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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
171/300

第171話 クロトのミス

 深夜の町に鳴り響く鉄を打つ音。

 一定のリズムを刻むその甲高い音が響くのは、小高い山奥の小さな洞窟の中からだった。

 薄暗いその洞窟の奥に、鍛冶屋の弟子である少年が一本の刀を打ち直していた。

 オレンジ色の高温の熱を帯びるかまへとペンチで掴んだ刃を突っ込み、少年は左手の甲で汗を拭う。

 洞窟内は、この罐の熱によって、相当の暑さになっていた。

 罐から取り出した刃は高熱を帯び、朱色に輝き、少年はそれをまた金槌で叩く。甲高い音が響き、火花が散る。

 そんな中に一つの足音が響いた。

 静かな足音だった為、激しく鳴り響く鉄を打つ音にかき消され、少年には聞こえていない。

 だが、集中していたからこそ、その気配に気付き少年は口を開いた。


「まだ、完成するには時間が掛かる」

「そうか……」


 少年の返答に、足を止めた男は、口元まで巻かれたマフラーの向こうからくぐもった声でそう返答した。

 熱を帯びた刃を冷水へと浸すと、蒸気が静かな音を立て噴き上がる。

 そこでようやく手を止めた少年は、振り返り暗がりに浮かぶ男の姿へと目を向けた。


「言っておくけど、そんな何度も何度も見に来ても、刀が仕上がる時間はかわらねぇーよ」


 迷惑そうに少年はジト目を向ける。

 依頼人であるやや背丈の高いの細身の男は、日に何度もここを訪れる。

 刀を打つ事に集中している少年にとって、それはとても鬱陶しく、集中力がそがれてしまう。

 その為、正直ここにあまり出入りはして欲しくなかった。

 少年の眼差しからその事を悟ったのか、男は長い黒髪を揺らすと背を向けると、静かに尋ねる。


「あとどれ位で出来る?」

「あぁ? んんー……一週間程じゃねぇーか? とりあえず、集中してっから邪魔すんなよ」


 荒っぽい口調で少年がそう言うと、男は小さくコクリと頷き、


「ああ。分かった。少年よ」


と、呟いた。

 その言葉に少年は聊か不満げな表情を浮かべる。


「おい。あんた。オイラは少年じゃねぇー! 竜胆りんどうだ。」

「そうか……」


 男がそう返答すると、竜胆は鼻から息を吐き出し小さく舌打ちをした。



 今朝早くの事だった。

 海賊船の一室で、セラは早速魔法石の創造を行っていた。

 集中力を高めるセラは深く息を吐き出す。

 それから、昨夜行った手順通り、右手に土属性の魔力を限界まで練り上げる。右手が眩く橙色の光を放ち、部屋の隅々まで明るく照らす。

 続けて左手に火属性の魔力を限界まで練り上げる。眩い赤い輝きが左手を覆い、部屋を二重の輝きが入り混じっていた。

 それを一つにする様に、セラは両手を胸の前で合わせる。

 ここからは慎重にゆっくりと時間を掛けて二つの魔力を浸透させていく。

 この作業が一番難しく、セラは集中力を高めていた。



 セラが魔法石を生成している最中、クロトは甲板で一人うなり声を上げていた。

 胡坐を掻き、精神統一を行いながら。

 このままセラにだけ苦労させて、自分はのんびり待っているだけでいいのだろうか、そう考えていた。

 迷いながらの精神統一の為、魔力が多少なりに乱れ、両手に灯した魔力は揺らいでいた。

 その様子にミィは訝しげな表情を浮かべ、歩み寄る。


「どうしたんスか? 今日は大分魔力が乱れてるッスよ?」


 ミィがそう声を掛けると、クロトは両手に灯していた魔力を消滅させ、深く息を吐き出す。

 そして、短くなった黒髪を右手で掻きながら、クロトは目を細めた。


「うーん。このままでいいのかな、って」

「このままで? 何の事ッスか?」


 小首を傾げるミィの朱色の髪が揺らぐ。

 愛らしい仕草を見せるミィだが、クロトは全くの無反応で、もう一度大きなため息を吐いた。

 その態度にミィは一瞬表情を歪めるが、すぐに笑みを浮かべる。


「た、ため息なんて、らしくねぇーッスよ?」

「うーん。セラだけに頑張らせるのは、どうなんだろうって……」

「んんっ? 自分の話は無視ッスか?」


 クロトの返答が明らかに自分の問いとは的外れだった為、ミィは呆れた様に眉をひそめる。

 腕を組みうな垂れるクロトは、もう一度今度は鼻から息を吐き出すと、肩の力を抜いた。


「俺に、出来る事は無いだろうか?」

「無いんじゃねぇーッスか? 魔法石の生成は繊細らしいッスし」

「なら、お金を稼ごう!」

「何で、そうなるんスか!」


 クロトの一言に、鋭く突っ込みを入れるミィ。

 そんなやり取りを、離れた場所から見据えるレッドは、苦笑し隣りに居たケルベロスへと目を向けた。

 しかし、そんなレッドに対し、ケルベロスは不満そうに眉間にシワを寄せる。

 何故、コイツは隣りにいるんだ、と言いたげな眼差しを向けるが、レッドは気にした様子は無く、ニコニコと笑みを浮かべていた。


「しかし、二人のやり取りは見てて面白いですね」

「…………」


 レッドの言葉に対し、ケルベロスは腕を組んだまま無言だった。

 沈黙するケルベロスに、レッドは苦笑し首を傾げる。


「あ、あれ? 怒ってます?」


 潮風に赤紫の髪を揺らすレッドの声に、ケルベロスは顔を背ける。

 その態度が明らかに怒っていると言っているようなもので、レッドは困ったように右手で頬を掻いた。

 無言のケルベロスは褐色の肌には目立つ真っ白な髪を揺らし、静かに息を吐き出した。


「ため息なんて、老ける原因ですよ?」


 肩を竦めるレッドに、ケルベロスは不快そうに眉間にシワを寄せる。


「何だ? お前は。さっきから、馴れ馴れしいぞ」

「そうですか?」


 ケルベロスの発言に、レッドは笑顔で小首を傾げた。

 全く持って馴れ馴れしいと言う実感が無いのか、レッドは不思議そうだった。

 その為、ケルベロスは更に不快そうな表情を浮かべ、鼻から息を吐き出した。

 このレッドと言う男を、ケルベロスは苦手としていた。

 性格が合わないと言うか、どうにも馴れ馴れしい所が鬱陶しくてしょうがなかった。


「おっしゃ! いっくぞー!」


 唐突に響くクロトの声に、


「ちょ、ちょっと待つッス!」


と、ミィの声が続く。

 それから、ドタドタと二つの足音が響いた。

 二人の姿を見据え、レッドは苦笑する。


「行ってしまいましたねー」

「落ち着いてる場合なのか?」


 腕を組むケルベロスがそう呟くと、レッドは肩を竦める。


「大丈夫でしょ? クロトですし」

「…………何処からその根拠が来るんだ?」

「友ですから、信頼してるし、その強さも信じてますから」


 にこやかに答えたレッドに対し、ケルベロスはもう一度深々と息を吐いた。

 レッドと言う人間が、全くケルベロスには理解出来なかった。



 船を飛び降りたクロトは走り出す。

 それを追って、ミィも走るが、グングンと距離が離れていく。

 その為、ミィは立ち止まると、膝に手を置き苦しげに呼吸を繰り返す。


「ちょ、ちょ……はぁ、ま、まっ……」


 呼吸が乱れ上手く喋れないミィに、クロトは足を止め振り返った。

 困った様に眉を八の字に曲げたクロトは、腰に右手を当てる。


「ミィ。別についてくる事無いぞ?」


 道の真ん中に佇みそう言うクロトに、行き交う人々の視線がチラチラと集まる。

 特別、目立った行動を取ったつもりではなかった。だが、目立った行動を取らずとも、その尖った耳は嫌がおうにも人々の目を集める。

 魔人族特有の耳だからだ。故に、人々は冷めた目を向け、ヒソヒソと話していた。

 話し声はクロトには聞こえない。聞こえないが、ヒソヒソと何かを話しているのは分かった。

 ヒソヒソと話されるのは不快だったが、クロトはそれを気にしない。と、言うよりもあえて見ないように、聞かないようにしていた。

 そんなクロトへと、息を切らせながら足を進めるミィは、困った様に目を細める。

 ミィの様子が明らかにおかしいと、クロトも目を細め腕を組む。

 そして、右手で右耳の耳たぶを触れた。

 その瞬間に、クロトは気付く。自分が犯したミスに。

 ハッとするクロトに対し、ミィは小さく頷き右手で頭を抱えた。

 精神統一を行ったままの状態で船を出た為、ローブを纏っておらず、しかもいままでは髪が長くて見えなかった耳も、短くなった為丸見えだったのだ。

 やってしまったと、クロトが肩を落としていると背後から激しい足音が響き、土煙がクロトとミィへと迫る。

 その足音にクロトが振り返ると、その顔に手が伸び、ミィの腹部へは腕が食い込む。


「もがっ!」

「うぎゅっ!」


 クロトとミィが声を上げると、その耳元で二つの声が響く。


「な、何してるんだ! あんた!」

「ここは、今、魔族の進入を許可して無いんですよ! それに、町の人達は魔族に対して、過敏になってるんですよ!」


 その声の主は、龍馬と秋雨の二人だった。

 魔族が町に居ると、二人の借りている宿に町の人が慌てて走りこんできたのだ。

 まさかと思って来て見れば、そのまさかの事態に、二人は大慌てだった。

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