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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
170/300

第170話 魔法石の創り方

 夕陽が水平線の向こうへと沈み行く中、船の甲板にはセラを囲むようにクロト、ミィ、レッドの三人が座り込んでいた。

 三人の視線を集めるセラは、胡坐を掻き両手の甲を下にし両膝へと置き、静かにゆっくりと息を吐き出す。

 精神統一を行うように、何度も何度も息を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返し、セラは瞼を開いた。

 静寂が漂う中、聞こえるのは波の音と酒を酌み交わす船員達の笑い声。

 だが、そんな音に心を乱される事無く、落ち着いた面持ちのセラの赤い瞳が一点を見据える。


「まずは、利き手に土属性の魔力を一定量集め、それを定着させる。今回は、説明の為の実演だから、魔力量は大体一パーセント位に止めておくね」


 そう言い、セラは広げた手の平に集めた魔力を人差し指へと集中する。

 輝いていた手の平から光が失われ、薄らと輝く小さな光の玉が右手の人差し指の先に浮かんでいた。

 宣言どおりの一パーセント程の魔力なのかは、クロト達にはハッキリと分からないが、魔力量が少ない事だけは何となく分かる。

 陽が沈み暗くなっていくその中で、輝きを放つ小さな光の玉を見据えるミィは、息を呑み込んだ。


「こ、これが、魔法石になるんスか?」

「ううん。まだだよ」


 ミィの問いに、セラは小さく頭を左右に振りいつも通りの愛らしい声でそう答えた。

 セラの答えに「そうなんスか」とミィは小さく何度も頷く。朱色の髪をたなびかせ、ミィは興奮気味に鼻息を荒げる。

 訝しげな眼差しを向けるのはレッド。この小さな光が、どうのようにして魔法石に加工されるのか、疑念を抱いたのだ。

 その為、レッドは浅く息を吐くと、静かに尋ねる。


「その小さな魔力が、どの様にして魔法石になるんですか?」

「これに、今度は属性変化を加えて――」


 セラは人差し指だけを立て、指先に集めた小さな魔力に意識を集中する。

 すると、真っ白だった光が橙へと変り、宝石の様な輝きを放つ。

 その輝きにクロト・ミィ・レッドは目を見張る。

 美しく輝きは魔力の質の高さを表しており、セラが指先に集めたその魔力が濃度の高い質のいい魔力だと言う事がよく分かった。

 そして、橙に輝く魔力は、土属性の魔力に変った事を表していた。


「これが……土属性の魔力?」


 訝しげにレッドが尋ねると、セラは小さく頷く。


「うん。これで、一つ目の……準備は完了……」


 僅かに呼吸を乱すセラの額には大粒の汗が溢れていた。

 魔力を制御すると言う事は、それ程集中力を使う繊細なモノなのだ。

 疲労の色が見えるセラに、心配そうな眼差しを向けるクロトは、眉をひそめ尋ねる。


「大丈夫か? 無理しなくていいぞ?」


 しかし、セラは頭を左右に振り、微笑した。


「大丈夫だよ。無理なんてしてない。それに、私に出来るのって、これ位だから」


 無理しているのは明らかだが、セラの気持ちを無下には出来ないと、クロトは開きかけた口を閉じ、言葉を呑み込んだ。

 深く息を吐き出したセラは、肩の力を抜くとまた説明を再開する。


「今度は、左手に別の属性の魔力を――あっ、別に、土属性の魔力でもいいけど、それだとちょっと分り難いと思うから、今回は別の属性にするね」


 笑顔を見せながらそう言う。

 魔力を集中し留めているだけでも辛いはずなのに、更に説明までしながら笑顔を見せるセラに、クロトは感心する。

 クロトも魔力を制御する鍛錬を毎日行う為、今、セラがやっている事がどれだけ大変なのか分っているのだ。

 もちろん、魔力を体に宿しているレッドもその大変さはよく理解しているし、レッド自身がまだ魔力の制御がままならない事を考えれば、セラのしてる事が高度な技術だと言う事は一目瞭然だった。

 一方で、魔力とは無縁のミィはイマイチ、セラのやっている事が凄い事なのか分らず眉間にシワを寄せ、首を傾げる。

 そんなミィの疑念を抱く眼差しを受けながらも、セラは集中力を乱す事無く、今度は左手に魔力を込めた。

 先ほどと同じく、左手の平が魔力を帯び輝き、やがてそれを人差し指へと集中する。


「魔力の量は、さっきと一緒で一パーセント。同等の魔力量、魔力の質で行わないと反発して弾けて消えちゃうから」


 真剣な顔でそう説明すると、ミィは「そうなんスか」と相槌を打つ。

 しかし、セラはその相槌に答えるだけの余裕は無く、


「属性変化――火!」


と、左手の指先に集めた魔力の属性を変化させる。

 真っ白な輝きだった魔力は徐々に赤く染まった。

 真っ赤な輝きを放つ魔力と橙の輝きを放つ魔力。どちらも美しい輝きで、高濃度の魔力だと言う事を、クロトとレッドはすぐに理解した。

 一方、ミィはその美しい輝きに目を奪われ、「ほぉーっ」と思わず声を漏らす。

 それから、セラの顔を見据え、


「宝石みたいッスね! これが、魔法石ッスか?」


と、弾んだ声で尋ねる。

 しかし、セラは小さく首を左右に振り、


「ううん……魔法石になるのは、これからだよ」


と、表情を引きつらせ笑い、眉を八の字に曲げた。

 すると、ミィは残念そうな表情を浮かべる。


「そうなんスか? そのままでもとっても綺麗ッスよ?」

「うん。でも、まだこのままだと鉱物じゃないでしょ?」

「う、うん。そうッスねー」


 ミィが納得したようにそう返答すると、レッドが腕を組み不思議そうに尋ねる。


「両手に集めた魔力が高濃度の魔力の質だと言うのは理解しましたが、それをどの様にして鉱物に? 無から有は生み出せないですよ?」

「無から生み出すわけじゃないよ。土属性は応用性が高くて、様々な物質を生み出す事が出来るんだよ?」

「様々な物質ですか?」

「うん。たとえば、鉄。これは、土を砂へと変え、その中から鉄分、所謂砂鉄を取り出し、合成し練り上げるんだよ」


 簡潔なセラの説明に、レッドは小さく頷いた。

 何となく、その原理は理解した。

 土属性と言うのは、土を生み出すと言うよりも、土の中の物質全てを生み出す事が出来る。鉄や様々な鉱石も全ては土の中に含まれる成分が集まり固まったモノ。

 故に、それを作り出す事が出来る――と、言うのは分かる。だが、魔法石は別だ。

 魔法石は土から生み出されるのではなく、自然に生み出された大気中に放出された濃い濃度の魔力が凝縮され、長い時間を掛け凝固された物が魔法石となる。

 その為、土属性でも魔法石は生み出す事は出来ないのだ。

 疑問を抱くレッドに対し、セラは微笑する。


「レッドが考えてる事は分かるよ。土属性でも魔法石は生み出せないって事でしょ?」

「あ、あぁ……」


 意外に勘の鋭いセラの一言に、レッドは少々驚いていた。

 そんなレッドにセラは指先に灯した二つの魔力をゆっくりと胸の前まで持っていく。


「土属性は物質を構成するだけ。その構成される物質に、もう一方に集めた魔力を注ぎこみ――」


 セラはそう言いながら、胸の前で二つの魔力を合わせる。

 土属性の魔力が一つの小さな塊を形成していく中、赤い火属性の魔力がその塊へと魔力を溶け込ませていく。

 繊細で高度な技術を有するはずだが、セラはそれをいとも容易くやってのけていた。

 元々、この技法は同等の魔力を持つ者が二人以上で行う技法で、一人でやるような事ではないのだ。

 そんな事とは知らず、セラはついに指先ほどの大きさの赤い輝きを放つ魔法石を床へと落とした。

 小さいが明らかに質の高い魔法石の輝きに、ミィは興奮するように鼻息を荒げる。


「す、すす、凄いッス! これは、すげぇー金儲けの匂いがするッス!」


 両拳を腋の下で激しく上下に振るミィに対し、額から大量の汗を零すセラが大きく息を吐き出し首を振った。


「む、無理だよー……。これ、すっごい疲れるんだから。それに、私はお金の為にやってるわけじゃないよ!」


 腰に手をあて、セラがそう言うと、ミィはシュンと肩を落とし、


「申し訳ないッス……」


と、小さな声で謝った。

 甲板に落ちた小さな赤い魔法石を、右手で摘み挙げたクロトはそれをマジマジと見据える。

 魔法石などクロトは見た事は無いが、セラが生み出したその魔法石が上級――いや、最上級クラスの魔法石だと言う事だけは分かる。

 ただ、そのサイズが小さい為、これでは恐らく材料にはならないだろうと、深々とため息を吐いた。

 しかし、そんなクロトに対し、セラはえへへ、と笑い、


「今回は実演だったから、小さいモノになっちゃったけど、明日はもっと大きいの創るね」


と、拳を胸の横で握り、二度振り二度、三度と頷いた。

 そこで、クロトは思い出す。

 セラが実演の為に今回は魔力を一パーセントしか使っていないと言う事を。

 だが、すぐに心配にもなった。

 この小さな魔法石を生み出すだけでも、相当の体力を消費しているのに、大きな魔法石を作り出せるのだろうかと。

 いや、それ以上にセラの体が持つんだろうか、と不安になっていた。

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