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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
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第18話 赤い瞳 緑の生物 漆黒の炎

 冷たい風を頬に浴び、クロトはゆっくりと瞼を開く。

 薄らと目の前の光景が映し出され、ボンヤリとする意識の中で状況を把握しようと思考をフル回転させる。体を動かそうとすると、みぞおち辺りに激痛を感じた。何か強い衝撃を受けたのは覚えており、鋭い風の音だけが確りと耳に残っていた。それにより、自分を攻撃したのは風の属性を持つ攻撃だとクロトは理解し、ケルベロスの対峙するドクロの描かれたハットを被った女性の持つ白銀の銃を見てそれを使った攻撃なのだと分析した。

 腹部にも僅かに痛みが残るが、これはケルベロスに蹴られた時の痛みだとクロトは軽くケルベロスを睨んだ。だが、すぐにその拳に灯った蒼い炎に気付き、クロトは表情を歪めた。ケルベロスはここに居る人を皆殺しにする気なのだと。

 何とかそれを阻止しようと倉庫の壁に手をあて立ち上がると、妙な雑音が耳に届く。


(何だ? この音……)


 鎖が床を引き摺る様な音と鉄と鉄が僅かに擦れ合う嫌な音。それが何処からするのか分からず、目を閉じ意識を集中する。すると、その音以外に僅かに何かの荒々しい息遣いが聞こえた。

 すぐに何かが鎖で拘束されているのだと判断し、倉庫の方へと目を向けた。拘束されているとすればこの中だと、クロトはすぐに気付いた。


(一体何が居るんだ? 鎖で拘束される程の奴って……)


 思わず後退り、息を呑む。そんなクロトの右目が一層赤く染まると、突然クロトの視界に異変が起きる。視界に赤い煙の様なモノが映りだしたのだ。それは、倉庫の中から漂っており、まるで危険信号をクロトに送っている様に思えた。


「ケルベロス!」

「何だ! 今、コッチは取り込み――」


 振り返ったケルベロスは、赤く輝くクロトの右目を見て言葉を呑んだ。あんな不気味な目を見るのは初めてだった。


「急いでここから逃げるぞ! お前達もだ!」


 クロトの叫び声で、ケルベロスは我に返り眉間にシワを寄せる。それは、周囲を囲む海賊達も一緒だった。何故お前にそんな事を言われなければならないんだ、と言いたげな目を向ける連中にクロトは更に怒声を響かせる。


「いいから! 今は逃げろ! ここにあるのは金目のモノなんかじゃねぇぞ!」


 慌てるクロト。その視界に映る赤い煙が一層濃く激しくなっていたからだ。そんなクロトの様子にケルベロスも気付く。自分の背後から漂う不気味な感覚に。それに遅れ、ケルベロスと対峙する女性も気付き銃を空へと放つ。

 甲高く乾いた発砲音が響き渡り、海賊達の視線がその女性の方へと向けられる。


「オメェーら! ソイツの言う通り、今すぐここから逃げろ!」

「で、でも、パルのお頭……」

「うるせぇー! 黙って逃げろ! 今すぐだ!」

「わ、分かりやした! 皆行くぞ!」


 パルと呼ばれた女性の一喝で、周囲に集まった海賊達は素早い連携した動きで海へと向かっていく。

 その時だった。唐突に高い雄たけびが周囲に響き渡ったのは。


「くっ!」

「な、なっ!」

「うっ!」


 超音波の様に広がったその雄たけびに、間近にいたクロト・ケルベロス・パルの三人は耳を押さえ表情を引きつらせた。

 やがて、その音は収まり静まり返る。それでも、近くで超音波を浴びた三人の耳はキーンと音が鳴っていた。表情を歪め立ち上がったケルベロスはすぐに倉庫から離れ、拳に蒼い炎を再び灯す。そのケルベロスの隣りに並ぶように立つパルは、左側のガンホルダーを開くと金色に輝く銃を左手に取り出す。


「ここは一先ず休戦よ。番犬」

「貴様はとっとと逃げろ。邪魔だ」

「はぁ? 誰に向かってそんな口聞いてんのよ」


 口元に笑みを浮かべ強気な態度でそう述べたパルに、「勝手にしろ」と静かに告げ真っ直ぐに倉庫を見据える。パルも両手に握った銃のグリップを握りなおし、人差し指をトリガーへと乗せた。いつでも引き金が引ける様にと。

 一方、クロトは激痛を伴いながらも必死にその場に立ち尽くしていたが、右目が急に熱くなり表情を更に歪めた。耐えられない程の痛みじゃないが、視界が揺らぐ。倉庫から噴出す赤い煙が徐々に薄れ始め、それに伴い右目の輝きが退いて行った。


「はぁ…はぁ……」


 呼吸を乱すクロトは、目を凝らすが先程までの様に赤い煙は見えない。何が起きたのか分からず困惑していると、ケルベロスの怒声が耳に届く。


「クロト! ボンヤリするな! 来るぞ!」

「えっ?」


 我に返ったクロトだったが遅かった。突如、倉庫の壁に砕け散ると、そこから鎖を引き摺りながら緑色の生物が飛び出し、クロトの顔を右手で鷲掴みにし地面へと叩き付けた。鈍い衝撃音が響き地面が砕ける。クロトの意識はその一撃でプツリと断たれた。

 砕かれた倉庫の壁が地面へと降り注ぎ、その中で緑色の生物はゆっくりと頭だけをグルリと回し、反対方向に居るケルベロスとパルの方へと赤い目を向けた。


「なっ! き、キモッ!」

「人間でも、魔族でもなさそうだな」

「て事はモンスター! 何てモンを持ち込んでんのよ!」

「俺に言うな」


 パルの怒声に、静かにそう答えたケルベロスは意識をその緑色の生物に集中する。正直、感じた事の無い威圧感の様なモノを感じていた。

 顔をケルベロスとパルの方に向けたまま、今度は体をグルリう動かし、首の骨をボキボキと鳴らせ腕に巻き付いた鎖を腕ごと持ち上げる。それを暫くジッと見据えると、裂けた口を大きく開きそれに噛み付いた。だが、その鎖は全く切れる事無く逆にその生物の牙を砕いていく。


「あの鎖……」

「魔法石で作られてるみたいね。通りで頑丈な――!」


 パルは驚いた。ソイツは突然立ち上がったから。ケルベロスもその光景を目の当たりにし、言葉を失う。緑色の生物によって叩き伏せられたクロトが、その身に漆黒の炎を纏い立ち上がったからだ。今まで感じた中で一番の悪寒が体を襲い、ケルベロスもパルも互いに一歩下がった。

 刹那、クロトの右手がスッと持ち上がると、ゆっくりとその生物の右肩へと下ろされた。だが、それに生物が振り返る事は無く、ただ真っ黒な炎が生物の体を一瞬にして包み込む。


「な、何なのよ! アイツ!」

「知らん」

「仲間なんでしょ?」

「俺の知ってる奴は、あんな禍々しい炎は使えん」


 渋い表情を浮かべ、悶える事も無く燃え尽きたその生物を見据えるケルベロスとパル。そして、視線はクロトへと向けられ、二人が静かに息を呑む。


「静かに眠れ……」


 ボソッとクロトが呟くと、体を包んでいた炎は消え前のめりに崩れ落ちた。糸を切られた人形の様に。

 呆然とする二人の耳に複数の足音と人々の騒ぐ声が聞こえた。鉄の擦れる音が僅かに聞こえ、警備兵がここに近付いているのだと直感する。


「まずい! 警備兵が来るわ。急いでその子連れて逃げるわよ!」

「何故、俺達が逃げねばならん。依頼を受けたんだ」

「あの生物は間違いなくあたし達を殺す為に用意された物よ。もちろん、依頼を受けたあんた達もその標的。そんな連中が、素直に報酬を払うと思ってんの?」


 パルの言い分にケルベロスは眉をひそめた。確かに、あの生物はまるでパル達が来て暴れだす様にセットされていた様に動き出した。多分、依頼料など元々払う気は無く、ここに金目のものがあると思わせる為のカモフラージュだったのだろう。そうだと分かっても、ケルベロスはその場を動かない。いや、正確には動けずにいた。


「何してんのよ! 急いで!」

「ダメだ。俺は行けない。コイツを頼む。あと、この町の宿に居るセラとミィって娘も探して連れて行け」

「そう……。それまで、時間を稼ぐって事ね。けど……知ってんの? 魔族が人間に捕まったらどうなるか?」

「ああ。覚悟は出来ている」


 真剣な鋭い眼差しを向けるケルベロスに、パルは静かに頷く。


「分かった。あんたが番犬って呼ばれる理由が何となく分かる気がするよ」


 と、静かに告げると、パルは横たわるクロトを抱え闇の中へと去っていった。そして、一人残されたケルベロスは、自分に注意を集める為にワザと蒼い炎を放出した。

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