表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
181/300

第181話 海底都市

 病室の前にはミィとケルベロスの二人が残っていた。

 腕を組み壁に背を預けるケルベロスは、瞼を閉じ口を噤み、長椅子に腰掛けるミィは、右足を小刻みに揺らしながらお腹の上で両手を組んでいた。

 未だに目を覚まさないクロトが心配でたまらなかった。

 すでに、三日が過ぎようとしていた。約束の日まであと二日。

 セラには集中して魔法石を造って貰う為に、クロトの事は話していない。その為、今も尚、一人船室で膨大な魔力を消費しながら魔法石を製造している。

 すでに、火、水、土、風の魔法石が造られており、魔法石造りも最終段階に入っていた。だからこそ、今は心配掛けたくなかったのだ。

 深刻そうに俯くミィは、深く吐息を漏らすと、瞼を閉じる。

 不安で不安でたまらなかった。その為、落ち着かず、ミィは何度も顔を上げてはため息を吐く。

 ミィのその様子を見かね、ケルベロスは静かに瞼を開くと眉間にシワを寄せる。


「おい。少し落ち着いたらどうだ?」

「お、落ち着いていられないッスよ! クロトが危険な状態なんスよ?」


 瞳を右往左往させながらそう声を上げるミィは、目を潤ませケルベロスを真っ直ぐに見据える。

 ミィの不安はケルベロスにも伝わっていた。もちろん、ケルベロス自身も心配ではあった。

 ケルベロスもクロトの傷はその目で確認した為、非常に危険な状態である事は分っていた。

 しかし、ミィの様にいつまでも不安がっていても仕方ないと、ケルベロスはやけに落ち着いていた。



 光の届かぬ海の底。

 そこに一際眩く輝くドーム状の頑丈な膜に覆われた巨大な都市が存在していた。

 半径数十キロ程の広大な面積を誇る都市の中心に、都市の十分の一を占める程の広さと都市で一番の大きさの建造物がそびえていた。

 その建物こそギルド連盟の本部だった。そして、このドーム状の膜に覆われた巨大な都市こそ、ギルド連盟が高度な技術と長い歳月を掛けて創り上げた海底都市だ。

 ドーム状の膜は純度の高い水の魔法石数十個により形成され、どれ程の強い衝撃を受けても決して壊れる事のない。

 ドーム状の中に広がる酸素は、風の魔法石により生み出され、作物を育てる為の土は土の魔法石により十分な栄養を得ていた。

 そして、ドーム内の電力・その他のエネルギーを補うのは火の魔法石と雷の魔法石。

 そのすべての魔法石が保管・管理されている場所が、ギルド連盟の本部だ。

 この海底都市の存在を知っている者はギルド連盟でもトップのメンバーだけで、ここで暮らしている者達は、この都市が海底にある事など知る由もなかった。

 そんなギルド連盟の本部に、アオ達は居た。つい数日前に無事帰還したのだ。

 外での活動が主なアオにとって、このドームの中は息苦しく退屈な場所だった。その為、浮かない表情で廊下を歩んでいた。


「なんだよ? リーダー。久しぶりの帰還だろ? もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ?」


 茶髪を揺らすライは、頭の後ろで手を組み背を仰け反らせる。

 そんなのん気なライだが、ライも本当はこの場所が嫌いだった。ドーム内での生活は出会いがない。故に、女好きなライには牢獄に入れられたも当然の場所だった。

 だが、それ以上に嫌なのが、このギルド連盟の本部だ。堅苦しく、常に見張られている感じがするのだ。


「はぁー」

「何だよ? ため息なんて……」


 あからさまに不満そうなアオを、ライは横目で見据え呆れていた。

 ここまできたらもう覚悟を決めてもいいものだが、アオは未だに嫌々と駄々を捏ねていた。

 しかし、駄々を捏ねた所で立ち止まるわけにも行かず、二人は目的の部屋の前に辿り着いた。

 執務室と書かれたプレートがドアの上に貼り付けられたその前に佇むアオとライの二人。

 肩を落とすアオは唸り声を上げ、瞼を閉じる。やはり、ここに来るのは気が進まなかった。とは言え、報告を怠るわけにも行かず、アオは深々と息を吐き出すと背筋を伸ばした。

 一方、ライも頭の後ろで組んでいた手を解き、髪を手グシで整えて肩を二度程回す。


「何でお前は嬉しそうなんだ?」


 妙に気合を入れるライに対し、アオは不満げにそう言い放った。

 すると、ライはニッと笑みを浮かべ右手の親指を立てる。


「当然だろ? 執務室には彼女がいるからな!」

「かの……じょ?」


 ライの発言に、思わずアオはそう呟き目を細める。それから、左手で頭を抱え小さく首を振った。


「おいおいおい。お前は、アイツを女としてみてるのか?」

「当たり前だろ? リーダー。てか、リーダーこそ、彼女を女として見てないのか?」


 この発言に唖然とするアオは、もう一度首を振ると蔑む様な目をライへと向ける。


「どうかしてるぞ。あんなのを、女としてみるなんて……」


 アオの声などもう聞こえていないのか、ライは鼻歌を歌い身なりを整えていた。その為、アオは呆れた様に深いため息を吐き、頭を掻き毟り執務室のドアへと手を伸ばした。

 ドアノブを回し、息を呑み込むアオは意を決しドアを開いた。


「おっかえりー! 舞ってたよー。君達が戻るまで、ずっと!」


 ドアを開くと同時に、幼さの僅かに残った女性の声が響き、二人の目の前にまん丸の奇妙な生物が文字通り舞っていた。

 軽快なステップの後、真っ白な羽毛に包まれたまん丸な生物は両手――いや、両翼を広げると、右翼を曲げ敬礼するようにそれを頭上に生えたトサカへと当てる。


「ご苦労様なのですよー!」


 明るいその声に、アオは額を左手で押さえ、鼻から静かに息を吐いた。

 その一方で、ライはその声に目を輝かせ、アオを押しのけ執務室へと足を踏み入れる。


「イエロちゃん!」


 ライがそう声を上げると、まん丸の羽毛に包まれたその生物は両翼をぱたつかせ、二度、三度と跳ねる。


「久しぶりなのですー。ライライ!」


 そう声を上げたまん丸の生物に対し、アオは呆れ顔を向ける。

 このまん丸の生物――いや、ニワトリ型の着ぐるみを着ている彼女こそ、この執務室の管理者にして、雉と呼ばれる者だった。

 ニワトリの顔の部分から童顔の愛らしい顔を出すイエロは、淡い青色の瞳を輝かせクルッと一回点し、尾を二度振った。


「どうなのですか? 似合ってますかぁ?」


 少々舌っ足らずなイエロに対し、ライは満面の笑みを浮かべ答える。


「似合ってる! すっげぇー似合ってるよ!」

「えへへー。今回のは力作なのですよー」

「いや、いつもと変わらないだろ。それより、報告――」

「アオアオは、注意力が足りないのです! だから、いっつも負傷しちゃうんですよ」


 真っ白な翼を体の前で組むイエロが、不満そうに頬を膨らせ唇を尖らせる。

 イエロの格好はいつもこのニワトリ型の着ぐるみだ。何着あるのかは定かではないが、彼女がこれ以外の格好をしている所をアオは未だに目にした事がない。

 そんなアオの呆れた眼差しに、イエロは右手に持っていた黄色のクチバシを口に付け、


「だから、レオナっちに嫌われるのですよ」


 クチバシをパクパクとさせながらそう言うイエロに、アオは青筋を浮かべ「嫌われてねぇーよ」と表情を引きつらせる。

 明らかに不快感をあらわにするアオだが、イエロは気にせず尾を振りながらカウンターへと移動し、資料をその手に取った。


「私の情報だと、北の大陸では和平条約を結び、停戦したとなっているのですよ。合っていますか?」

「ああ。だが、どうやらそれは表向きで、裏では色々と画策している様だ」


 アオが肩を竦めると、イエロは持ちにくそうな右翼でペンを握り資料に書き込む。


「ふむふむ。なるほどなのです」


 小さく頭を上下に揺らすイエロは、唇にペンの頭を銜え、唇を尖らせる。


「うーん。大体、レッドっちと同じ報告なのですよ」

「当たり前だろ。と、言うかレッドから報告があったらな、俺らワザワザ戻ってくる必要無いんじゃないか?」


 目を細め、不服そうなアオに、イエロは妙な機械のボタンを押し、部屋の奥に備え付けられていた大型モニターへと電源を入れた。

 ブーンと音を立てるモニターに、アオとライは目を向け、やがて顔を見合わせる。

 そんな二人に何の説明も無く、イエロは告げる。


「西のバレリア、東のクレリンス。二人はどっちに行きたいのですか? 私のオススメは、西のバレリアなのですが、二人は先日もバレリアに行って来たばっかりなのですよねー」


 能天気なイエロの発言にアオは眉をひそめ、慌てた様子で声を上げる。


「ちょ、ちょっと待て! な、何の話だ? ちゃんと説明しろ!」

「そうだよ。イエロちゃん。唐突過ぎて話が見えないぞー」


 訝しげなアオと、苦笑するライへと振り返ったイエロは、キョトンとした表情で首を傾げる。

 そして、右翼の先を口元へと当て、暫し考え込み、やがてニパッと笑みを浮かべた。


「次の任務についてなのですよ?」

「次の任務? 俺達は戻ってきたばっかりだぞ? 少し位休む時間を――」

「事は一刻を争うのですよ。アオアオ達には悪いと思っているのですよ」


 申し訳なさそうに俯くイエロが、瞳を潤ませる。そんなイエロにアオは深く息を吐き出す。

 アオも現状を理解していた。今、このギルド連盟にはまともな戦力が少ない。ここ最近になり、各地に調査に出た連盟所属の部隊が次々と消息を断っていた。

 その為、ギルド連盟の事務仕事は全てイエロがこなし、調査をアオとレッドの二人で担当しているのだ。


「分かった。分かったよ。とりあえず、詳しい話を聞かせろ」


 脱力するアオは頭をうなだらせ、イエロは眩い笑顔を向け目を輝かせる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ