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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
162/300

第162話 岩鉄島

 港を出港し、一月が過ぎ、船はようやく東の大陸クレリンスへと到着していた。

 ゲート一小さな大陸であるクレリンスの中でも最小の岩鉄島と呼ばれる人口百数人程の島。

 港には幾つかの漁船がある程度で、特に目立ったモノなど無い岩鉄島に停泊する大きな海賊船は嫌がおうにも目立っていた。

 港にはすでにこの島の住人達が集まり、怪訝そうにパルの海賊船を見据えていた。

 こんなヘンピな所に海賊が何しに来たのか。

 そう言いたげな眼差しを向ける島の住人達に、海賊船から降りたパルは、海賊ハットを取ると、深々と頭を下げた。

 長い黒髪をなびかせ、ゆっくりと顔を上げたパルは、満面の笑顔を住人達へと向ける。


「私は真紅海賊団、船長のパル。少々、お話を聞かせてもらいたく、立ち寄らせていただいたのですが……」


 丁寧な口調のパルの言葉に、住人達はヒソヒソと話し出す。

 ほぼ老人と言う高年齢の者達ばかりが集まるその集団の中で、一人の若い男がゆっくりと前へ出る。


「海賊に話す事などない! とっとと出て行け!」


 その言葉に一瞬パルは表情を強張らせたが、すぐに笑みを浮かべる。


「いや、私達は話を――」

「黙れ! 出てけ!」


 男はパルの言葉に耳を貸さず、声を張る。

 そこ言葉に額に薄らと青筋を浮かべるパルは、拳を硬く握り締めていた。

 ここは怒ってはいけない堪えるんだ、と自分に言い聞かせるパルは、静かに息を吐き出す。

 しかし、そんなパルへと、男は落ちていた石を拾い投げつける。

 それが、パルの額へと直撃し、鮮血が弾けた。


「パル!」


 船上から光景を眺めていたクロトは思わずそう叫び、手すりを飛び越えた。


「クロト! 危ないッス!」


 ミィがそう叫ぶが、すでにクロトは地上へと着地しパルの下へと駆け寄っていた。


「大丈夫か?」

「あぁ……問題ない」


 額を右手で押さえるパルがそう言う。

 だが、額はぱっくりと割れ、痛々しい程の血があふれ出していた。

 その姿にクロトは眉間にシワを寄せ、唇を噛み締める。

 しかし、集まった者達はそんなクロト達に先程の男が引き金となり、次々と石を投げつけた。

 その石からパルをかばう様にクロトは前へと立った。

 石は次々とクロトを直撃し、鈍い音が響く。

 鮮血が迸り、クロトの額から血が溢れ出す。

 しかし、クロトはその場に佇み微動だにしない。

 それが、集まった者達へと恐怖を与えたのか、彼らの動きが止まった。

 静けさが漂い、波の音だけが聞こえる。

 そんな中で、クロトはゆっくりと右手の甲で血を拭い、一歩、また一歩と集まった者達の方へと歩み寄った。

 無言のまま近づくクロトに皆恐怖し、後退する。

 やがて、クロトが足を止める。

 それは、集団の真ん中で、集まった者達はクロトを囲む様にその場に静止していた。


「俺達は話を聞きたいだけだ。危害を加える気は無い」


 低く静かな声でそう告げたクロトに、皆ただ沈黙を守る。

 それ程、クロトの全身から溢れる威圧感は恐ろしかった。



 それから、事情を説明し、ようやくクロトとパル、ミィの三人だけが島の内部へと入る事を許可された。

 始めに石を投げつけた若い男は、「申し訳ない」とパルに何度も深く頭を下げた。

 この島では近年何度も海賊が略奪にやってくるらしく、皆それでピリピリしていたのだ。

 理由を聞かされた為、パルも「気にしないでくれ」と、謝る男へと苦笑していた。

 元々、クロト達がこの島にやってきたのは、道を尋ねる為だった。

 この辺りは同じような島が幾つも並び、地図にも記載されていない島も多い。

 その為、目的の島を探すには、こうして近隣の島に聞き込みをする事が一番いいのだ。

 この島の長の家へと招かれたクロト達三人は、一人の老人と対面していた。

 白髪に白いヒゲを蓄えたその老人こそ、この島の長である男だった。

 そして、その男が始めに口にしたのは詫びの言葉だった。


「申し訳ない。ウチの若い衆が……」


 申し訳なさそうに机に額を押し付ける様に頭を下げる男に、包帯を頭に巻いたクロトは困り顔で告げる。


「いえ。俺達もちょっと配慮が足りなかったんだと思います。いきなり、あんな大きな海賊船で乗り込んできたら誰だってそうなりますから」


 クロトがそう言い、隣りに座るパルへと視線を向ける。

 しかし、パルは何処か不機嫌そうな表情を浮かべ、クロトと視線が合うとフンッとソッポを向いた。

 その為、クロトは苦笑し、右手で頬を掻いた。

 パルとしては乗り込んだつもりもなければ、配慮したつもりだった。

 だから、クロトにあんな風に言われ、少々不服だったのだ。

 一方で、クロトの右隣に座るミィは両足をパタパタと動かしながら、その男へと身を乗り出す。


「自分は、商人をしてるッス。もしよければ、商売の許可をいただけると嬉しいッス!」


 営業スマイル――では無く、心の底からの満面の笑みを浮かべるミィに、男は訝しげな表情を浮かべた。

 当然だろう。

 ミィ程の歳の子が商人などと言って、信じられるわけがなかった。

 疑いの眼差しに気付いたのか、ミィは不満そうに頬を膨らすと、背負っていたリュックを下ろし、机の上へと置き、鼻から息を吐き出す。


「自分が商人だと言う証拠に、今、取り扱っている商品をお見せするッスよ!」


 取り扱っている商品に余程の自信があるのか、ミィは無い胸を張り、ムフンと鼻息を荒げた。

 それからは、ミィの独壇場で、商品の紹介から実演まで行い、圧倒的な商売のテクニックを見せつけた。

 クロトもその販売能力の高さに驚き、目を丸くしていた。

 もちろん、長は快くミィの商売の許可を出し、ミィはそれを聞き笑顔で家を後にした。

 ミィのプレゼンの影響が残る中、男は静かに尋ねる。


「そ、それで……私どもに聞きたい事とはなんですかな?」


 真剣な面持ちの男に対し、クロトは鼻から息を吐き、パルへと目を向ける。

 すると、パルは小さく頷き、


「実は、この辺りに職人が一人で暮らしている島があると聞いたんだが……」

「職人? はて? 一体、何の職人かな?」

「武器職人」


 パルがそう口にすると、明らかに部屋の空気が変った。

 その変化にクロトもパルもすぐに気付いた。

 何か知っているのだと二人は目付きを変え、更にパルは言葉を続ける。


「元々、ここクレリンス大陸は腕利きの職人が多く存在する大陸。その中でも一・二を争う程の職人がいると聞いたのだが?」


 パルの言葉に男は俯き目を伏せる。

 とても辛そうなその表情にクロトは頭を下げた。


「お願いします。どうしても、打ち直して欲しい剣があるんです!」


 懇願するクロトの姿に、男は諦めたように瞼を開き、複雑そうな表情で口を開く。


「えぇ……私らは、その職人をよく知っておる」

「本当か!」


 パルが声を上げると、男は小さく頷く。

 そして、眉間にシワを寄せ、静かに手を組んだ。


「元々、その職人はこの島に居た」

「元々? 今はいないんですか?」


 クロトがそう尋ねると、男はもう一度小さく頷いた。


「えぇ……十数年前に、奴はこの島を追放されたんじゃ」

「えっ? 追放?」

「一体、何をしたんだ?」


 パルがやや声のトーンを落としそう尋ねると、男は深く息を吐き出し、


「奴の作る武器は、それはもう美しく、何よりも素晴らしい能力を持っておった……。じゃが、その武器は争いを招き、多くの人の命を奪い去った。故に、私らは奴をこの島から……いや、奴の存在を消したかったのじゃ」


と、男は静かに語った。

 何があったのかは容易に想像出来た。

 十数年前、恐らく英雄戦争が起きた時辺りの話になるのだろう。

 大きな戦争が起き、多くの人の命が奪われた時代。

 そんな時代に生まれた武器職人。

 忌み嫌われて当然の存在だろう。

 そんな人に武器を作ってくれと頼みに行くのかと思うと、クロトは申し訳なく思い、ただ拳を握り締める事しか出来なかった。

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