く答えは――聖剣がない時点で、レッドには戦う術などない、と言う事だ。

 深いため息を漏らすレッドは、甲板で精神統一を行うケルベロスへと視線を向ける。白髪を潮風にたなびかせ、瞼を閉じ、静かな面持ちでその体に精神力をまとわせるケルベロスに、レッドは目を細めた。



 領主の屋敷では、龍馬と秋雨が報告を行っていた。

 板張りの床に坐する二人は、上座に座る天童へと顔を向ける。

 結った長い黒髪を揺らす天童は、桜模様が入った羽織の袖口をたるませ、右手で頭を掻く。

 色白でややふけ顔の印象の強い天童の顔は、二人の報告にいつに無く老け込んで見える。

 正直、またこの島で何かが起こるなど、考えたくもなかった。と、言うよりもまだ復興も終わっていないのに、何故また、と思っていた。

 細長い糸目をより一層細くする天童は、右手で顎を軽く撫で、深々と吐息を漏らす。


「そうか……また……」

「はい。すみません」


 深々と頭を下げる秋雨は、床に額をあて唇を噛み締める。

 本来なら、あの男をあの場所で仕留めなければならなかったのだ。

 頭をあげる事無く動かない秋雨に、天童は右手を額にあて天井を見上げた後に、静かに口を開く。


「秋雨……顔を上げろ。別にお前達を責める気は無い。それに、お前達の責任はないのだろ?」


 天童の落ち着いた声に、秋雨は拳を握り締めると、静かに顔を上げ真剣な眼差しを向ける。


「それが、その襲撃をたくらむ男は――」

「元・静明流剣術道場、師範だった男……だろ?」


 襖が開き、雄々しい声が部屋へと響いた。


「剛鎧さん! どうしてそれを?」


 思わず振り返った龍馬がそう声を上げると、開かれた襖へともたれかかる剛鎧が、腰に右手をあて佇んでいた。

 逆立てた紺色の短髪に、綺麗な小麦色の肌の剛鎧は、幼さの残る顔を龍馬へと向け、軽く右手を挙げやがて腕を組んだ。

 その表情はやはり険しい。考える事は天童と同じだった。

 しかし、そんな事よりも、龍馬と秋雨が気に掛かったのは、何故、剛鎧があの男の事を知っているのか、と言う事だった。

 疑念を抱く二人に対し、剛鎧は深い息を吐き出すと、淡い青色の瞳を向け答える。


「お前達がやられたって言うのも、色々と聞いてる」

「き、聞いてるって……一体、誰から?」

「色々な筋からだよ。それより、彼は一体何者なんだい?」


 静かにそう答えた天童は秋雨へと目を向ける。


「私達の調べでは、彼は何年も前に死んでいる事になっているんだが?」


 天童の問いに対し、秋雨はその瞳を僅かに曇らせる。


「すみません。私も詳しく知らなくて……それに、あの人が突然いなくなり……」

「突然いなくなった?」

「はい。私が静明流にいたのは、龍馬が紅蓮流にいた時期と一緒で……」

「そうか……お前ら、同じ時にコッチに戻ってきたんだったな」


 腕を組む剛鎧がそう呟き、小さく頷く。

 龍馬と秋雨の二人が丁度留学から戻ってきた時、紅蓮流・静明流、共に消えてしまった。

 紅蓮流はバレリアの暴君バルバスの手によって、そして、静明流は師範が突如として消えた事によって。

 一説では、紅蓮流の仇をとるために王都に乗り込み、バルバスの手によって処刑されたと言う噂が流れたが、真実は闇の中だった。

 複雑そうに俯く剛鎧は、右手でコメカミの辺りを掻くと、ゆっくりとその青色の瞳を天童へと向ける。


「どうする? またここが戦場になるぞ」

「ああ……そうだな……」


 険しい表情を崩さず、天童はそう答え、右手で頭を抱えた。



 イエロによって無人島へとつれてこられたクロトは、島の海岸で精神統一を行っていた。

 砂浜には複数の抉れた跡が残り、波がその抉れた跡へと海水を流し込んでいた。

 木刀の形へと削り出した木の棒を上段に構え、半歩前へと踏み出した左足へと力を込める。


「紅蓮流――」


 そう口にし、一瞬にして魔力を木刀へとまとわせた。

 瞬間に赤黒い炎が木刀を包み込み、一瞬にしてそれを消し炭にする。


「…………」


 静寂が辺りを支配し、小波の音だけがその場に流れる。

 目を細めるクロトは、ゆっくりと頭上に構えていた手を下ろし、その手を真っ直ぐに見据えた。


「ですよねぇー。何となく、こうなる気はしてたんだよねぇー」


 目を細めたままそう呟いたクロトはその手を開き、炭へと変ったその木の枝を砂浜へと落とした。

 つい先日、クロトはパルから貰った練習用の剣を壊してしまった。

 何度も魔力を練りこみ、様々な属性の技を練習していた為、刃が耐え切れず砕けてしまったのだ。

 それと同時に、イエロに騙された指に嵌めていた魔力を抑制するリングも砕けてしまい、それも刃が砕けた要因になったのではないか、とクロトは思っていた。


「はぁ……後二・三本貰っとくべきだったなぁ……」


 水平線のかなたを眺め、クロトは呟いた。

 それから、もう一度深々と息を吐くと、肩を落とし、


「もしかして、イエロ、俺の事忘れてないだろうな?」


と、胸のうちに秘めた不安を口にした。

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