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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
179/300

第179話 巡回

 深夜、クロト達は二手に別れて町を見回りしていた。

 その組み合わせは、クロトとパル、ケルベロスとレッドの組み合わせとなった。

 本来なら、魔力を失ったケルベロスと戦力的に何の問題もないパルを組ませたい所だったが、相性的に二人は合わないだろうと、判断に至った。

 同じくレッドとパルも相性的に合わないと却下され、結局クロトとパルが組む事になったのだ。

 結果、能力的にはクロトとパルの方が上だ。しかし、それを補う戦闘経験がケルベロスとレッドにはある為、問題はないだろうと言う事になった。

 戦力しては数に含まれないミィは、年齢的な意味でも夜中に出歩かせるのはよくないと、船に居残りとなった。

 ミィは不満そうだったが、パルが絶対にダメだと許可を出さなかった。

 クロトも今回ばかりはパルの意見に賛同し、ミィは渋々と船に残ったのだ。

 町の西側をクロトとパルが見回り、東側をケルベロスとレッドが見回る。

 昨夜、あんな事件があった為か、この時間にはもう誰一人外を歩いていない。その為、とても静かだった。

 町を照らすのは僅かに設置された街灯。人の居ない寂しい街道を吹き抜ける冷たい風が、僅かな砂塵を巻き上げる。

 そんな中を歩く二つの影。

 黒のローブをまとい短い黒髪にフードを被るクロトと、相変わらず露出の激しい、ヘソだしショートパンツ姿のパルの二人。

 腕を組み海賊ハットを深く被るパルは、長い黒髪をなびかせ、優雅に足を進める。

 背丈はクロトの方が若干高いのだが、パルの履いているブーツの底が少々高い為、並ぶと殆ど身長は変らない。

 そんなパルの顔を横目でチラチラと見据えるクロトは、怯えていた。

 最近、頻発する罵倒事件により、クロトはパルに恐怖を抱いていた。

 もちろん、非があるのは自分だとクロトも分っており、パルを怖がるなんてお門違いだと言うのも重々分っているが、植えつけられた恐怖と言うのは早々拭う事など出来ないものだ。

 足取りの重いクロトは背を丸めると深々とため息を漏らした。


「なんだい? ため息なんて」


 クロトのため息に、パルが不快そうに表情を歪める。どうにも不機嫌なパルは、眉間にシワを寄せていた。

 この瞬間、クロトは頭を働かせる。どうすればいい、なんと答えればいい、ここはボケるべきかどうか、様々な考えをめぐらせる。

 しかし、結局クロトが出した答えは――微笑する事だった。

 無難な選択だったが、これが一番この場を丸く収められる方法だと、クロトは直感したのだ。


「全く……なんで、私がお前と……」


 パルはそう言い俯く。表情は不機嫌そうだが、その頬は少々赤く染まっていた。

 だが、それにクロトが気付く事は無く、非情に申し訳なさそうに肩を落とす。

 また沈黙が辺りを包み、二人の足音だけが夜の町に響く。この沈黙にクロトは何かを話さなきゃいけない、そう思うが言葉が出ない。

 そんな時、パルの方が静かに口を開いた。


「クロト、お前はウォーレンの事を覚えているか?」


 そう尋ねたパルが足を止める。それに釣られ、クロトも足を止めパルの方へと体を向けた。

 僅かに俯くパルの表情は暗い。その為、クロトも真剣に答える。


「覚えてるよ。確か、ゼバーリック大陸の西の地、ミラージュ王国の王子だろ?」


 ウォーレンは、ゼバーリック大陸の西の地ミラージュ王国の王子で、以前、クロトは彼と手合わせをした事があった。

 結果は引き分けと言う事になったが、恐らくあの時点でクロトがウォーレンに勝つ事は不可能だっただろう。

 何故なら、あの時、クロトは負傷しており、戦えるような状態ではなかった。その事をウォーレンも知り、結局引き分けになった。

 クロトの言葉に対し、パルは静かに息を吐き口を開く。

 

「ああ。今は、“王子”じゃなく、“国王”だけどな」

「国王? ……えっ? あ、アイツ、王様になったのか?」


 驚くクロトに対し、パルの表情は暗い。

 その理由が分からず、クロトが首を傾げると、パルは深く息を吐き出し答えた。


「奴が国王になり、ミラージュ王国は変った」

「変った? それって……悪い事なのか?」

「ああ。ちなみに、手を合わせたお前からして、奴はどんな奴だった?」

「えっ? あぁー……真っ直ぐで熱くて、良い人って感じだったけど?」


 クロトがあの時の事を思い出しながらそう言うと、パルはハットを右手で掴み、顔を隠すように深く被った。

 何がどうしたのか分からず、クロトが表情をしかめると、パルはゆっくりと口を開いた。


「今、奴は自国が開発した魔導具を使用して、武力で他の都市を制圧している」


 パルの突然の発言に、クロトは目を白黒させる。

 一瞬、何を言ったのか理解出来なかった。だが、すぐに「はぁ?」と声をあげ、クスクスと肩を揺らし笑う。

 それが、場を和ませる為の冗談だと、クロトは思ったのだ。

 しかし、パルは静かに顔を上げると、笑うクロトへと不快そうな表情を向け、唇を噛み締める。


「何がおかしい?」

「いやいや。冗談だろ? でも、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ?」


 クロトが笑いながらそう言うと、パルは冷ややかな眼差しを向ける。


「私が、冗談を言っている様に見えるのか?」

「…………いいや」


 真っ直ぐにパルの目を見据えるクロトは笑うのを止めた。


「けど、信じられると思うか? 第一、ウォーレンが他の都市を制圧する理由が分からない。力を誇示するようなタイプじゃないだろ?」


 手を合わせたからこそ、クロトは理解していた。ウォーレンが自分の力を誇示する為にそんな事をするような奴じゃないと言う事を。

 誰かを傷つけるような、そんな事をするような奴じゃない事を。

 ましてや、人を思いやる事の出来る情熱溢れる男だと、クロトは思っていた。まだ、王になるには経験や勉強が足りなかったかも知れないが、それでも王としての資質はある、そうクロトは思っていた。

 なのに、どうしてそんな事をするのか、全く理解に苦しむ。

 そんなクロトの言葉に、パルも薄らと開かれた唇から息を漏らし、呟く。


「私も、そう思うさ。けど、実際に事は起きているんだよ。何があったのか、何が起こっているのか分からない。けど、今の奴はお前が手合わせした時の奴とは違う」


 パルがそう告げた瞬間、クロトは一筋の閃光を目視する。

 それは、街灯の光の届かぬ闇の中から放たれた一刀だった。

 そして、その軌道は――パルの首へと向かう。


「――ッ!」


 叫ぶよりも先に、クロトの体が自然と動き、左腕でパルの体を後方へと押しやり、自らは一歩前へと出る。

 それにより、クロトはその一刀の軌道上へと足を踏み入れる形となった。


「きゃっ! な、何をする――」


 押しやられたパルは地面へと倒れこみ、同時にクロトへと不満げに声を上げる。

 だが、その直後に、パルはすぐ言葉を呑んだ。

 視界に映る。街灯を赤く染める鮮血が――。

 空へと散る。砕けた刃とクロト。

 大きく体を弾ませ、後方へと崩れるクロトの体から、勢いよく血が迸る。

 何が起きているのか分らないパルの視界には全ての光景がスローに映っていた。

 音もない無音の時が流れる。弾かれるクロトの頭に被ったフードがゆっくりととれ、その左頬は赤く血に染まっていた。


「クロト!」


 ようやく、パルが声を上げたのは、クロトの背中が地面へと弾んだ時だった。

 左肩から深く斜めに刃は入っていた。だが、幸いにも刃の強度が脆く、深く肩に入っただけで刃は砕けた。

 それでも、血が激しく溢れ、致命的な傷なのは変らない。早く治療をしなければまずい状態だった。


「クロト!」


 もう一度、パルは叫ぶ。腰を挙げ、一旦クロトへと目を向けた後、パルはその顔を上げる。

 街灯の光が届かぬ闇に潜む影へと目を凝らす。赤い二つの眼は僅かに緩み、白い歯を見せ不適な笑みが闇へと映った。

 首にマフラーを巻いているのか、長い布状の物がゆらゆらと揺れ、その影は光を嫌う様に闇から闇へと伝うように後退していった。

 すぐにガンホルダーから銀色の銃を抜いたパルは、数発その影に対し弾丸を放った。だが、銃声が虚しく響き、刃で弾丸を受けたのか闇には僅かに火花だけが散った。

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