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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
147/300

第147話 ベルの戦い

 ベルは一瞬にして間合いを詰めると、身を屈め鎧の男へと蹴りを見舞った。

 それは、鎧と兜の間を縫い、その男の顎を的確に蹴り上げ、衝撃で男の体は宙へと舞う。

 そして、ベルはそれを追う様に跳躍した。


「くっ!」


 表情を歪める鎧の男が空中で体勢を整えようとするが、ベルはそれをさせまいと、自らの背丈よりも長い剣を一振りした。

 赤い閃光が飛来し、鎧の男が垂直に地上へと叩きつけられた。

 轟音が轟き、爆風が吹き荒れる。

 この男の鎧が攻撃を反射するという事を知っていたベルは、それを利用し、あえて男の鎧を力強く叩いた。

 そして、反射された勢いで一層高く空へと舞い、そこから地上を見渡す。

 それから、クロトを投げた方角へとチラリと視線を向けた。

 一瞬見えた。氷の鳥が。その背に乗る者の魔力の波動が。

 彼女達がクロトの下へ向かったのなら安心だと、ベルはすぐに視線を地上へと向け、やがて急降下する。

 目標は決まっていた――。



「完全に遊ばれてんじゃ――!」


 真紅のローブに身を包んだ魔術師の前に、ベルは音も無く着地する。

 僅かに土煙を足元に舞わせ、ベルは低い姿勢で腰の位置に剣を構えた。

 先程、クロトが冬華と呼んだ少女を背にするベルは、静かに顔を挙げ魔術師を睨んだ

 フードの奥の赤い瞳と目が合う。それと同時に、ベルは腰の位置に構えた剣を横一線に振り抜いた。


「ぐっ!」


 表情を歪めた魔術師はその背を限界まで仰け反らせる。

 魔術師の顔の前を漆黒の刃が横切り、その切っ先は僅かにそのフードの先を掠めた。

 すぐさま魔術師はその場を飛び退き、鼻筋にシワを寄せ怒鳴る。


「てっめぇー! なめてんじゃねぇーぞ!」


 しかし、ベルは魔術師になど目も暮れず、後ろに居る冬華へと視線を向けた。


「あなたは、逃げなさい」


 静かにそう告げる。

 ベルにとって彼女は全くの他人だが、何故だか助けなければならない、そう感じたのだ。

 それは、先程のクロトの反応と、彼女に以前にも感じた事のある不思議な気配を感じ取った。だからこそ、ベルは彼女を助ける為に、一人で立ち向かう。

 残り僅かな魔力で。

 だが、そんなベルに幸いな事に、目の前の魔術師は怒りの声を上げる。


「てめぇー! ぶっ飛ばす!」


 何が魔術師の怒りに火を点けたのか、ベルにはさっぱり分からなかった。

 しかし、魔術師の体から迸る魔力の波動に、ベルは薄らと笑みを浮かべる。


「これは、ありがたい……」


 そう呟き剣を下す。

 魔術師の右手に魔力が凝縮し、赤い光が集まる。

 その時、何処からか声が響く。


「止めろ! ソイツは――」


 聞こえた声にベルは


「もう遅いな」


 と、静かに呟き、ゆっくりと息を吐く。


「フレイムレーザー!」


 魔術師の幼さの残る声が轟き、その手から放たれる。

 真っ赤な炎を圧縮したレーザーが。

 そのスピードは恐ろしく速い。だが、ベルにはそんな事関係なく、左手をかざし真っ向からそのレーザーを受け止めた。

 爆音が轟き、激しい衝撃が広がる。

 しかし、思ったよりもその勢いが弱かった為、魔術師の表情は険しかった。


「な、何だ……」


 やがて、土煙の向こうから感じる膨大な魔力の波動を。


「中々、質の良い魔力だ……。これで、もう少し長く戦えそうだ……」


 僅かに吹いた風が土煙を払い、その向こうから無傷のベルが姿を見せた。

 息を呑む魔術師に、銃を持った漆黒のローブに身を包む男が声を上げる。


「ソイツは魔剣だ! 魔力の類は吸収される!」

「なっ!」


 驚く魔術師に、ベルはゆっくりと一歩前に出ると、後ろに冬華へと声を上げる。


「早く行け!」

「えっ、あっ、はい!」


 ベルに怒鳴られ、冬華は走り出した。

 黒髪を揺らし立ち去る冬華の後姿に、魔術師は怒鳴り声を上げる。


「逃がすと思って――」


 追いかけようと動き出す魔術師の前に、ベルが割り込んだ。

 その動きに魔術師は表情を強張らせる。自分がこのベルと相性が最悪だと分かっているのだ。

 しかし、そんなベルへと、背後から迫る巨大な影。

 その影は大きな剣を振り上げる。


「きさまの相手はこの俺だ!」


 黒光りする鎧を纏った男が、振り上げた大剣を振り下ろした。

 だが、ベルはそれを見ることなく剣を頭上へとかざし、刃を受け止める。

 重々しい金属音が響き、衝撃がベルの長いオレンジブラウンの髪を揺らした。

 奥歯を噛み締める鎧の男に対し、ベルは剣を弾き返すと体を前方へと倒し、そのまま後ろ蹴りを見舞う。

 その体の柔軟性から振り抜いた左足は大きく伸び、男の顎を蹴り上げた。

 大きく顔はかち上げられ、男の背筋が伸びる。

 そして、激しく脳を揺さぶられた男の体が地面へと崩れた。


「悪いが、私はお前一人の相手をしている暇は無い」

「くっ! てめぇ!」


 鼻筋にシワを寄せ、怒りを滲ませる魔術師。

 だが、そんな魔術師の前に、今まで気配を完全に消していた和装の男が下駄を鳴らし現れた。

 束ねた黒髪を揺らすその男にベルは眉間にシワを寄せる。

 明らかに魔術師と鎧の男とは違う不気味なオーラに、ベルは息を呑んだ。


「コイツは俺が相手をする。お前らはあの女を追え」

「くっ! まぁ、魔力の使えないあんたに任せるわ」


 魔術師がそう言い空へと舞った。


「私が逃がすと、思ってるのか!」


 ベルはスグに剣を構え、跳躍する。

 しかし、その目の前に突如、和装の男が姿をみせ、鞘に納まったままの刀でベルを殴りつけた。


「ぐっ!」


 地上へと無理やり叩き落されたベルは、バランスを崩し膝を落とす。

 それに遅れ、和装の男が静かに地上に降り立つ。


「言ったろ? お前の相手は俺だ」

「くっ……」


 眉間にシワを寄せ、ベルは険しい表情を見せる。

 そんなベルへと、和装の男は静かに刀を抜いた。

 不気味な空気を漂わせるその刀にベルは警戒心を強める。


「俺の血桜と、魔剣。どちらが強いのか証明しようじゃないか」

「悪いが、瞬殺させてもらう」

「やれるものならやってみろよ」


 不適な笑みを浮かべ、和装の男は腰を落とした。



 宙を舞う魔術師は、冬華をその目で探す。

 轟々と燃える森の中、一人の少女が走るのが目に止まる。

 不敵な笑みを浮かべ、魔術師は右手を構えた。


「これでも、くらえ!」


 発射口に赤い光が凝縮される。

 膨大な魔力を集め、狙いを定める魔術師は、大きく声を上げる。


「フレイムレーザー!」


 衝撃で右腕が大きく跳ね上がる。

 直進する赤いレーザー。だが、直後、そのレーザーが凍り付き、空中で粉々に砕け散った。


「なっ!」


 魔術師は突然の事に驚く。

 幾ら寒いと言っても、炎のレーザーだ。そう易々凍りつくなどありえない事だった。

 何が起こったのか理解出来ていない魔術師に、突如氷のツブテが飛来する。


「うぐっ!」


 驚いていた為、反応が遅れ、氷のツブテは見事に魔術師に直撃し、そのまま地上へと叩きつけられた。

 氷は衝撃で砕け散り、魔術師の体は地面へと減り込んだ。


「だ、誰だ……」


 口角から血を流しながら、魔術師は体を起こす。

 すると、そこに着崩した着物をまとう一人の女性が降り立った。

 長い白髪を揺らすその女性は、紫色に染まった唇を妖艶に緩める。


「ふふふっ。よかったら、私の相手をしてくださらないかしら?」


 大人びた静かな声に、魔術師は眉間へとシワを寄せる。


「あんた、誰だ? 俺の邪魔してんじゃねぇ!」


 魔術師が右腕をその女性の方へと向ける。

 だが、女性は妖艶な笑みを崩さず、左手を差し出す。

 すると、冷気が漂い、魔術師の義手に霜が走る。


「ぐっ!」


 その瞬間、魔術師の表情が歪んだ。

 霜により義手が軋み、魔力伝達回路が破損し上手く魔力が練りこめなくなっていた。

 険しい表情を浮かべる魔術師に、女性は「ふふふっ」と笑う。

 だが、その表情は次の瞬間響き渡った数発の銃声で凍りついた。

 そして、その視線は銃声の方へと向く。

 彼女の目に飛び込む。数発の銃弾を浴び血を噴くヴェリリース。

 その体が静かに地面へと倒れ、二度、三度とバウンドした。

 目を見開くその女性は、その瞬間に声を上げた。


「先生!」


 すぐに駆け出そうと身を翻す。

 しかし、そんな彼女の前に炎の玉が落下し、その行く手を阻む様に広がった。

 そして、彼女の背後で静かな笑い声が響く。


「くくくっ……あんたは俺の相手をしてくれるんだろ? そうか……くくっ……あんた、あの魔女の弟子か」


 肩を揺らし笑う魔術師に、女性はゆっくりと振り返る。

 その全身から膨大な魔力を迸らせ、その皮膚には鱗模様を浮かべて。


「貴様……死んでも、文句は無いな?」

「――ッ!」


 魔術師は、ここで後悔する。自分が対峙している相手が、ここに居る誰よりも危険な存在なのだと、一瞬で理解したのだ。

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