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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
177/300

第177話 全力で阻止する

 今朝早くの事だった。

 穏やかないつも通りの一日を迎えるはずだったクロト達の下に、その悲報は伝わる。

 伝えたのは、龍馬。その悲報とは――


「秋雨がやられた」


 深刻そうな表情の龍馬に、船内には重苦しい空気が漂う。

 しかし、その空気を払拭する様に、龍馬についてきていた龍魔族のエルドが、静かに口を開く。


「死んではない。ただ、重傷と言うだけだ」


 淡い青色の髪を揺らし、エルドがそう述べると、クロトとミィはジト目を龍馬へと向けた。

 一方、ケルベロス、パル、レッドの三人はそんな事だろうと、呆れた様に息を吐き目を伏せる。

 皆の反応に対し、半笑いする龍馬は灰色の髪を右手で掻き、首を傾げた。


「俺、一言も死んだなんて言ってねぇーだろ?」

「ややこしい言い方するからッス!」

「あんな意味深な表情で言われたら、死んだと思うだろ!」


 ミィとクロトが龍馬に詰め寄り、怒鳴り散らす。二人の迫力に表情を引きつらせる龍馬は、背を仰け反らせ後退する。

 そんな三人を尻目に、レッドは深く息を吐きエルドへと目を向けた。レッドの眼差しに、エルドは腰にぶら下げた剣の柄に肘を置く。


「何だ?」

「いや。まさか、こんな所で会うと思いませんでしたから」


 エルドの言葉に、レッドは微笑する。そんな二人のやり取りに訝しげな目を向けるケルベロスは、腕を組み静かに尋ねる。


「何だ? 知り合いなのか?」


 ケルベロスの静かで低音の声に、エルドは右の眉をビクッと動かすと、鋭い眼差しを向ける。

 二人の視線が交錯する中、レッドはケルベロスの方へと体を向け、問いに答えた。


「彼女は、八会団の一人で――」

「エルドだ。龍魔族の島を統治する。しかし、こんな場所で“番犬”に会えるとは思わなかったな」


 エルドの言葉にケルベロスは眉間にシワを寄せる。

 沈黙が漂い、少々険悪な空気が流れる。睨み合う二人に対し、レッドは表情を引きつらせ、パルは呆れた様に目を細めた。


「悪いが、この船でやりあうのだけは勘弁してくれよ」

「やりあう気などサラサラ無い」


 パルに対し、肩を竦めたケルベロスは、ふっと息を漏らした。

 すると、エルドも瞼を閉じ、


「魔力を失った相手と戦おうなどと思わないさ」


と、静かに呟いた。

 空気が一層険悪に変り、それを止めようとレッドが二人の間に割って入った。


「ほ、本題に入りましょう! 本題に!」


 レッドの声に、龍馬に詰め寄っていたクロトも思い出したように声を上げる。


「そうだ、そうだ! それで、何で二人はここに? え、えっと……と、言うか、二人はどう言う関係?」


 また話が逸れた。その為、レッドは複雑そうに微笑し、ケルベロス、パル、エルドの三人は呆れた様な眼差しをクロトへと向けた。

 三人の眼差しにクロトはキョトンとした表情で首を傾げる。

 そんなクロトの襟首を掴み、


「ほらほら、話の腰を折っちゃダメッスよ」


と、ミィはクロトを後ろへと引っ張った。

 あわあわ、と喚くクロトに龍馬は苦笑し、とりあえず話を戻す為にエルドの横へと並ぶ。

 そして、真剣な表情でレッド、ケルベロスの順に目を向けた。


「死んでないにしろ、秋雨は全治二ヶ月程の重傷だ。この島にはヒーラーが居ないからな。医術での治療しか出来なくてな」

「そうですか……でも、まだ若いとは言え、副隊長まで上り詰めた実力者の秋雨がそれ程まで重傷を負わされるなんて……。相手は一体、何者なんですか?」


 腕を組み深刻そうに息を吐き出したレッドがそう尋ねると、龍馬は視線を逸らした。

 明らかに不自然なその行動にケルベロスは目を細め、レッドは首を傾げる。すると、エルドが深く息を吐き出し、肩を落とし横目で龍馬を睨む。


「コイツは、相手が誰か知らない」

「えっ? 秋雨と一緒に戦ってたんじゃ?」

「い、いや……まぁ、実は色々あって……」


 驚き目を白黒させるレッドに、一層表情を引きつらせ、龍馬は背を丸める。

 明らかな動揺にケルベロスは深くため息を吐き、


「相手も分らないなら、なぜここに来たんだ? まさか、俺達は疑われてるのか?」


と、鋭い眼差しで龍馬を睨む。

 しかし、龍馬は先程までの態度が一変し、首を左右に振り答える。


「いや、それはねぇよ。大体、お前達には無理な話だしな」

「えっ? 僕達には無理?」


 龍馬の言葉にレッドは不思議そうにそう尋ねる。

 すると、龍馬は鼻から息を吐き、右手を軽く振り、


「ああ。相手は剣――いや、刀かな? とりあえず、鋭利な刃物を使う。お前達、今、武器なんて持ってないだろ?」


と、龍馬は半笑いで言い放った。

 秋雨は明らかに刃物で斬られた傷が残っていた。その為、龍馬は最初からクロト達は除外していた。

 そんな龍馬の言葉にケルベロスは不快そうな表情を浮かべ、レッドは怪訝そうに眉間にシワを寄せる。

 それなら、一体、何の用でここに来たのか、ただ秋雨がやられたと言う報告なら、エルドと二人で来る理由も無いだろう、そう二人は考えていた。

 ケルベロスとレッドの二人が思う考えを、クロトが口にする。


「じゃあ、何しに来たんだ? 二人して?」


 クロトのその問いかけにレッドは苦笑し、ケルベロスは呆れ顔でクロトを見据える。

 しかし、龍馬は気にせずクロトの方へと体を向けた。


「今日、来たのは、頼みがあってな」

「頼み?」

「ああ。多分、今回の相手は俺一人じゃどうにもできねぇー。それに、すでに何人も被害者が出てる以上、早々に解決しなきゃいけねぇー」

「だから、力を貸して欲しいってわけか? 冗談だろ? 私はパスだよ」


 パルはそう言うと、右手をヒラヒラと振り船室へと戻っていた。

 ここ最近、妙に不機嫌なパルにミィは小首を傾げると、クロトから手を離しその後を追いかけ船室へと消えていった。

 パルとミィが居なくなり、甲板にはクロト、ケルベロス、レッドの三人と龍馬とエルドの計五人の残された。

 しかし、ケルベロスは不快そう腕を組み、レッドもあまり乗り気では無いのか、複雑そうな表情を浮かべる。

 そして、クロトも今回は少々厳しい表情で龍馬を見据える。

 三人の表情に、エルドは瞼を閉じると深々と吐息を漏らし、ゆっくりと背を向けた。


「お、おい! エルド! ど、何処に――」

「帰る。魔力の無い番犬に、聖剣の無い勇者。戦力にはならんだろ?」

「待て待て! 今は、少しでも戦力が――」

「犠牲者が増えるだけだ」


 エルドはそう言うと静かに船を降りていった。

 残された龍馬は、困った様に右手で頭を掻き、眉をひそめる。

 確かにエルドの言う通りだ。今、クロトもレッドも、武器を失っている。ケルベロスに至っては魔力が失われ、まともに戦う事すら出来ない。

 そんな状態で助けを求められても、足を引っ張るだけだった。

 恐らくパルもそれを理解している為、あんな態度を取ったのだ。

 申し訳なさそうに頭を掻くクロトは、苦笑する。


「悪いな。今の俺達じゃ、とてもじゃないけど、助けになりそうもないから」

「そっか……」


 ガックリと肩を落とす龍馬だが、すぐに振り返りケルベロスへと目を向ける。

 褐色の肌に白髪を揺らすケルベロスの顔を真っ直ぐに見据え、龍馬は「ふーん」と口ずさみ小さく頷く。


「番犬……。お前、本当に番犬、ケルベロスだったのか……。見た目が随分変ったと思ったら、魔力を失ってるとはな」


 淡々とした龍馬の口調に、ケルベロスは不快そうに眉間にシワを寄せ、


「だったらなんだ?」


と、怒気の篭った声で尋ねる。

 そのケルベロスの問いに、龍馬は軽く肩を竦めると、口元に薄らと笑みを浮かべた。


「いいや。今なら、あの番犬を簡単に捕らえられるんだなって、思って――」


 軽い冗談のつもりで、龍馬はそう口にした。

 だが、その瞬間に龍馬は激しく荒々しい魔力の波動を感じ、思わず息を呑む。

 その魔力の主はクロトで、全身から溢れ出す膨大な魔力に、海は波たち鳥たちは声をあげ空へと散る。

 そして、ケルベロスもレッドも、突然の事に驚き呆然と立ち尽くしていた。


「もし、そんな事をするなら、俺は全力で阻止する」


 静かにそう告げるクロトに、龍馬は表情を引きつらせ、両手を前へと出す。


「お、落ち着け! 冗談だ! 冗談! 第一に、俺らにケルベロスを捕らえても得なんて無いし、別に俺は魔族も恨んでねぇーよ!」


 必死にそう言う龍馬に、クロトはふっと息を吐き出し肩の力を抜いた。

 全身から迸っていた魔力は一瞬にして消え去り、またもとの穏やかな雰囲気が流れる。

 しかし、この時、龍馬は思っていた。

 あれだけの魔力を持っていて、足手纏いになると言う事は無いだろう、と。

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