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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
158/300

第158話 港での再会

 半月以上が過ぎ、クロト達はようやく最東端の港へと辿り着いた。

 本来は一月程掛かると思っていたが、途中親切な商人に馬車に乗せてもらった為、予定よりも早く到着する事が出来た。

 ただ、まだクロトとケルベロスの関係は修復されておらず、漂う空気は重苦しい。

 しかし、セラはそんな事お構いなしに、二人の手を引き街へと足を踏み入れた。


「とうちゃーく!」


 セラの愛らしい声が響いた。

 しかし、行き交う人々は足を止める事なく、目の前を通り過ぎていく。

 三人になど全く関心はなかった。

 それもそうだろう。

 雪が降り寒い中、足を止めてわけの分らない旅人に目を向ける程、この町の人々に余裕は無いのだ。

 ましてや、三人は魔族。

 この町の人たちにとってみれば厄介者でしかなかった。

 行き交う人達の反応がイマイチだった為か、セラは不満そうに頬を膨らす。

 和平条約が結ばれた為、もう魔族と言う事を隠しておく必要も無く、セラの尖った耳が茶色の髪からチラチラと見え隠れする。

 魔族と言う事を全面に出すセラは腰に手を当てる。


「うーん……反応薄くない?」


 セラは振り返りクロトへとジト目を向ける。

 苦笑するクロトは、左手で頬をかくと、


「そりゃ、魔族だし……」


と、困り顔で答えた。

 当然の答えに、セラは「そうだけど……」と少々気落ちしていた。

 セラとしてはウェルカムと迎えられる事を期待していた。

 だが、ここに来るまでに寄ったどの町でも反応はイマイチで、どちらかと言えば冷ややかな眼差しを向けられていた。

 そんな事もあった為、セラの落ち込みようは酷いものだった。

 落ち込むセラに苦笑するクロトは、肩の力を抜くと、ゆっくりと足を進める。


「とりあえず、レッドを探そうか。まだ待っているはずだし」

「うん……そうだね……」


 肩を落とし俯くセラは破棄の無い声でそう答えた。

 それから、三人は町を散策する。

 レッドは港で待っていると言う事だけだった為、この港の何処で待っているのかクロト達は分らないのだ。

 その為、クロトはキョロキョロしていた。

 一方、セラはクロトと違い目を輝かせ店内を覗く様にキョロキョロとしていた。

 二人の数歩後ろを歩むケルベロスは腕を組んだまま白髪を揺らしていた。

 褐色の肌に白髪はとても目立ち、すれ違う人々は思わず足を止め振り向いていた。

 それ程、ケルベロスの風貌は印象的だったのだ。

 暫く、町中を散策した三人は広い道の真ん中で途方に暮れていた。


「レッドの奴、何処にいるんだ?」

「もう、逝っちゃったのかな?」

「…………?」


 セラの言葉に、クロトは小さく首を傾げる。

 一瞬、その言葉にクロトは自分の考えている言葉とは違う意味の印象を受けた。

 だが、すぐに頭を左右に振り、


「そうかもな、行ったのかもしれないな」


と、苦笑する。

 すると、セラは小さくため息を吐き、


「そっか……もう逝っちゃったのかー」


と、目を細める。

 やはり、何処か違う言葉の意味合いを感じ取り、クロトはセラへと顔を向ける。


「…………あの、セラ?」

「何?」

「えっと……何だか別の意味を含んだ言葉の様に聞こえたけど、気のせいかな?」

「へっ? うーん……気のせいじゃないかな?」


 満面の笑みでセラはそう答えた。

 その為、クロトは「そ、そっか」と小さく頷き、それ以上何も聞かなかった。

 いや、聞けなかった。

 そんな時だった。


「クロトッス!」


 と、聞き覚えのある幼さの残る声が響いた。

 その声にクロトが返答するよりも先に、セラが両腕を振り上げ甲高い声を上げる。


「ミィ! 久しぶりぃー!」

「久しぶりッス! セラ!」


 タタタタッと駆けて来た小柄なミィが、そのままジャンプしセラとハイタッチをする。

 久しぶりの再会だった為、二人共大分興奮気味で、両手を繋ぐとクルクルとその場で回り始めた。

 喜びを全面に表す二人に対し、少々クロトは引いていた。

 流石に、このノリには着いていけないと、クロトは距離を置く事にした。

 ミィの朱色の髪は出会った時よりもやや伸び、肩口でその毛先が揺れる。

 あの時は男の子っぽかったミィだが、今見れば何処からどう見ても女の子だと分かる程、可愛らしくなっていた。

 その為、クロトは聊か驚いていた。


(女の子は変るって言うけど……大分変ったなぁー)


 まるで親戚のオジサンの様な感覚で腕を組み頷くクロトは、瞼を閉じしみじみとしていた。

 クルクルと回っていたセラとミィが目を回し動きを止める。

 それから、フラフラとセラは建物の壁へと手を着くと、


「うえっ……」


と、嗚咽を吐いた。

 流石に酔った様で、そのままその場に蹲った。

 一方、ミィもその場に倒れこみ動かなくなった。

 そんな二人にクロトはただただ苦笑し、ケルベロスは呆れた様に目を細め、鼻から息を吐き出した。

 暫く時を置き、セラとミィの体調が戻った頃、クロト達は近くにあったバーに入っていた。

 流石に寒空の下では落ち着いて話せないだろうと、言う事になったのだ。

 静かに流れるメロディーをバックに、クロトは静かにミィへと尋ねる。


「どうして、ミィがここに?」


 当然のクロトの質問に対し、ミィはパフェの生クリームを頬に付けたまま答える。


「んんっ。実は……んぐんぐ……あの……んぐんぐ……」

「あー……食べてからでいいから」

「そうそう……んぐんぐ。食べてからで、んぐんぐ……いいよ……」


 と、セラもケーキを頬張りながら答えた。

 二人の態度に流石にクロトは疲れたようにため息を吐き、ガックリと肩を落とした。

 数分が過ぎ、セラもミィも食べ終わった頃、クロトはもう一度尋ねる。


「それで、ミィは何でここにいるんだ?」


 クロトの質問に対し、ミィはキョトンとした表情を見せると、


「もちろん、クロト達を待ってたんスよ?」


と、口にした。

 その答えにクロトは訝しげに眉間にシワを寄せ、セラは嬉しそうに笑う。


「それにしても、またミィちゃんと再会出来て嬉しいよー」

「自分も嬉しいッス!」

「少し見ない間に、大分印象変ったよねー」

「それは、セラも一緒ッスよ!」


 お互いを褒めあう二人に、一旦話の流れが切られた。

 複雑そうな表情で頬杖を突くクロトは、深いため息を吐き水を口へと運んだ。

 しかし、すぐにその口元は緩む。

 クロトとしても、キャッキャキャッキャと浮かれるセラとミィの姿を見ていると、心が癒された。

 これまで、色々辛い事苦しい事があったが、それでもこうして笑い合うことが出来ると言う事が、クロトにとってささやかな幸せでもあった。

 そんな折、唐突にミィの動きが止まる。

 表情は無。

 視線が向けられるのは、斜め前に座る白髪の男、ケルベロス。

 沈黙が漂い、静かなメロディーだけがその場に流れる。

 突然のミィの停止にセラは首を傾げ、クロトも思わずその視線をミィへと向けた。

 それから、ワナワナとミィの表情が変化していき、驚愕の表情で声を上げる。


「きゅ、急に老け込み過ぎッス! 何スか! その頭は!」


 混乱、戸惑い、驚き、すべてが入り混じり、ミィはその目を回し、両手で頭を抱える。


「な、な、なな、な、何があったんスか! そんな老け込む程の事がこの二・三ヶ月の間にあったって言うんスか!」


 静かな店内に響くミィの声。

 その声にクロトは苦笑し、腕を組むケルベロスは額に青筋を浮かべる。

 そして、セラは――


「わわっ! お、おち、落ち着いて! 落ち着いて!」


と、ミィと一緒になって大慌てしていた。

 完全に二人の声は店の雰囲気をぶち壊しにしていた。

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