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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
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第193話 イエロの涙 ミィの心配

 昼頃の事だった。

 診療所近くの茂みの中で、着ぐるみを着たイエロは、その手に小さな水晶の様なものを持ち、ブツブツと独り言を呟いていた。

 まん丸の真っ白な着ぐるみは嫌がおうにも目立っており、診療所に向かっていたレッドは、その姿を肉眼で確認し、苦笑する。


(アレで、隠れているつもりなのかな?)


 思わずそんな事を思うレッドだが、流石に同僚のその失態を見逃すわけにも行かず、茂みの方へと歩み寄り、話が終わるのを待つ。

 茂みの向こうから二つの話し声が聞こえる。

 一つはイエロ。もう一つは――


(アオか?)


 同じ、ギルド連盟に所属する連盟の犬こと、アオだった。

 最近開発された小型の通信用オーブを使っているのだろう。

 一応、レッドも支給されたが、基本的に自分から通信する事は無いため、使い方は殆ど知らなかった。

 特に盗み聞きするつもりはなかった。

 ただ、イエロにこんな所で通信するのはよくないぞ、と忠告したかっただけだった。

 だが、レッドの耳に届く。イエロの心配そうな声が。


「アオアオには辛い選択をさせてしまって……」


 今にも泣き出しそうなイエロの表情が茂みの合間からレッドの視界に入った。

 痛感する。今の自分がどれ程無力な存在なのか、イエロが自分よりもアオをどれだけ頼りにしているのか、と言う事を。

 当然と言えば当然だろう。まだレッドは連盟に入って日が浅い。浅いと言っても二人よりはと言う意味だ。

 その為、まだ二人の様に信頼関係が築けていないのだ。そう、レッドは思っていた。

 やがて、イエロとアオの通信が終わり、声が途切れる。

 小型通信用のオーブをしまうイエロは、深く重々しい吐息を漏らすと右手で目元をなでた。まるで涙を拭うように。

 そんなイエロの姿に、一瞬躊躇するが、レッドは意を決する。ここで、出て行かないと、今後顔を会わせ辛い、そう考えたのだ。

 だから、出来る限り自然に、声を上げる。


「あ、あれ? イエロ? そんな所で何をしてるんですか?」


 少々、わざとらしい感じになってしまったが、これはレッドの演技力不足の所為だ。恐らくアオならば、もっと自然に振舞う事が出来ただろう。

 そんな事を思いながらも、レッドはイエロへと右手を挙げ、微笑する。

 レッドの声に振り返ったイエロは、僅かに赤くなった目を潤ませていた。

 ドキッとするレッドだったが、イエロはすぐに顔を伏せると一瞬にして明るくいつも通りの笑みを浮かべ声を上げる。


「おおっ! レッドっち。どうしたのですか? こんな所で?」


 自然な感じでそう言うイエロだが、その声は少々鼻声になっていた。

 だが、レッドはあえて気付かないフリをし、話を進める。


「それは、こっちのセリフですよ。こんな所で何をしているんですか? そんな格好で、目立ってますよ?」


 穏やかな口調でレッドはそう言い、右手で頭を掻く。

 赤紫の髪を揺らし、レッドは穏やかに笑う。

 レッドのその笑顔に、イエロもニコニコと笑みを浮かべ答える。


「ちょっと、アオアオと通信をしていたのですよ。連絡事項は大切なのですよ」


 右手の人差し指を顔の横に立て、イエロはそう言う。

 その答えにレッドは微笑し、俯く。


「そう……だね。それで、アオはなんだって?」

「アオアオなのですか? えっと……じゅ、順調みたいなのですよ? さぁ、私達も行くのですよ!」


 ピョンピョンと跳ねながらイエロはその場を離れる。

 イエロの背を見据え、レッドは深く息を吐いた。今の自分ではやはり、何の力にもなれないのだろう、そう改めて痛感する。



 時を同じく――。

 クロトは船の甲板で木刀を構えたまま静止していた。

 瞼を閉じ、精神統一を行うクロトは頭の中でイメージする。新たな技を生み出そうと何度も何度もイメージしていた。

 しかし、イメージするだけで、それを実行に移そうとはしない。

 いや、移そうとしないと言うよりも、それが出来るイメージが全くしなかった。

 潮風がクロトの短くなった黒髪を撫で、船を僅かに揺らす。

 そんな折、船室から出てきたパルは、微動だにしないクロトの姿に首を傾げ眉間にシワを寄せる。


「何してるんだい? クロトは?」


 口に棒付きのキャンディーを銜えるパルは、甲板の隅で胡坐を掻き荷物のチェックをするミィへと尋ねた。

 朱色の髪を肩口で揺らすミィは、球体の薬が入った瓶の中身をガラス越しに見据えながら答える。


「何でも、新たな技を編み出す為のイメージトレーニングらしいッスよ?」


 瓶を軽く振ったミィはそれをカバンへとしまい、次の商品へと手を伸ばす。

 主に薬品の類が多く、瓶詰めにされた液体やら錠剤、粒など様々な薬が並んでいた。

 薬品と言うのはやはり、この世界でも希少なモノで、高価格で取引される代物だ。

 それに、国や地域、人間や魔族など種族によっても薬は変っており、様々な効果・効能がある。

 故に、ミィは町に来ると必ず薬は買い込む様にしていた。


「これ全部商品なのかい?」


 沢山並ぶ薬品を見て、パルがそう尋ねると、ミィは茶色の小瓶に入った液体状の薬を手に取り唸り声を上げる。


「うーん……全部が全部ってわけじゃないッス」

「じゃあ、何でこんなに?」


 胸を持ち上げる様に腕を組むパルは、訝しげに首を傾げる。

 手を休めたミィはそんなパルを見上げ、心配そうに微笑した。


「いつでも怪我人を治療できるようにしたいんスよ。戦いに巻き込まれる事も多いッスし、怪我する人が沢山居るッスから」


 ミィの言葉にパルは「そっか」と答えた。

 確かに、ここ最近戦いに巻き込まれる事が多い。そして、多くの怪我人が出る。

 現に、今回も多くの者が怪我を負った。必ずしも医療の心得のある者がいるわけではない為、そうなった時の為に、ミィは多くの薬品を持ち歩くようにしていたのだ。

 ミィが薬を大量に常備している理由に納得し、パルは深く息を吐き出した。

 パルが納得すると、ミィは薬のチェックをしながらそれをカバンへと戻していく。


「とりあえず、自分は自分の出来る事をするだけッスから」

「そうか。なら、私も私に出来る事をしなきゃいけないね」


 ミィの言葉にパルはそう呟き眉間にシワを寄せた。

 パルもこのままではいけないと思っていた。もっと力をつけなければいけないと、改めて分かった。

 しかし、どうすればいいのか、何をしたら良いのかが分からない。

 だから、パルは木刀を持って佇むクロトの姿に、少なからず感心していた。

 自分のすべき事、やりたい事をちゃんともって動いている。そんなクロトがちょっとだけ羨ましかった。


「さて……私は、どうしたらいいんだか……」


 腕を組むパルは静かにそう呟き、ミィは不思議そうに小首を傾げたが、何も聞かず荷物の整理を続けていた。

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