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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
168/300

第168話 名刀・桜一刀と妖刀・血桜

 一週間が過ぎ――……。

 パルの海賊船は相変わらず港に停泊していた。

 すでに食料やら何やら買いこみ出航の準備は出来ているが、港に待機したままだった。

 理由はただ一つ。

 クロトが船に居ないからだった。

 甲板で手すりに身を預けるパルは、潮風にその黒髪をなびかせ深く息を吐く。


「どうしたんスか?」


 そんなパルの背にミィがそう尋ねた。

 穏やかな潮風に髪を揺らすパルは、頬杖を突きふっと息を吐いた。


「いいや。何でもないよ」


 遠い目で町を見据えるパルに、ミィは苦笑する。


「なんスか? 行きたいなら一緒に行けばいいんじゃないッスか?」


 朱色の髪を僅かに揺らすミィがそう言うと、パルは静かに振り返り手すりにもたれ腕を組んだ。

 渋い表情を浮かべるパルは、鼻から息を吐き出した。


「別に行きたいわけじゃない」

「じゃあ、まだ怒ってるんスか? 団子の件」

「怒ってない!」


 ミィの言葉にパルがムッとした表情で怒鳴った。

 その表情、その声が怒っていると言っているようなもので、ミィはただただ苦笑する。

 これは、暫く触れない方がいいだろうと、ミィは肩を竦めその場を後にした。

 離れていくミィの背を見送りパルは不満げにため息を吐いた。



 その頃、クロトはあの鍛冶屋の前で、深々と頭をさげていた。

 一週間ずっとこの鍛冶屋に出向いては、日が暮れるまでこうして鍛冶屋の前で頭を下げていた。

 しかし、鍛冶屋の主人は全く反応すらない。

 クロトの存在など無いかのように、いつも通り生活を続けていた。

 それでも、クロトはずっと頭を下げ続ける。

 これが、クロトなりの誠意の見せ方だった。


「もう、やめようよ」


 鍛冶屋の前で頭を下げるクロトの背に向かい、セラがそう呟いた。

 石の上に腰を据えるセラは、頬にみたらし団子の餡を付着させ、右手に持った串を軽く上下に揺さぶる。

 だが、クロトはそんな声に耳を向ける事無く頭を下げ続けていた。

 不満そうな表情を浮かべるセラは、頬を膨らせると、串を笹の葉の上に置き、立ち上がる。


「もう! じゃあ、私、船に戻るよ?」


 腰に手をあてセラがそう言うが、やはりクロトの反応はなかった。

 その為、セラは一層頬を膨らすと、褐色の肌を赤く染め、


「もう! じゃあね!」


と、怒鳴り、その場を後にする。

 何度も何度も後ろを振り返るが、クロトが追って来る気配は無く、セラは大きくため息を吐き、諦めたように方を落とし去っていった。

 それから、どれ位の時間が流れたのか、そこに龍馬と秋雨がやってくる。


「あれ? 今日もやってんの?」


 呆れた様子でそう呟いた龍馬は、頭の後ろで両手を組み笑う。


「私達もアレくらいしなきゃダメだろ?」


 ジト目を龍馬へと向ける秋雨が、そう言うと、


「無理無理無理! 俺らにあんなマネ無理だって」


と、龍馬は力強く言い切った。

 あまりにもハッキリと言い切った龍馬に、呆れる秋雨は、右手で頭を抱える。

 何も考えていないであろう龍馬に対し、もう何を言っても無駄だと秋雨はこの瞬間に理解した。

 長い灰色の髪を揺らす龍馬は、そんな事には気付かずただ馬鹿みたいに笑い続ける。

 龍馬と秋雨の声に、小屋の戸が開かれ、鍛冶屋の主人である老人が顔を見せた。

 シワクチャの顔に、白ヒゲを蓄えた主人は、冷めた眼差しを二人へと向け、


「何じゃ、お主らもしつこいのぅ!」


と、しゃがれた声で怒鳴った。

 しかし、龍馬はこれは好機だと、満面の笑みを浮かべ、一歩歩み寄る。


「いや、だから、これは、天鎧様の愛刀で――」

「知らん。奴の愛刀だろうがなんだろうが、ワシはもう二度と武器は打たん!」


 用件を言い終える前に、ハッキリとそう断った主人に対し、龍馬の笑みが凍りつく。

 その額には明らかに青筋が浮かんでいた。

 元々、龍馬は感情的になりやすい性格の為、普段ならここで鍛冶屋の主人に掴みかかってもおかしくない所だが、それを必死に堪える。

 このままだと、いつブチ切れしてもおかしくない状態の龍馬を、秋雨は左腕で押しのけ前へと出る。

 ここで龍馬にキレられても困ると判断したのだ。

 それに、すぐに熱くなる龍馬よりも、冷静に対処出来る自分が交渉するべきだと、秋雨は考えた。

 胸の前に伸びる秋雨の腕に、龍馬は一瞬不快そうな表情を浮かべるが、すぐに冷静になる。

 自分が交渉するよりも、秋雨に任せた方がいいと、龍馬は判断した。

 しかし、鍛冶屋の主人は、秋雨を見るなり、


「何だ? 今度はヒョッコイのが交渉しようってのか? わりぃーが誰に頼まれようが武器は打たん! 帰れ!」


と、話すら聞かない。

 その態度に流石の秋雨もカチンと来たのか、一瞬目付きが変った。

 だが、ほんの一瞬ですぐに秋雨は冷静になった。

 

(ここで、キレては龍馬と一緒じゃないか)


 そう思ったのだ。

 深呼吸を二度、三度、と繰り返す秋雨に、主人は小さく鼻で笑い。


「まぁ、そこのバカよりかは賢いらしいな」

「ば、バカ!」

 

 バカ呼ばわりされ、声を荒げる龍馬だが、主人は気にせず目をクロトへと向けた。


「大体、何でワシに頼む? そこの魔族もお主らも、ワシを買い被りすぎじゃないかのぅ?」


 主人のその言葉に秋雨は、強い眼差しを向け、


「桜一刀はあなたの流派が生み出した刀だと聞いています」


と、言い放った。

 その言葉に主人は腕を組み小さく頷く。


「そうじゃ。確かに、それは初代さまが打った刀じゃ。しかし、ワシには関係ない事じゃないか?」

「か、関係ないって事は無いだろ! テメェーらのその先代が打った妖刀が――」

「龍馬!」


 龍馬の言葉を遮るように秋雨が叫ぶ。

 その声に、龍馬は言葉を呑み込み、鍛冶屋の主人は眉間にしわを寄せた。

 不快そうな表情を浮かべる主人は、大きく息を吐き出し空を見上げる。


「そうじゃ。初代様は桜一刀と対なる刀を打とうとし、生み出したのがあの呪われた刀、血桜じゃ。そして、初代様は自らが打ったその呪われた刀によって命を奪われた。

 これも、人の命を奪う武器を作ってきた罰なんじゃろうな。先代達は皆、自らが打った最後の武器により命を絶たれてきた」


 真剣な主人の言葉に龍馬も秋雨も表情を険しくする。

 話では聞いた事があった。

 この鍛冶屋の一族が皆最後の武器を打った直後に絶命していると。

 試し切り――もしくは、これ以上の武器を打たせない為なのか、色々と憶測では語られているが、詳しい話は分らない事だらけだった。

 その話を聞いたクロトはゆっくりと顔を挙げ、真っ直ぐに主人の目を見据える。

 主人とクロトの眼差しが交錯し暫しのときが過ぎる。

 やがて主人はため息を吐き、


「いいから帰れ! ワシは二度と打たないと決めたんじゃよ!」

「どうしてもダメですか?」


 ここでようやくクロトが言葉を口にした。

 その言葉に主人は呆れた様にもう一度ため息を吐いた。


「さっきも言ったじゃろ。ワシは人の命を奪う武器は打たん」

「俺にとって、あの剣は大切な相棒なんです。どうしても直してやりたいんです!」


 それでも食い下がるクロトに、主人は眉間にシワを寄せる。

 クロトがしつこいと言うのもあるが、それ以上に武器を相棒などと呼ぶその存在に僅かながら心が揺らいでいた。

 目を真っ直ぐに見据えるクロトの真剣な眼差しに、主人は肩を落とし頭を左右に振った。


「分かった。なら、条件を出す。それを、もし充たしたならお前の剣を打ちなおしてやろう」

「ほ、本当ですか!」


 クロトが期待に満ち溢れた声をあげ、目を輝かせる。

 それから、主人は龍馬と秋雨にも目を向け、


「とりあえず、桜一刀は打ち直してやろう。まぁ、昔、天鎧には世話になったからのぅ」


 渋々と言った感じで了承する。

 主人のその険しい表情に秋雨は悟る。

 彼が何故桜一刀を打ち直すと了承したのかを。

 それは、まだ残る桜一刀と対なる刀、妖刀・血桜と対抗する為だろう。

 主人が一番分っているのだ。

 血桜と対等に戦えるのはこの桜一刀しかないと。

 そして、恐らく覚悟している。

 この刀を打つことが自分の最後になると。

 今までの歴史を垣間見れば分かる。この流派の先代たちの死に様を。

 だからこそ、最後に、この刀を打ち直したい、そう思ったのだ。

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