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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
152/300

第152話 血塗れ童子

 時は十数年前に遡る。

 場所は東の大陸クレリンス。

 大陸と言うよりも大小様々な島のみが存在する島国。

 その外れにある小さな小さな島。

 そこでその事件は起きた。

 数十人の人間と数十人の魔族が平和に暮らすその島で育った一人の少年。

 赤神と言う一族の生まれで、才能溢れる少年だった。

 赤神一族は、クレリンス大陸の中でも上位に入る名家で、その剣術、武術は圧倒的な強さを秘めていた。

 しかし、現在赤神の名はクレリンス大陸から消滅した。

 その島に住む人間、魔族全ての者の命共に。

 何が起こったのかは定かではない。

 何故なら、その事件を知ったのは、事が起きた一年後の事だ。

 たまたま、その島の傍を通りがかった八会団の一人天鎧が異変に気付き、島に上陸した。

 そこで見たのは全身を血に染め、肉に貪りつく一人の少年だった。

 赤く血に染まった瞳をぎらつかせ、ハエのたかる腐った肉を食らう少年は、獣のようだったと言う。

 もちろん、彼が喰らった肉はただの肉ではない。

 殺された人間、魔族の遺体だった。

 それは、生きる為、生き抜く為の仕方ない事だった。

 だが、その事件がキッカケで、その少年は“血塗れ童子”と呼ばれるようになった。

 その後、彼は名を変え、勇者と呼ばれる男の養子に迎えられた。



 全てを話し終えたケルベロスが、腕を組み深く息を吐いた。

 その話を聞き終えたクロトは、眉間にシワを寄せると小さく首を傾げる。


「血塗れ童子って呼ばれる様になったのは分かったけど……なんで、二人はあんな複雑そうな顔してるんだよ?」

「そうだよ。別に、悪い事したわけじゃないんでしょ?」


 セラもクロトの意見に賛同し、そう口にするが、ケルベロスとファイの表情は複雑そうなままだった。

 その為、クロトとセラは顔を見合わせると小さく首を傾げる。

 すると、ファイが重い口を開く。


「彼が喰らった肉が……問題だったのかもしれません」

「喰らった肉?」


 クロトが聞き返すと、ファイが小さく頷いた。


「はい。彼は生きる為に多くの人の肉を喰らいました。それは、人間、魔族問わず。その行動が、血塗れ童子と呼ばれるキッカケとなり、同時に彼に与えてしまったんです」

「与えて……しまった? 一体、何を?」


 クロトは息を呑み、そう尋ねた。

 ドクンと心臓が脈打つ。

 何か、ゾワッとした感覚が体を包み、クロトは身を震わせる。

 そして、ファイは静かに唇を動かした。


「彼は得てはいけない魔族の力を得てしまった……。故に、あの異名が付けられたんです」

「ちょ、ちょっと待って! 得てはいけない魔族の力って……魔力の事でしょ? 別に、得てはいけないって事はないんじゃ……」


 セラが慌ててそう言うと、ファイに代わりケルベロスが頬杖をついたまま口を開く。


「それだけならまだマシだったかもな」


 遠い目で窓の外を見据えるケルベロスに、クロトは表情を険しくした。

 クロトの頭の中に、一つの答えが出たのだ。

 そして、ケルベロスはクロトの出した答えに、ふっと息を吐き頷いた。


「ああ。今、お前の出した答え……それが、正解だ」

「で、でも、そんな事、ありえるのか! 魔族の肉を食ったからって……そんな事……」

「無いとは言えないだろ? 誰も、魔族の肉なんて食った事は無い。何故なら、普通、人の肉を食おう何て、人は考えない」


 ケルベロスは白い髪を揺らし、切れ長の眼差しをクロトへと向けた。

 息を呑むクロトは、眉間へとシワを寄せ、わけが分からないセラは頭にハテナマークを浮かべ首を傾げる。

 そんなセラにファイは静かに呟く。


「セラさん。いいですか」

「は、はい。な、なんですか?」


 真剣なファイの言葉に、セラも思わず丁寧に答える。

 すると、ファイは一旦瞼を閉じると、悲しげな眼差しをセラへと向けた。


「その島には数十人の魔族が居たんです。種族を問わずに……」

「種族を問わないって事は、魔人族も、獣魔族も、龍魔族も居たって事……だよね?」

「ええ。そして、彼が喰らった肉は……」

「魔族と人間の肉……でしょ?」


 訝しげな表情でセラがそう言うと、ファイは小さく頷き、


「なら、その魔族の得てはいけない力とは?」

「だから、それは、魔力の事でしょ? でも、魔力を持った人間なんて、結構居るじゃない!」


 テーブルを叩き、勢いよく立ち上がったセラがそう声を上げる。

 そんなセラに、俯くクロトは答える。


「その力が、魔力だけじゃなかったとしたらどうだ?」

「えっ……魔力だけじゃなかったとしたら……えっ? えぇっ! そ、それって!」


 口元を左手で覆うセラが驚き、息を呑む。

 セラも理解した。その言葉で、全てを。

 絶句するセラは、思わず後退り椅子を倒す。

 椅子の倒れる音が部屋に響き、やがて消えていく。

 静寂が部屋を包み、ひび割れた窓の隙間から冷たい風だけが入り込んだ。

 誰もが言葉を発せずにいる中で、クロトは不意にレッドの事を思い出し、声をあげる。


「ちょ、ちょっと待て! お、おかしい! おかしいよ! その話は!」


 慌てたクロトの声に、ケルベロスとファイが眉間にシワを寄せた。

 そんな二人にクロトは告げる。


「レッドは、聖剣に選ばれた男だぞ? 魔力と聖力は対なるもので、両方を手に入れる事は出来ないって……」


 クロトがそう言うと、ケルベロスは静かに両手を組む。


「ああ。確かにそうだ。魔族が持つ魔力と、人間が生み出した聖力は決して交わる事が無い。だからこそ、この仮説が成り立ったんだ。魔族の肉を食えば魔力を得られると」

「――!」


 ケルベロスのその言葉にクロトは目を見開く。


「じゃ、じゃあ……」

「そうだ。赤神一族は元々強い聖力を有する一族で、彼は生まれもって強い聖力を宿していた。魔力を得たとすれば、魔族の肉を食ったからしか考えられないんだよ」

「でも、それで、どうして獣魔族や龍魔族の力まで……」


 テーブルに両手を着き俯くクロトが呟くと、ケルベロスは肩を竦める。


「理由は定かではない。ただ、一部で、その検証をしようと、魔族の肉を喰らった者が居るらしいが、ソイツラは魔族の力は得られなかったと言う。その事から、一年近く魔族の肉を喰らい続けなければならないのではないか、と言う話も出ている」

「な、何でそんな事……」


 クロトはそこまで言って口を噤んだ。

 今に思えば、このヴェルモット王国では似たような事が行われていた。

 龍魔族の目を奪い、獣魔族の肉体を奪い、魔人族の魔力を奪う。

 そんな実験を行ってきたこの国の事を考えれば、魔族の肉を喰らうだけで魔族の力を得られるなら真っ先に試みるはずだと。

 拳を握るクロトに、ケルベロスは息を吐いた。


「話を戻すぞ?」

「ああ……」

「とりあえず、レッドと言う男は魔族の肉を喰らい力を手に入れた。聖力を宿したその体に。故に奴が勇者を名乗った当時、魔族の間にはその血塗れ童子と言う名が浸透した。奴は魔族を狩る為に勇者になったのだとな」


 ケルベロスが不快そうな表情を浮かべる。

 だが、クロトは小さく首を振った。


「違う……レッドはそんな奴じゃない……」

「どうして、そう言いきれるんですか?」


 ファイが静かに尋ねる。

 もちろん、言い切る理由は何も無い。

 ただ一度食事をし、少しだけ話しただけで、相手の本質を見抜く事なんて不可能だ。

 それでも、クロトは言いきる。


「アイツは、魔族と人間が仲良く暮らせる世界を目指してた! それに、勇者は父から受け継いだって!」

「その父親が問題なんですよ」


 ファイが静かにそう言う。

 ケルベロスとファイの冷めた眼差しに、クロトはこの時初めて気付いた。

 恐ろしく怖いその視線に息を呑むクロトに、ケルベロスはゆっくり瞼を閉じる。


「別に、そいつに恨みがあるわけじゃない。血塗れ童子だからってどうって事無い。ただな。その勇者と言う異名を、魔族の力を得たアイツが受け継いじゃいけねぇ……」

「な、何でだよ……」


 クロトがそう尋ねると、ケルベロスは殺意の篭ったその眼を開き静かに告げる。


「勇者は魔族を殺しすぎた」


 その言葉にクロトの心臓がドクンと強く脈打った。


「私の両親は勇者に殺された。何かをしたわけじゃない。ただ魔族と言うだけで……」

「俺の親も勇者に殺された。あの当時は今よりも過激に戦闘を繰り広げていたから、仕方ないと言えば仕方ない……。だがな……だからと言って許せるもんじゃないんだよ」


 ファイとケルベロスの言葉にクロトはただ驚愕する。

 信じられなかった。

 レッドの父が――先代の勇者がそんな事をしていたなどと言う事が。

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