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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
144/300

第144話 最強の魔女 死神ヴェリリース

 金色の破片が宙を舞う。

 ヴァルガの右脇腹から入った大鎌の刃はそのまま金色の鎧を内側から破り、左脇腹から切っ先を突き出していた。

 だが、おかしな事に、その肉体からは血が全く出ていない。

 その事に特に驚いた様子も無く、黒衣に身を包んだ女性は、キセルを右手で掴むと口から離し、煙を噴いた。

 冷めたジト目を向け、煙を吐ききった女性は、左手を斜め下へと伸ばした。

 すると、その手に土が集まり、また大鎌を形成する。

 そして、その大鎌の柄頭を地面へと突き立てヴァルガを睨みつけた。


「いい加減にしたらどうだい? それとも、私相手には土人形で十分だって高をくくってるのかい?」


 キセルを銜えなおし、女性はそう怒鳴った。

 彼女の怒鳴り声に大地は揺れ、激しくも重々しい重圧が辺りを支配する。

 その空気に瞼を閉じ、魔力の回復に努めていたクロトは体を起こし、彼女の方へと顔を向けた。

 ビリビリと皮膚を刺す殺気と魔力の大きさに、クロトの右目は自然と赤く輝く。

 それは、本能的にに感じたのだろう。この戦い、彼女のその戦う姿は見届けなければならない、と。

 何故、そうクロトか感じたのか定かではない。しかし、その右目が、その心臓が、クロトを鼓舞する様に脈を打ち、血流を速め、傷を早々に癒そうと体を駆け巡った。

 目を見開き、彼女の背を見据えるクロトに、ベルもまた何か異質なモノを感じ取っていた。

 大分、魔力を消費していたはずのクロトの体から、膨大な魔力が染み出していたのだ。

 魔力量が人よりも多い事は分かっていたが、その器をも溢れさせる程の魔力が、今のクロトの体から溢れていた。


(クロト……お前は、一体何者なんだ……)


 驚くベル。これ程までの魔力の質、量は、前回の持ち主であったジンを遥かに凌いでいた。

 いや、それだけではない。今まで自分の持ち主であった誰よりも濃く、膨大な魔力だった。

 クロトの体に何が起きているのか、何が起ころうとしているのかベルには分からない。だが、この力が危険なモノである事と、何れクロトがこの力に呑まれてしまうんではないかと、危惧していた。


 大鎌を体に突き刺したヴァルガは、静かに膝を落とす。

 やがて、その体には亀裂が生じ、ボロボロと皮膚が崩れ落ちる。

 そして、淡い紫色の眼が静かに地上へと落ちた。だが、それが地面へと落ちる直前、地面から腕が飛び出しその目を掴んだ。

 細く青白いその腕は眼を掴むと、ゆっくりと地中から男が姿を見せる。漆黒のローブを身に纏った不気味なオーラを放つその男が。

 両肩を大きく揺らし、不適な笑い声を上げるその男は、深々と被ったフードの中へと右手を伸ばした。


「まさか、あなたが出てくるとは思いませんでしたよ。最強の魔女、死神ヴェリリース」

「最強の座はすでに継承したよ。死神と言う異名もすでに継承済みだよ」


 その男の濁った声へとそう答えたヴェリリースと呼ばれた女性は、大鎌を静かに構える。

 横一線に構えた大鎌へと魔力を練り込んだ。黒光りするその刃が、魔力を帯び白く輝く。


「今は死を待つただの老いぼれだよ!」


 右足を踏み込み、ヴェリリースが走り出す。

 その動きに男はゆっくりと顔を上げる。彼の動きにヴェリリースは動きを止め、そのまま距離を取る様に後ろへと跳んだ。

 フードの奥から覗く淡い紫色の瞳が赤い血を流し、魔力を帯び真っ赤に光り輝いていた。

 その目が龍魔族の中でも希少とされる目だとすぐに気付いたヴェリリースは表情を歪めると、キセルの口を硬く噛み締める。


「お前は……一体、どれだけの禁忌を犯せば気が済むんだい」

「くっ……くっくっ……。どれだけの禁忌を犯せば? くっくっ……決まってるだろ。私が、最強と呼ばれるまでだよ!」


 男が濁った声を荒げると、禍々しい魔力がその体から迸る。

 恐ろしいその魔力の波動は、魔人族のそれとも、龍魔族のそれとも全く違う不気味な魔力の波動。

 クロトの右目にも、その魔力の波動は不気味な色で、逆巻いて見えた。

 寒気を感じさせる程の魔力に、ただ息を呑むクロトは、奥歯を噛み締める。シャルルの目を奪い、こんな事の為に利用するなんて、と怒りが湧き上がる。

 しかし、そんなクロトへと、ヴェリリースは鋭い眼差しを向け、怒声を上げた。


「呑まれるんじゃないよ! あんた、あの娘と何を約束したんだい。怒りは激薬。爆発的に力を与える。けどね。呑まれたらもう二度とは戻れない。心を失う事になるんだよ」


 彼女の言葉で、クロトはシャルルの最後の言葉を思い出す。


“その優しさを忘れないで”


 と、言う言葉を。

 唇を噛み締め、俯くクロトにヴェリリースは煙を口から吐き出し、


「闇に呑まれれば、あんたもアレの様になるよ」


 と、顎で禍々しい魔力を放つ男を指した。

 おぞましいその姿に、クロトは息を呑む。そして、自分もあんな風になりかけていたのかと、唇を噛み締める。

 口から静かに煙を噴くヴェリリースは、肩の力を抜くと空を見上げた。


「弟子の不始末は、師である私の不始末……。あんたの始末は、私がつけるしかない様だね」

「いつまでも、師匠面するなよ。私はもう、あんたを超えた。最強の称号が、誰に相応しいものなのか、教えてやるよ」


 白い歯を見せ笑う男が、両腕を広げ更に膨大な魔力を迸らせる。

 すると、ヴェリリースは口に銜えたキセルと静かにしまい、その胸元から白く光沢のある仮面を取り出した。


「仕方ないねぇー。今日だけ、特別だよ。死神として、私があんたの魂、狩らしてもらうよ」


 ドクロを象ったその仮面を、ヴェリリースは顔へと被る。

 すると、その仮面の目が赤く輝き、ヴェリリースの体から魔力が湧き出す。被った仮面が魔力を増加する引き金となったのだ。

 二つの強大すぎる魔力がぶつかり合い、空気は重くなる。

 張り詰めた緊張感にクロトはただただ目を見張る。二人の戦いを見逃さない様にと。


 対峙する二人。

 動き出したのは男の方だった。

 右腕を持ち上げ、その掌へと魔力を集める。


「まずは、小手調べ――」

「そんな事してる余裕があるのか?」

「――ッ!」


 男は驚く。ヴェリリースの声が自らの背後から聞こえたのだ。

 そして、気付く。先程、ヴァルガの体を捉えた大鎌の存在を。


「くっ! アースニードル!」


 瞬時に膝を地に着き、右手を振り下ろす。

 魔力を帯びた右手が地面へと触れると、大地が揺らぎ、男を中心に鋭いツララ状の岩が放射線状に広がった。

 男の後ろで大鎌を構えていたヴェリリースの腹部を、そのツララの一本が突き刺し、鮮血が舞う。

 だが、その姿はすぐに土へと変り、粉々に砕け散った。


「おやおや。簡単に背後を取られるとは、腕が鈍ったんじゃないかい?」

「ふっ……背後を取られた? 何を言っている? 死んだのはあんたの人形だろ」


 冷や汗を掻きながらも、強気に笑みを浮かべる男に対し、ヴェリリースは長いその髪を揺らし、大鎌を振り上げる。


「咄嗟の機転は利くようになったじゃないか。まぁ、それ位育ってもらわないと困るね。かつては、天才と呼ばれていた男なんだしね」


 そう言いヴェリリースが駆ける。

 刹那、男は更に左手を地面へと落とし、声を上げる。


「縛術、蟻地獄!」


 男が声を上げると、突如地面が陥没し、土が大きく中心へと吸い込まれていく。

 駆けていたヴェリリースの足がその土へと取られ、みるみる底へと沈んでいった。

 しかし、ヴェリリースは慌てた素振りも見せず、左手に魔力を集め、


「属性硬化」


 その左手が黒光りし、ヴェリリースはそれを陥没する地面の中心へと叩き込んだ。

 轟音が轟き、地面が弾かれる。爆風で空へと舞うヴェリリースは、その眼差しを男へと向け、鎌を振り上げる。


「砂鉄撃」


 ヴェリリースがそう叫ぶと、黒い鉱石が男の足元から吹き上がり、その体へと襲い掛かった。


「ぐっ!」


 皮膚裂き、男の体を貫く黒い鉱石。それは、男の血を付着させたまま、ヴェリリースの左手へと集まる。

 その手に集めた黒い鉱石を、ヴェリリースは静かに握った。

 すると、その鉱石はゆっくりとヴェリリースの体内へと取り込まれ、やがて、その手に握る大鎌の刃をより大きくし、強度を強めた。

 空中に浮かび、黒衣を揺らすヴェリリースは、仮面の下から白い息を吐き出すと、大鎌を振り上げる。

 そんなヴェリリースの姿に、男は血反吐を吐きながら顔をあげた。


「くっ……調子に……乗るな!」


 男が声を上げると、その体に刻まれた傷が徐々に再生される。

 それは、彼が奪ったシャルルの両眼による力だった。

 傷口が蒸気を噴き、再生していくのを目にし、ヴェリリースは深く息を吐き、


「それで、不死身になったつもりかい?」

「黙れ……老いぼれの貴様には用はない! とっとと、あの世に行ってろ!」


 男が右腕を握ると、その手に大剣が形成される。

 そして、それを構え、男は跳躍した。ヴェリリースへと向かって。

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