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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
151/300

第151話 現状と今後

 ケルベロスは、クロトへと現状を説明した。


 現在、ヴェルモット王国はグランダース王国と和平条約を結んだ。

 それにより、ヴェルモット王国領土の一部が魔族にも解放された。

 一応、この王都も魔族に解放されており、クロト達は正式な和平条約の下でヴェルモット王国の王都に滞在しているのだ。

 和平条約を結んだのは、国王が居ない現状をどうにかしなければならないと、白銀の騎士団の異名持ち、ギーガ、ウィルヴィス、グラスの三人で考えた苦肉の案だった。

 先の大戦で大幅に戦力を失ったヴェルモット王国としては、今、グランダースと争うのは得策ではないと言う話し合いになったのだ。

 それに、もう一つ、そうなる要因があった。

 それは、ギルド連盟の猿と呼ばれる男が、一つの情報をもたらしたのだ。

 地下牢で国王ヴァルガの白骨死体が発見されたと。それは、もう何十年も前に殺されたモノだった。

 その事実を告げらたのは、白銀の騎士団のあの三人だけ。この真実を国民に伝えれば、恐らく大きな騒ぎとなるだろう。

 今まで国王が偽者だったなど気付かなかった間抜けな兵達と、今まで重税を掛けられ苦しめられた国民は大暴走するだろう。

 そう考えた結果、その三人にのみ告げられた真実だった。

 ケルベロスがその事を知っているのは先日、ここに来たのだ。片腕を失った龍殺しのウィルヴィスが。

 何故、クロト達がこの場所に居ると知ったのかは定かでは無いが、彼は涼やかな顔でここにやってきた。

 魔王デュバルの右腕であるケルベロスと、その娘セラには伝えておくべきだと、この件を話しに来たのだ。

 何故、その事を伝えに来たのかは言わなかったが、その際にクロトへの手紙をセラに渡したのがウィルヴィスだった。


 一通り、話し終えると、ケルベロスは深くため息を吐いた。

 その話を黙って聞いていたクロトだが、その視線は明らかにケルベロスの白髪へと向けられる。

 話よりも何故ケルベロスの頭が白髪になったのかが気になっている様子だった。

 腕を組み眉間にシワを寄せるケルベロスは、そんなクロトに対し鋭い眼差しを向け、尋ねる。


「貴様……俺の話を聞いていたのか?」

「あ、あぁ……和平条約の事は分かったけど……肝心のお前の頭の件と、ルーイットの件がまだ……」


 何処か浮ついた感じのクロトがそう呟くと、ケルベロスのコメカミに青筋が浮かぶ。

 一応、話は聞いていたと言う事で、ケルベロスはその怒りを呑み込むが、その目は明らかに不快そうだった。

 そんなケルベロスに代わり、ファイが肩口で空色の髪を揺らし、答える。


「ルーイットの件は今、私の生み出した氷狼と氷鳥で探しています。このフィンク大陸にいるなら、見つかるはずです」


 落ち着いた面持ちでそう言うファイの赤く腫れぼった目を見据え、クロトは「そっか」と呟いた。

 ファイの目の腫れには気付いていたが、クロトはあえて聞かなかった。その目から泣いていたのだとすぐに分かった。

 何があったのかは分からないが、その理由は聞かない方がいいと判断したのだ。

 腕を組み細かく頷くクロトに、ケルベロスは表情を引きつらせ、


「お前、本当に理解しているのか?」


と、尋ねた。

 もちろん、クロトの返答は、


「当たり前だろ?」


だった。

 返答通り、言われた事をクロトは理解していた。

 その為、ケルベロスも強くは追求できず、ただ苦虫を噛み殺した様な表情で俯いていた。

 不安そうなセラは、胸の前で手を組むと俯き深く息を漏らす。


「大丈夫かな? ルーイット……」

「どうでしょうね。私もケルベロスも運良く近場に転送されましたが、あの空間転移能力が何処までの範囲に及ぶのかは、分かりませんから」


 冷静な口調で自らの分析を述べるファイに、セラは一層不安を募らせた表情を浮かべた。

 そんな中、やはりクロトの視線はケルベロスの白髪へと向けられる。

 その視線に気付き、ケルベロスは不快そうな表情を浮かべ、眉間にシワを寄せた。


「何だ? 人をジロジロと!」

「いや、だから、その髪、何で急に老け込んだんだ? まだ、その理由は聞いてないだろ?」


 訝しげなクロトの言葉に、ケルベロスはジト目を向け、


「黙れ」


と、一喝。

 しかし、クロトも流石に引き下がるわけにいかない


「いやいや。黙れじゃなくて、説明をしろよ!」

「うるさい、黙れ」


 ケルベロスの答えは変らない。

 その為、クロトは眉間にシワを寄せ、セラの方へと顔を向ける。


「あの人、どうにかしてもらえませんか?」


 クロトは右手でケルベロスを指差し、セラに助けを求めた。

 そのクロトの言葉に、セラは苦笑に首を傾げる。


「どうにかしてって言われても、私も分からないんだよね。ケルベロス、頑なに話さないし……」


と、困り顔だった。

 渋い表情のクロトは、ケルベロスへと顔を戻すと、目を細める。


「何で頑なに隠すんだよ?」


 クロトがそう尋ねるが、ケルベロスは視線を逸らすと腕を組み深く息を吐いた。

 ケルベロスが頑なに魔力解放の事を隠すのには理由があった。

 一つはクロトとセラにこの技の存在を知られない為。

 そして、もう一つがケルベロスが現在魔力を完全に失っていると言う事実を知られない為だった。

 もちろん、二人にはケルベロスが魔力を消失したとは伝えたが、今はもう回復しているファイと口裏を合わせていた。

 魔力を失った事を知られれば、多大な迷惑を掛ける事をケルベロスは知っている。

 だからこその嘘だった。

 もちろん、ファイも同じ考えだった為、口裏を合わせたのだ。

 それ程、魔力解放はリスクの伴うものなのだ。

 暫くクロトは不満をぶちまけていたが、結局ケルベロスは答える事無く時は過ぎた。

 不満だったが、クロトも諦め大きなため息を吐くと肩を落とした。

 ひと段落つき、ケルベロスはようやく口を開く。


「とりあえず、今後の事を話し合おうじゃないか」

「勝手に仕切るなよ」


 クロトがジト目を向けると、ケルベロスは「ふん」と鼻を鳴らし、話を進める。


「俺達はしばらくここに滞在しようと、俺は考えている。ルーイットを探すと言う目的もあるし……」

「確かに、ルーイットを探すと言う目的は分かるけど……大丈夫なのか? 和平条約を結んでるけど、ヴェルモット王国の王都だぞ? 危険じゃないか?」


 冷静にクロトが自分の考えを述べる。

 その答えに、ケルベロスは眉間にシワを寄せる。

 確かにクロトの言う事は一理あった。和平条約を結んだと言ってもそれは、国が決めた事。国民皆が納得しているわけではないのだ。

 故に、魔族がヴェルモット王国の王都に滞在するのは危険な事だった。

 正論に反論など出来るわけも無く、沈黙が続く。

 その中で、セラは先程のクロトへの手紙の事を思い出し、控えめに挙手する。


「んっ? どうした? セラ?」


 腕を組むケルベロスが、白髪を揺らしセラへと視線を向ける。

 なれないケルベロスのその髪の色にセラは思わず笑いを噴出しそうになるが、それを必死に堪え告げる。


「あ、あの……実は、クロトが手紙を貰って……」

「手紙?」

「うん……。それでね……」


 怪訝そうなケルベロスへと、セラはクロトの貰った手紙の内容を告げた。

 もちろん、書いてあったのは、港で待つのみだった為、大した情報は無い。

 だが、レッドと言う名に、ケルベロスは聞き覚えがあった為、不満そうな表情をクロトへと向け、真剣な口調で尋ねる。


「お前、知り合いなのか?」


 ややドスを利かせたケルベロスの声に、クロトは小さく頷き、


「ああ。知ってるよ。以前、ちょっとあって、話した事があるんだ」

「…………」


 その答えに、ケルベロスはただ黙ってクロトの目を見据える。

 嘘偽りは無いその目から読み取り、ケルベロスは腕を組み瞼を閉じた。

 渋るケルベロスに、クロトは少々疑問を抱き、眉をひそめ尋ねる。


「何だよ? そんなに考える事なのか?」

「お前、ソイツが何者か、知ってるのか?」

「勇ましい者で勇者だろ?」


 クロトがそう言うと、ケルベロスの表情が僅かに険しくなった。

 それは、ファイも同じで、少々複雑そうに口を開く。


「えぇ。レッドには勇ましい者、勇者と言う称号もありますが、彼にはそれ以外に異名があるんですよ」

「異名? それって、勇者じゃないのか?」


 ファイの言葉にクロトが右手の手の平を天井へと向け軽く振り言うと、ファイは小さく首を振る。


「勇者は称号。人間達が彼をたたえそう呼んでいるだけです」

「奴の異名は“血塗れ童子”。今ではもう薄れているが、奴は十数年前にそう呼ばれていた」


 ケルベロスのその言葉にクロトは訝しげな表情を浮かべる。

 とてもじゃないが信じられない異名だったのだ。

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