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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
164/300

第164話 麗らかな陽気に照らされて

 丸一日が過ぎ、クロト達は岩鉄島より南東にあるリクスに到着していた。

 結構大きな島で、港には何隻もの貿易船が停泊していた。

 ここクレリンス大陸は大きく分けて八つの地区に分かれており、ここはその一つの大都市と言う事になっている。

 ここは貿易が盛んな場所で、代表は人間。

 故に現在は魔族の上陸は許されていない。

 八つの地区の代表が集まり、八会団としてこの大陸を統括している。

 しかし、先日起こった魔族による大量殺戮により、現在八会団は機能を失っており、今の所魔族と人間の関係は悪化しているのだ。

 そんな事もあり、船に残されたクロト、セラ、ケルベロスの三人は甲板から島の様子を窺っていた。

 特に変った様子の無い島だが、先のフィンク大陸が一年中雪の降るのと対象的に、ここは年中ポカポカ陽気のとても過ごしやすい気候だった。

 その所為なのか、手すりにもたれかかるクロトは大きな欠伸をし、目から一筋の涙を零す。


「んんっ……眠いなぁ」


 右手で目を擦り、クロトはもう一度大きな欠伸をする。

 麗らかな陽気に促されウツラウツラするクロトを尻目に、セラは極度の好奇心に駆られていた。

 そわそわするセラの様子にケルベロスは眉をひそめる。

 長年セラに仕えている為、分かるのだ。

 こう言う時のセラの心境が。

 その為、ケルベロスは深く息を吐くと、右手で頭を抱えた。

 辺りをキョロキョロと見回すセラの眼差しは好奇心で煌いていた。

 その瞳に映るのは港の向こうに見える町並み。

 薄紅色の花の咲き誇る木々が立ち並び、チラホラ見える建物は今まで見た事の無い瓦屋根。

 それらの事に興味がそそられ、更に行き交う人々が着るその色鮮やかな着物にセラはムフーンと鼻息を荒げる。

 気持ちはすでに島に上陸しているつもりだった。

 挙動不審に周囲を見回すセラは、やがて動き出す。

 想定内のセラの行動に、ケルベロスは深くため息を吐き、歩き出した。

 そして、静かな寝息をたてるクロトの頭を叩いた。


「はわっ! な、なな、何だ!」

「行くぞ」


 静かにそれだけを告げたケルベロスに、クロトはジト目を向け、


「何処にだよ?」


と、不快そうに尋ねる。

 すると、ケルベロスは顎でその理由を指し示す。

 その先に訝しげに視線を向けたクロトは「あっ!」と声を上げた。

 視線の先に映ったのは、フードを深く被り船から降りるセラの姿だった。


「はぁ……何やってんだよ……」


 呆れた様に右手で頭を抱えるクロトは、肩を落とし目を細めた。

 そんなクロトを無視し、ケルベロスはセラを追うように船を降り、クロトも渋々その後に続いた。



 一足先に町へと出たミィ、パル、レッドの三人は、食材やら薬品を大量に買い込んでいた。

 しかし、買い込んでいる割に荷物は少ない。

 その理由はミィの持つリュックにあった。

 ミィのリュックは総重量数百キロ以上も荷物を積み込む事が出来、しかも重さは一定で変らないと言う便利な代物だった。

 商人の多くがこのリュックを愛用する。

 鼻歌混じりのミィの足取りは軽く、少々浮かれていた。

 交渉・値引きが上手く行き過ぎていた為、ミィは完全に有頂天だった。

 その一方でパルは足取りが重い。

 大きなため息を吐き、前を進むミィを見据え、パルは尋ねる。


「まだ買うのかい?」

「うん。まだ買うッスよ。商品の調達は大切ッスから」


 ミィの答えにパルはもう一度深々とため息を吐いた。

 ミィの買い物は長い。

 交渉・値引きから商品選びまで腰をすえて行う為、長いときは半日を費やす事もある。

 その為、パルはミィと買出しに行くのは正直嫌だった。

 落ち込むパルを尻目にミィは前へ前へと進む。

 苦笑するレッドは、ショートパンツに露出の激しい上着のパルを横目で見据え、頬を掻いた。


「大分、ノリノリみたいですね」

「そうだね……。商人としての血が騒ぐんじゃないか?」


 目を細めパルがそう口にする。

 赤紫色の髪を揺らすレッドは、その言葉に「みたいですね」と半笑いで答え、首を傾げた。

 初めてミィの買出しに付き合う所為か、少々疲れが溜まっていた。

 不満と言うわけではないが、たった一つ二つの値段の値切るのに数時間も掛けるのはどうなんだろうか、と疑問を抱いていた。


「おや? レッド殿じゃないですか」


 不意にそう声を掛けられ、レッドは足を止める。

 その動きにパルも足を止め、ミィも首を傾げながら歩みを止めた。

 レッドが声の方へと振り返ると、そこに二人の若者が立っていた。

 一人は灰色の長い髪に、長刀を背負った少年。

 もう一人は二本の刀と二本の脇差の計四本を腰にぶら下げた黒髪の少年。

 二人の少年に、レッドは一瞬訝しげな表情を浮かべたが、すぐに顔と名前を思い出し、微笑する。


「ああ。久しぶりだね。龍馬くんに秋雨くん」

「お久しぶりです」


 秋雨が丁寧に頭を下げる。

 しかし、そんな秋雨と裏腹に龍馬は右手を腰にあて、左手で鼻を掻きながら、


「久しぶりってか、何でまだこんな所に居るんだ?」


と、親しげに声を掛ける。

 対照的な二人に少々戸惑うレッドは、右手で頭を掻いた。


「おい。龍馬。失礼だろ。礼儀を弁えろ」

「うるせーな。堅苦しいのは嫌いなんだよ」


 頭を上げた秋雨が注意するが、龍馬は全く聞く耳を持たない。

 そんな龍馬に秋雨は綺麗に整った顔の眉間にシワを寄せ、深く息を吐き出した。

 どうせ言っても無駄だと、分っている秋雨はそれ以上龍馬には何も言わず、レッドの方へと体を向ける。


「それで、レッド殿はどうしてコチラに?」

「んっ? あぁ……ちょっと買出しだよ。航海の為のね。それより、二人はどうしてコッチに? 天童と剛鎧の直属部隊に配属されたって聞いたけど?」


 レッドがそう尋ねると、龍馬が豪快に笑い、


「俺らはちょっと……まぁ、天童さんと剛鎧さんは安心だろ? 葉泉と雪夜も居るし」

「おい! さんを付けろ!」

「はいはいはい。お前はいちいちうるさいなぁー」


 右手で右耳を塞ぎ、龍馬はソッポを向いた。

 二人のコントの様なやり取りにパルとミィは唖然としていた。

 そして、パルはレッドの服の裾を引き、声を潜め訪ねる。


「おい……誰だ? コイツら?」

「えっ? あぁ……。元・天鎧直属部隊の第二部隊副隊長の龍馬くんと、同じく第三部隊副隊長の秋雨くん。今は、天鎧の息子の天童と剛鎧の下についてるよ」


 レッドの言葉にパルは小さく頷く。

 自分よりも明らかに歳下の二人が、すでにその様な地位に居ると言う事が不思議でならなかった。

 それに、とても実力者とは思えぬ程、彼ら二人が幼くみえたのだ。


「それで、そっちの二人はレッドの……彼女?」


 龍馬がパルとミィを見据え、不意にそう口にした。

 その瞬間、パルはホルダーから銃を抜き、龍馬の額へと銃口を押し付ける。


「おい。笑えない冗談だな。死にたいのか?」


 額に銃口を当てられ、龍馬は両手を顔の横まで上げ、秋雨は呆れた様にため息を吐いた。

 苦笑するレッドは右手をパルの方へと向け、


「コチラは海賊女帝、パル。それから、彼女は商人のミィです」

「そ、そう……なら、丁度いい。今すぐ銃口を退けるように言ってくれるとありがたいんだが……」


 目を細める龍馬が引きつった表情でそう呟いた。

 流石に、今回は反省の色が見える為、パルは静かに銃を下ろし、深く息を吐いた。


「次、妙な冗談を言ってみろ。問答無用で引き金を引く」


 怖い目付きで睨みつけるパルに、龍馬は安堵したように息を吐き、脱力する。


「こ、殺されるかと思った……」

「いっそ、一回死ねばいい」


 龍馬の言葉に、秋雨がボソリとそう呟いた。

 その声は誰にも聞こえない程小さな声だったが、龍馬には聞こえたのか、不満そうな表情で秋雨の顔を睨みつけていた。



 セラを追いかけ町へと出たクロトとケルベロスは、結局セラに同行するように町を探索していた。

 船に引き返す様に何度も言ったが、セラの答えはノー。

 それだけ、好奇心が勝ったのだ。

 渋々と、セラについて来たクロトだったが、その町並みや建物の外観に、妙な親近感を覚えていた。

 昔の日本と言う雰囲気の町並みだったのだ。

 それに、この町では今までの様に読めない文字では無く、クロトもよく知る漢字やらひらがなが見受けられているのも、親近感を与えていた。

 見慣れない言葉の数々に、セラの目は輝いていた。


「ねっ! ねっ! アレって何て書いてあるのかな?」


 三つの丸に串が刺さった絵の描かれた看板を指差すセラが、笑顔をクロトへと向ける。

 その看板には甘味処と書かれており、クロトはそれをセラへと説明する。


「アレは、甘味処で、所謂喫茶店?」

「喫茶店? 何それ?」


 思わず出たクロトの言葉にセラが小首を傾げた。

 この世界には喫茶店と呼ばれるモノが存在しておらず、クロトも何と説明すればいいのか分からず、困り顔で頭を掻く。


「うーん……そうだなぁー……甘いものを食べる所?」

「飲食店って事?」

「うーん……飲食店と言えば飲食店だけど……ちょっと違うんだよなぁー」

「ふーん……そうなんだー。じゃあ、入ってみようか?」


 セラが納得したように小さく頷いた後、満面の笑みをクロトへと向けた。

 入ってみようか? ではなく、その目は入って見たい! と、告げており、クロトは深くため息を吐き、


「分かったよ。じゃあ、入ろうか」


と、その意見を了承した。

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