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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
129/300

第129話 無謀な策

 国境付近のグランダース領土。

 その国境を守る防壁の傍に存在する第二防衛要塞に、ケルベロス達は居た。

 第二防衛要塞は北方に位置し、元々ティオが指揮を任されている要塞だった。兵数は三〇〇〇と、少ないが、皆龍魔族とあり、その戦力は十分すぎる程のモノがあった。

 雪が積もり、真っ白に染まった要塞の内部は、非常に暖かくルーイットは床に寝そべりゴロゴロとしていた。

 一方で、ケルベロスはティオと共に軍議を行っていた。地図を机へと広げ、向かい合う二人は腕を組み唸り合う。

 正直な所、戦争が起こる事は決定しているが、ヴェルモット王国がどの様に進攻してくるのか、全く持って予想が付かなかった。

 その為、あらゆる想定出来る事柄を考え、最悪のシナリオまで予測し、ティオは話を進めていく。


「我々が守るこの場所は、重要な拠点と言うわけではありません。

 その為、ここより更に北に位置する第六防衛要塞と、南に位置する第一防衛要塞、そして、その更に南に位置する最終防衛ライン防衛要塞への援軍指揮が主な成り立ちになっています。

 ただし、重要な拠点ではないとは言いましたが、ここが攻められないと言う事はありません。故に、兵を分断しても、ここには五〇〇の兵は必ず残しておかなければなりません」


 地図上の第二防衛要塞のある位置を指差すティオが、真剣な表情をケルベロスへと向けた。それは、今の説明で分かってくれましたか、と言うティオの合図だった。

 腕を組むケルベロスは、小さく頷くと鼻から息を吐き出し、眉間にシワを寄せる。


「まぁ、妥当と言えば妥当だな。だが、五〇〇人で平気なのか? もし白銀の騎士団が出てきたら……」


 ケルベロスが不安げにそう告げると、ティオも険しい表情を浮かべる。それは、ティオも考えていた。もちろん、重要な拠点ではないこの場所に、白銀の騎士団が来ないと言う保障はない。いや、むしろ重要な拠点ではないからこそ、来る可能性がある。

 守りが手薄な場所から潰し、進攻してくるそう言う攻め方もあるのだ。そう考えたからこそ、ティオは五〇〇の兵を残す事を考えたのだ。

 その為、ティオがだした策が――


「だからこそ、我々は打って出るんです」

「打って出る? ……まさか、コッチから攻めるのか?」


 驚いた様子のケルベロスに対し、ティオは大きく頷いた。所詮、五〇〇人の兵で白銀の騎士団と当たれば、持ち堪える事は不可能。ならば、攻め込まれる前に攻め込み、なるべく相手の領土で持ち堪えられればと、言う考えに至ったのだ。

 しかし、ケルベロスの表情は浮かない。その理由は――


「攻め込むにしても、あの壁はどうするんだ? 魔力は通さない壁なのだろ?」

「まぁ、確かに魔法石が練り込まれた壁です。ですが、どうやらあの壁の一部には普通の壁が存在する様なんです」

「どう言う事だ?」


 ケルベロスが訝しげに尋ねる。すると、ティオは右手を口元へと当て複雑そうな表情を浮かべる。


「実は私も理由は分からないのです。ですが、間違いなく人間達はその壁を破り攻め込んできています」

「人間に出来ると言う事は、俺達魔族にも出来る。そう言いたいのか?」


 眉間にシワを寄せたままケルベロスがそう言うと、ティオは苦笑し静かに頭を振る。


「いえ。正直、我々魔族と人間では知識が違いすぎます。

 人間達は我々魔族に力、能力で劣る分、その知識は侮れません。それに、元々あの壁を作ったのも人間側。

 その特性など色々と知っているでしょう。だからこそ、魔法石が練られているのか、いないのか、区別が付くと思うのです」


 冷静なティオの分析に、ケルベロスは関心する。魔族の多くには人間などに劣るモノか、と見下す輩が多く、ティオの様な考えを持つ様な者は少ない。

 恐らく、現在も龍魔族側は、何の対策も取らず、ただ兵を集めているだけだろう。だから、龍魔族側は防衛一方戦になるのだ。

 その事を考え、ティオは打って出ると言う決断を下したのだ。

 しかし、そのティオの考えにケルベロスは複雑そうな表情を浮かべる。


「なら、どうやって攻め込む気だ? 区別が付かなければ、あの壁を突破するのは不可能だぞ?」


 ケルベロスの当然の問いに、今まで気配すら断っていたファイが静かに発言する。


「それについては、私に考えがあります」

「お前に考えが?」


 突然のファイの発言に、ケルベロスは疑いの眼差しを向け、目を細める。正直、今までその存在を忘れていた為、居たのか、と言いたげな眼差しだった。その為、ファイは少々不満そうに眉をひそめ、深く息を吐く。

 僅かに険悪なムードが流れた為、その空気を変えようとティオが間へと割ってはいる。


「ま、まぁ、落ち着いて」

「俺は落ち着いてる」

「私もです」


 ティオの言葉に対し、ケルベロスもファイもそう返答する。とてもそういう風には見えずティオは苦笑し、眉を八の字に曲げていた。

 そんなティオの事などお構いなしに、ケルベロスはファイへと怪訝そうな眼差しを向け、尋ねる。


「それで、どうやって壁を区別するんだ?」

「それは簡単です。私が魔力を込めた冷気で壁全体を覆います」

「そうすれば、魔法石を含む壁はその冷気の影響を受けず、普通の壁は凍り付いてしまう……そう言うわけですね?」


 ティオがそう言うと、ファイは表情を変えず静かに頷いた。

 腕を組むケルベロスは、聊か不安そうな表情を浮かべ、ふっと息を吐く。


「とりあえず、やり方は分かった。だが、それなら俺の炎でも――」

「それだと人間達にも気付かれます。炎は煙を噴きますから」

「その点、冷気は安全ですね。この地では雪で凍る事は日常茶飯事ですから」


 ティオが穏やかな口調で言うと、ケルベロスは納得した様に頷いた。


「分かった。とりあえず、そこはファイに任せる。だが、いつ攻め込むんだ? 正直、まだ何の策も練っていないだろ?」


 やはり、この無謀な策に乗り気ではないケルベロスの発言に、ティオは苦笑する。


「まぁ、確かにそうですね。本来なら、他の防衛要塞と連動して大規模に行う方が効果的なんでしょうけど……」


 複雑そうなティオの表情に、ケルベロスは眉間にシワを寄せる。


「だが、お前は元々戦争をする気はないのだろ? なのに、どうして攻め込む事を選んだんだ?」


 ケルベロスの当然の問いに対し、ティオは俯くと静かに口を開く。


「私としても戦争は反対です。しかし、回避できないのであれば、被害を最小限に抑える為に動くまでです」

「その為に、攻め込むって言うのか? 無謀すぎるだろ? もう少し考えれば――」

「そんな悠長な事を言っている時間はないんですよ!」


 ティオが拳を机へと叩きつけた。その物音に、床に寝転んでいたルーイットがピクッと肩を跳ね上げ、慌てて体を起こした。


「な、なな、な、何々? 何事よ!」


 慌ただしく頭を左右に振るルーイットが、紺色の獣耳をパタパタを動かす。そんな間抜け面のルーイットに対し、ケルベロスは面倒臭そうに吐息を漏らすと、右手で黒髪を掻き毟り、低い声で怒鳴る。


「お前は黙ってろ!」

「は、はぁいぃぃぃっ? な、何なのよ! 一体!」

「いいから、黙って寝そべってろ!」


 ケルベロスに怒鳴られ、不服そうに頬を頬を膨らせるルーイットだが、すぐに諦めた様に床へと寝そべり頬擦りをする。

 能天気なルーイットの姿にケルベロスは右手で頭を抱え、大きなため息と共に肩を落とした。

 拳を机へと叩き込んだティオは、静かに顔を上げると、申し訳なさそうに目を伏せ、静かに告げる。


「すみません……ただ、本当に時間が無いんです。

 元々、ここグランダースは今まで私の父のワンマンでヴェルモット王国と渡り合っていました。

 確かに龍魔族は個々に強いです。ですが、個々じゃ勝てないんです。特に、白銀の騎士団には……」


 目を堅く閉じ、拳を振るわせるティオにケルベロスは訝しげな表情を浮かべる。確かにティオの言う通り、白銀の騎士団と呼ばれる集団は強い。

 だが、それでも、ケルベロスには龍魔族に分があると思っていた。それは、純血の龍魔族には龍化と言う強みがあるからだ。

 その為、ティオが何を恐れているのか、さっぱり分からなかった。

 しかし、そんなケルベロスへと、ティオは静かに瞼を開き、真剣な表情で告げる。


「ここ五年で……グランダース王国の戦力は大きく変りました」

「それは、世代交代って奴じゃないのか?」


 ケルベロスがそう言うと、その言葉にファイが静かに口を開く。


「違いますね。私の知る限り、ここ五年でグランダースの主な実力者が次々と殺されています。

 十五年前に一軍を率いた隊長達が次々と。しかも、彼らはたった一発の銃弾と奇妙な爪痕で体を引き裂かれ絶命していたそうです」

「弾丸……(まさか、アイツか?)」


 眉間にシワを寄せるケルベロスの脳内に、バレリア大陸で見たあのフードの男の顔が浮かぶ。だが、彼らが龍魔族の実力者を殺しても何の意味もない事を考えると、その可能性は低いと判断した。

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