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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
196/300

第196話 リックバードへ

 パルの海賊船はリックバードへ向け、航路を取っていた。

 だが、船内にクロトの姿はなかった。

 その代わりに、傷を完治させた龍馬と秋雨の二人の姿が船内にはあった。


 遡る事数時間前――


「はぁ? ここに残る?」


 港に響くパルの声に、クロトは両手で耳を塞ぐ。

 呆れ顔のケルベロスは腕を組み、セラは不満そうに頬を膨らせていた。

 出航しようとした矢先、クロトが船を降り言ったのだ。


「悪い。俺、魔剣が出来るまでここに残るよ」


と。

 パルの反応は当然の反応で、ケルベロスもセラも擁護しない。

 腰に左手をあて、右手で頭を抱えるパルは、眉間にシワを寄せ大きくため息を吐く。

 ここに残って、どうやってリックバードに行くつもりなのだろうと、皆が思う。

 その皆の疑問を解消したのは、まん丸のニワトリ型着ぐるみに身を包んだイエロだった。

 相変わらずの愛らしい笑顔を向けるイエロは、ピシャッと可愛らしく敬礼をし宣言する。


「クロクロは私が責任を持ってリックバードに届けるのですよ。なので、皆さんはリックバードで、町の皆さんが傷つかない様に、また彼を討つ為に、色々と働きかけて欲しいのですよ」

「移動手段は分かりましたが、一体、どうしてここに残る必要があるんですか? 一緒に向こうで剣が出来るのを待ってもいいのでは?」


 イエロの言葉に、レッドは赤紫の髪を揺らしながらそう尋ねる。

 イエロは隣りに佇むクロトを横目で見据え、クロトは船の手すりに肘を置くレッドを真っ直ぐに見上げる。

 強い意志を宿すその眼を、クロトは二度三度と瞬きすると、右手で頭を掻く。


「もう少し、教えてもらった技の練習がしたいんだ。本気で。流石に船でそんな事して沈んだりしたら困るだろ?」


 困ったような笑顔を向けるクロトに、レッドは呆れた様に息を吐き、二度頷いた。


「そうですね。確かに、本気で技の練習されて船が破損したら全員間に合いませんから……」

「と、言うか私の船でそんな事させるわけないだろ」


 二人の会話に耳を傾けていたパルが、胸を持ち上げる様に腕を組み不満そうにそう口にし、二人を睨む。

 その目に苦笑するクロトとレッドは思わず視線を逸らした。

 一方、クロトがここに残る事を不満そうに頬を膨らし眺めるセラは、肩口で揺れる茶色の髪を耳へと掛け呟く。


「なら、私も残りたーい。空間転移でいけるなら、いいでしょ?」


 そう声をあげ、セラは隣りに並ぶケルベロスへと目を向ける。

 懇願するようにセラは赤い瞳を潤ませるが、ケルベロスは鋭い眼差しを向け強い口調で、


「ダメに決まってるだろ」


と、言い放つ。

 その言葉に「ぶーっ」と唇を尖らせセラは頬を膨らませた。

 しかし、ケルベロスはそれでも表情は変えず、クロトを真っ直ぐに見据える。

 そんなケルベロスと、クロトの目が合う。暫し視線が交錯し、ケルベロスはクロトへと告げる。


「大丈夫なのか? 間に合うのか?」

「さぁ? そればっかりは、竜胆に頑張ってもらうしかないな」


 笑いながらクロトが答えると、ケルベロスは眉間に深いシワを寄せる。

 それから、小さく息を吐き、ケルベロスは腕を組んだ。


「竜胆の件じゃない。お前の話だ。間に合うのか?」


 強い眼差しで睨むケルベロスに、クロトはふっと息を吐き一度瞼を閉じ、ゆっくりと開く。


「ああ。大丈夫。間に合わせてみせる」


 穏やかだが非常に強い想いの宿ったその眼差しに、ケルベロスは瞬きを二度、三度と繰り返した後、


「そうか」


と、静かに呟き歩き出した。

 ケルベロスの姿が見えなくなり、クロトは微笑する。

 信頼されていると言う事が、妙にむず痒く、恥ずかしかった。

 二人の様子にセラは一層不満そうに頬を膨らせ、「なんだかなぁー」と小言を呟き船の奥へと歩き出す。

 レッドは静かに息を吐くと、パルへと目を向ける。


「じゃあ、行きましょうか?」

「ああ。とりあえず、遅れるなよ」


 パルはそう言い、クロトの右肩を左拳でトンと優しく小突いた。

 そんなパルにクロトは小さく頷く。


「ああ。分かってる。皆も気をつけて」


 クロトがそう言うと、パルは軽く右手を振り、レッドは「ああ」と静かに答えた。

 海賊船が静かに出港する。それを、クロトは港から見送った。

 黒のローブに身を包み、頭には深々とフードを被って。

 着ぐるみのイエロは船を見送ると、クロトの方へと顔を向け笑う。


「ではでは、私達も行くのですよ」

「えっ? 行くって?」

「そりゃ、人の居ない場所なのですよ」

「えっ? えぇっ! な、何で? 何で、そんな所に?」


 驚きうろたえ、顔を真っ赤にするクロトに対し、イエロは不思議そうな表情を向ける。

 クロトの考えている事とイエロの考えている事は全く違い、イエロは小さく咳払いをすると、


「変な事ではないのですよ」


と、頬を僅かに赤く染めた。

 恥ずかしそうに俯くクロトは「そ、そうですよね」と答え、一層顔を赤くした。



 この辺りは無人島が多数存在する。

 イエロはその内の一つの島へとクロトを連れて行った。

 流石にあの島で技の鍛錬をするのは目立ちすぎるし、何れ人を巻き込み大事になるかもしれないと、イエロは判断したのだ。

 もちろん、無人島だからと言って何をやっても良いとは言っていない。生態系を壊すのはいけないし、自然を壊すのもよくない。

 その為、イエロは魔力を抑制するリングをクロトへと手渡した。


「これは?」


 受け取った真っ黒な宝石が埋め込まれた錆びれたリングを怪訝そうにクロトは見据える。

 とても魔力を抑制するような代物には見えなかった。と、言うより、本当に指に嵌めていいものか、疑いの眼差しを向ける。

 よくRPGなんかにある呪われた指輪とかじゃないだろうか、嵌めたら外せないんじゃないか、そう言う気持ちだった。

 クロトの表情に、イエロは満面の笑みを浮かべる。


「大丈夫なのですよ。怪しい代物じゃないのです」


 そう断言するイエロを信じ、クロトは恐る恐るそのリングを右手の中指へと嵌めた。リングは少々大きめで、クロトの指にもすっぽりと納まった。


「あっ……ちょっと大きいな。これじゃあ、すぐに――」


 そう言い掛けた時、クロトの指をリングが締め付けた。


「イッ!」


 思わずそう声をあげるクロトは、瞬間的にそのリングを指から外そうと力を込めた。

 だが、リングは確りと肉に食い込みピクリとも動かない。逆に激痛が指を襲う。


「うっ、てててっ!」


 声を上げるクロトに対し、イエロはポンと手を叩き、


「そうだったのですよ。それは、一定量の魔力が溜まらないと外せない様になっているのですよ」


と、思い出したように満面の笑みで告げた。

 奥歯を噛み締め、激痛に耐えるクロトは、そんなイエロを睨む。

 そう言う事は嵌める前に言ってくれと、言いたかったが、あまりの激痛に声も出す事が出来ず、クロトは目だけでそれを訴えた。

 その眼差しにイエロはえへへ、と笑い右手で頭を掻いた。


「ま、まぁ、魔力が溜まれば自然と外れますし、気にしちゃダメなのですよ。で、ではっ! 私はここで失礼するのです!」


 と、言い残し、イエロは消えた。

 空間転移でその場を逃げ出したのだ。

 一人海岸に残されたクロトは、小波の音を聞きながら呟く。


「うぐっ……はめられた……いや、嵌めたのは自分でか……」


と、一人わけの分からない事を言い、ガックリと肩を落とした。

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