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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
195/300

第195話 クロトの才能?

 一週間程が過ぎていた。

 そろそろ、出発しなければ、イエロが予言したリックバード襲撃に間に合わない期間に突入していた。

 そんな状況にも関わらず、未だ魔剣は完成せず、クロト達は島に滞在したままだった。

 クロトはと、言うと――


「まだ遅いぞ。そんなんじゃダメだ!」

「うっす!」


 診療所の裏手にある林の中で、指導を受けていた。

 指導を行うのは、龍馬、秋雨、エルドの三人。

 火属性の技を龍馬が、水属性の技を秋雨、雷属性の技をエルドが教えていた。

 全ての属性を扱えるクロトにとって、この三人から技を教えてもらう事は、凄く助かる。

 鍛錬用にパルから譲ってもらった剣を振り上げるクロトは、その刃に魔力を込め一瞬にして赤黒い炎を灯す。

 そして、クロトは声をあげる。


「火斬!」


 炎をまとった剣をクロトは勢い良く振り下ろす。熱風が地を駆け、振り下ろした刃は火の粉を舞わせる。

 切っ先が地面を叩くと、地面に亀裂が生じ赤黒い炎が火柱となり噴き上がった。


「まぁまぁだな」

「はぁ……はぁ……」


 頭の後ろで手を組みそう言う龍馬に、クロトは膝に手を置き俯く。

 火斬の感覚は業火爆炎斬と似ている所もあり、何とかここまでモノにする事が出来た。

 と、言っても龍馬からすれば、やはりまだまだのようで、松葉杖を着き立ち上がるとクロトの方へと歩み寄る。


「いいか、火斬は炎を刃にまとわせるんじゃなく、炎を刃の中に留めるんだ」

「炎を刃に留める?」


 膝に手を着いたまま顔を上げるクロトは、苦しそうな表情を浮かべ龍馬を見据える。

 すでに六時間ほどぶっ通しで技の練習を反復していた為、魔力の消耗が激しかった。

 使い慣れている火属性の場合は魔力の消費量も抑えられるが、そのほかの水の雷は余分に魔力を消費してしまう。

 これも、早い内に直さないといけないと、クロトは荒い呼吸をしながら思う。

 明らかに疲れの色の見えるクロトに、秋雨は静かに口を開く。


「とりあえず、少し休憩にしましょう。魔力も回復させなければいけませんし」


 穏やかな秋雨の言葉に、腕を組み木の幹に背を預けるエルドは鼻から息を吐き出す。


「ふぅ……そうだな。魔力の回復は思っているよりも遅いからな。あまり消耗して、肝心な所でガス欠になられても困る」

「は、はは……そ、それも……そうだね……」


 乾いた笑い声を発するクロトは、そこでようやく腰を下ろす。

 後ろに手を着き、空を見上げるクロトは、大きく口を開け荒い呼吸を繰り返す。


「しかし、一週間そこそこでよくもまぁ、ここまでマスターしたもんだな」


 龍馬が松葉杖を着きながら秋雨の方へと歩み寄りそう口にした。


「そうですね。まさか、私も自分が長い時間を掛けて覚えた静明流の剣術をそこまで簡単に覚えてしまうとは思いませんでしたよ」


 感服する秋雨は半ば呆れた様に肩を竦め、首を左右に振った。

 秋雨が静明流の剣術を覚えるまで、およそ五年掛かった。もちろん、下積みから技を教えてもらうまでに三年と言う時間があったため、技を覚えるのに掛かった時間は実質二年だが、それでも結構な時間を費やした。

 その二年と言う期間を、まだまだ荒削りとは言え、クロトは一週間で使いこなせる状態まで成長していた。

 しかし、龍馬と秋雨の表情は浮かない。

 当然だ。今更、自分達の技を教えた所で、あの男には通用しない事は分かりきっている事だからだ。

 それに、完全に使いこなしている龍馬と秋雨と比べ、まだまだ荒削りなクロトの技の威力では雲泥の差がある。

 それを考えると、やはり今のままでは絶対に負けるだろう。


「はぁ……」


 深いため息を吐いたのは秋雨だった。考えれば考える程、憂鬱になってしまっていた。

 龍馬も同じだった。何度も思い出す。全ての技を打ち砕かれた時の事を。

 悔しくて拳を握り締める龍馬は、瞼を閉じ深く息を吐いた。

 どうするべきなのか、二人はすでに答えを出している。それは、自分達の持つ剣術を進化させる事。新たな技を生み出す事だった。

 もちろん、難しい事かもしれない。それでも、そうしなければならない、分岐点に立たされているのだ。


「まぁ、俺らに教えられる事は全部教えたつもりだ」


 唐突に龍馬がそう切り出す。

 その言葉にクロトは慌てて姿勢を正す。

 すると、今度は秋雨が薄らと口元に笑みを浮かべる。


「まだ荒削りで、未完成な部分も多い。でも、私はそれで良いと思っているよ。下手に型どおりに教えるよりも、自分で考えて、自分流に技を変えていくといい」


 と、秋雨は告げる。

 龍馬も秋雨も思っていた。

 正しく型どおりの技を教えるんじゃなく、土台となる基礎を教え、それを軸にクロトが自己流にアレンジしていければ良いと。

 だから、彼らは自らの得意とする技の一つだけを教える事にしたのだ。

 龍馬は一刀の火斬、秋雨は一の太刀の五月雨を。

 どちらも、二人が最も使用頻度の高い技で、一番最初に教わった技でもあった。

 故に、これが、二人の流派の基礎なのだ。


「ありがとう。助かったよ」


 クロトは二人に頭を下げる。

 すると、木の幹にもたれていたエルドは、深く息を吐きクロトを見据える。


「それより、大丈夫なのか? 私は雷は専門外だったが、あの程度の技で?」


 不安げにエルドはそう言う。

 元々、エルドは雷属性が得意と言うわけではない。それでも、一応、雷属性の技が使えると言う事もあり、エルドに技を教えてもらったのだ。

 教わったのは雷迅と言う光速の突き。雷属性の特性である破壊力を一点に集中し、貫通能力に特化した技だ。

 破壊力は申し分ないが、もちろん難点もある。放つのは確かに光速で目にも止まらぬスピードだが、雷を溜めるのに時間が掛かってしまう、と言う実践では使い物にならないモノだった。

 それでも、クロトはその技を教わり、ある程度まで使えるようになっていた。


「あんなもの、実践では使い物にならないだろ?」

「確かに、溜めは時間が掛かるけど、威力は十分だし、切り札として隠し持っておくのも脅威的じゃないかな?」


 クロトはそう言い満面の笑みを浮かべる。

 一応、クロトが色々と考えていると言う事を知り、エルドは「そうか……」と小さく呟き腕を組んだ。

 それから、ふと疑問を抱く。


「そう言えば、他の二つの属性はどうする気だ? 誰かに教わったのか?」

「あーぁ……うん。教わったって言うか一度、目にした事があるから、それをマネてみようかと」


 安直なクロトの考えに、龍馬、秋雨、エルドの三人は呆れ冷めた眼差しを向ける。

 見ただけで技を使えるようになれば、誰も苦労しない。

 そう思っていた。

 だが、そんな三人の考えとは裏腹にクロトは、右手で頭を掻きながら、


「とりあえず、ある程度形にはなってるよ」


と、軽い口調で呟く。

 その言葉に、三人は驚き目を丸くする。


「形になってるって……」

「どんなけ才能あんだよ……」

「全くだ……」


 秋雨、龍馬、エルドの順に呟き、三人はほぼ同時にため息を吐いた。

 一方、クロトは、訝しげに首を傾げ、右手の人差し指で頬を掻いていた。

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