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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
166/300

第166話 腕利きの鍛冶屋

「へぇー、そんなに腕利きなんスか? その鍛冶屋は?」


 龍馬と秋雨の後に続きながら、ミィが興味津々に声を上げた。

 前を進む龍馬は下駄をカツカツと鳴らし、頭の後ろで両手を組み大らかに笑う。


「なはははっ! いやいや。俺達もさ、その鍛冶屋に会うのは初めてなんだよ」


 灰色の長い髪を揺らす龍馬の言葉にミィは「えっ?」と呆れた様な声を上げた。

 腕を組むパルは、深く息を吐きジト目を龍馬と秋雨に向け、隣りに並ぶレッドへと尋ねる。


「おい。大丈夫なのか? 本当に?」

「えっ……あぁ……。まぁ、彼らの師は仮にも天鎧の息子である天童と剛鎧ですし……」


 苦笑するレッドが申し訳なさそうに赤紫色の髪を右手で掻きながら呟いた。

 困り顔のレッドに、もう一度深く息を吐いたパルは、右手の人差し指に自らの長い黒髪を巻きつけ、首をかしげた。

 能天気な龍馬に対し、呆れた様子の秋雨は、綺麗に整った顔の眉間にシワを寄せ、不機嫌そうな声を龍馬へと発する。


「龍馬、分かってるのか? 私達の任務は――」

「分かってる分かってる」


 真面目な秋雨の言葉を遮る相変わらず能天気な龍馬に、秋雨は右手の親指と人差し指で目頭を押さえため息を吐いた。

 ミィ達三人が、龍馬と秋雨と共に居るのは、二人がこの島の唯一の鍛冶屋に行くと言った為だった。

 クロトの魔剣を打ち直す事が出来るかも知れない、そんな淡い期待を抱いたのだ。

 二人の話を聞く限り、この島に居る鍛冶屋は相当の腕前で、様々な武器を生み出してきたと言う。

 ただ、現在は武器は作らずヒッソリと暮らしていると、言う事だった。


「しっかし、不思議だよな」

「何がだ?」

「だって、それだけの腕があれば、専門師として国お抱えの鍛冶屋になっててもおかしくないだろ?」


 龍馬が不思議そうにそう呟くと、秋雨も腕を組み小さく頷く。


「確かに、そうだな。どうして、こんな所にいるんだろう」


 秋雨も疑念を抱く様に眉間にシワを寄せ、鼻から息を吐き出した。

 二人して首を傾げる龍馬と秋雨の姿に、ミィ・パル・レッドの三人もただただ怪訝そうな表情をしていた。

 三人も同じような疑念を抱いていたのだ。

 どうして、それ程の腕を持ちながら隠居しているのか、と。


「おっ、見えてきたぞ」


 龍馬がそう声を上げる。

 山道の中腹にある中型の小屋。

 備え付けられた小さな煙突からは僅かな煙が噴き出ていた。



 一方、その頃、クロト達も別ルートでその鍛冶屋へと向かっていた。

 鬱蒼と草木が伸びる獣道を進むクロトは、甘味処の主人が描いた地図を片手に、小さく首を傾げる。


「あれ?」

「もう……クロトー。本当にここで大丈夫?」

「うーん……あってるはずなんだけど……」


 クロトは左手で頭を掻き、眉間にシワを寄せた。

 肩口で茶髪を揺らすセラは、分厚いローブの袖を捲り、美しい褐色の肌をした太股をチラチラと覗かせた。


「暑い……」

「そうだね。けど、そう言うのはやめた方がいいと思うよ? 女の子なんだから」


 手に持った紙で視線を隠しながら、クロトはセラにそう注意した。

 クロトのその言葉にセラはぷくーっと頬を膨らせ「はーい」と返事をした。

 その様子を後方から眺めるケルベロスは訝しげに辺りを見回していた。

 魔力を失った為、気配を感知する事が出来ないが、何か異様なものを感じていた。


(何だ? ……何か、嫌な感じがする……)


 眉間にシワを寄せ、怖い顔をするケルベロスへと、セラは振り返り、


「ケルベロスーいくよー」


と、右手を大きく振った。

 そんなセラへとケルベロスは小さく頭を下げた後、ゆっくりと歩みを進める。

 相変わらずのクロトとケルベロスの関係に、セラは目を細め息を吐いた。

 二人の間に何があったのかセラには分らない。分らないが、非常に場の空気が重く、セラは正直この空気が嫌いだった。

 その為、早く仲直りしないだろうか、と考えていた。

 そんな時、クロトが声を上げる。


「おおっ! 煙だ! きっと、あっちに鍛冶屋があるんだよ!」


 クロトがそう言い走り出す。

 何処か嬉しそうな満面の笑みを浮かべて。

 突然、走り出したクロトに、セラは驚き声を上げる。


「あっ! く、クロト! ちょっと待って!」


 その背にセラは叫んだが、立ち止まる事無くクロトは駆けて行く。

 呆れた様に息を吐いたセラは、右手で頭を押さえ、渋々とその後を追うように走り出した。

 二人が走っていくのを見据え、ケルベロスは眉間にシワを寄せる。


「鍛冶屋が逃げ出すわけでもあるまいし……」


 不満げにそう呟いたケルベロスは、深々と息を吐き出し小走りで二人の後を追いかけた。

 先頭を行くクロトは木の根を飛び越え、鋭く飛び出した枝を折り前進する。

 そして、草を掻き分け、クロトは茂みを飛び出す。


「とうちゃーく!」


 茂みから飛び出したクロトは、右拳を振り上げ大きな声を発した。

 だが、その瞬間、クロトの時間が停止する。

 拳を振り上げたままの状態で、ピッタリを動きを止めるクロトの視線の先に、見知った人物の姿があったからだ。

 硬直し、一瞬にしてクロトの表情は引きつる。


「はへっ?」


 奇怪な声を上げるミィは、肩を跳ね上げ身をそらし、


「なっ!」


と、パルは驚き目を丸くする。

 クロトがそこまでテンションが高い姿を見るのは初めてだった為、パルはやがて目を白黒させた。

 そんなパルの右斜め後ろから、


「く、クロト!」


と、レッドがそう驚きの声をあげ、僅かに表情を引きつらせた。

 流石に、クロトがあんな事をするなんて、パルもレッドも思っていなかったのだ。

 三人のその声に、クロトの顔はみるみる赤く染まり、頭から白煙が激しく吹き上がる。


「な、ななな、な、な、な、な――」


 まさか、こんな所にミィ達が居るとは思わなかった。

 いや、知人が居るなどとは思っていなかった。

 その為、ついついテンションが上がり、叫び飛び上がった姿を見られ、急激的に恥ずかしくなったのだ。

 明らかに狼狽するクロトに遅れ、セラとケルベロスが茂みから飛び出した。


「く、クロト! 早いよ!」


 セラが茂みから飛び出し、口にした第一声に、


「せ、セラ! な、な、何してるんスか!」


と、ミィが驚きの声を上げる。

 その声に、セラはハッとし、フードを被ると背を向けた。


「せ、せ、セラって誰ですかー。わ、私はせ、セラなんて人じゃないですー」

「いやいやいや! 今更遅いッスよ!」


 明らかにバレバレなセラの言い分に、ミィは右手を大きく左右に振りそう声を上げた。

 呆れた様に笑うレッドは、右肩をやや落とし、赤面し俯くクロトへと目を向ける。

 先程までのハイテンションが嘘の様に静まり返り、両肩を落とし絶望するクロトは「最悪だ……最悪だ……」と何度も呟いていた。

 その目が死んでいるのは言うまでもない。

 一方で顔を隠すセラは、両手を振りながら、


「ほ、ホント、わ、私はセラじゃないんです!」


と、この期に及んで白を切りとおす。

 もちろん、そんな事が許されるわけも無く、ミィはセラへとジト目を向け、


「もういいッスから。それより、何してるんスか?」


と、冷静に尋ねる。

 冷ややかなミィの視線に、観念したのかセラはフードを取ると、シュンと背を丸めた。


「ご、ごめんなさい……」

「い、いや、別に謝る必要は無いッスけど……」

「それより、どうしてここに?」


 落ち込むセラにうろたえるミィ代わり、レッドがそう尋ねると、セラの目が明らかに泳ぐ。

 まさか、好奇心に狩られ思わず船を抜け出した、などと口が裂けても言えるわけがなかった。

 そんな折、黙っていたケルベロスが静かに口を開く。


「セラが船を抜け出し、甘味処で団子を食って、ここに来た」


 簡潔に淡々と説明する。

 その説明に、セラは目を細めた。絶対に怒られると。

 しかし、簡潔すぎてミィとレッドはイマイチ理解できず、頭にハテナマークを浮かべていた。

 何故、セラが船を抜け出し、どうして甘味処で団子を食べる事になり、どう言う経緯でここに来る事になったのか、全く持って説明されていなかった。

 困惑する二人だが、一方でパルは拳を震わせ、唐突に怒鳴った。


「だ、だだ、団子を食べに行ったのか!」

「えっ、あっ、はい!」


 パルの声に、クロトは思わず両手を太股に合わせ、背筋をピンと伸ばし直立不動でそう返答した。

 クロトがそう答えたのには理由がある。

 それは、パルの鋭い視線が、明らかにクロトへと向けられていたからだ。

 まるで、その言葉は自分に向けられていると、クロトは直感したのだ。

 その為、クロトは直立不動のまま硬直し、堅く瞼を閉じ処罰を待つ。


「な、なな、何で、わ、わた、私だって一緒に……」


 微かに瞳を潤ませるパルが、俯き小声でそう呟き、愛らしく頬を膨らせる。

 子供のように拗ねるパルの様子に、ミィは口元を引きつらせ笑みを浮かべた。

 幼い頃から大人びていたパルだが、拗ねる時は決まって子供の様になるのだ。

 それが、今も変っていない事を嬉しく思いつつも、ミィはこれぞ苦笑と言うそんな笑みを浮かべ、頬を掻いた。


(よっぽど、一緒に団子を食べに行きたかったんスね……)


 そんな事を思いながらミィは目を細めた。

 しかし、そんな不思議な空気を吹き飛ばすように、ものの割れる大きな音が響き、鍛冶屋の戸が吹き飛んだ。

 突然の事に皆の視線が鍛冶屋へと注目する。

 激しく土煙が舞い、その先には小柄な少年が転がっていた。

 口角から血を流すその少年は、頭にハチマキを巻き短い黒髪を逆立てていた。


「いってぇーな! クソジジィ!」


 間違いなく、甘味処で見かけた少年は、壊れた戸の向こうにそう怒鳴った。

 直後、花瓶が鍛冶屋から飛び出し、少年はそれを両手でキャッチした。


「あぶねぇーだろ! 割れたらどうすんだ!」

「うるせぇ! テメェーなんて破門だ!」


 少年に対し、そんな声が鍛冶屋から飛び、一人の老人が大きなハンマーを片手に外へと出てきた。

 歳の割りに筋肉質な肉体の老人は、白い口ひげを左手で撫で、鋭い眼光を少年へと向ける。

 しかし、少年も負けじと老人を睨みつけ、


「オイラはあんたを超える職人になるんだ!」


と、言い放った。

 その言葉を老人は鼻で笑い、


「ハンッ! まともな包丁一つ作れねぇーで、何が職人になるだ!」


と、怒鳴り散らした。

 老人のその言葉に少年は額に青筋を浮かべると、拳を握り締めやがて諦めたようにソッポを向き歩き出した。

 クロト達はただ呆然とそんな二人のやり取りを見据えていた。

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