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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
124/300

第124話 回避できぬ戦争

 一瞬にして切り裂かれた床と共にケルベロス達は落下する。

 崩れる砕石の上を移動するティオは次の部屋の床も一瞬で切り裂く。人が居ようが居まいが関係なく、次々と。

 ケルベロスとファイの二人は難なく落ちる砕石の上を移動するが、運動神経の無いルーイットは悲鳴をあげながら落下していた。


「ぎゃあぁぁぁぁっ! お、お、おち、おち!」


 悲鳴をあげるルーイットの姿にケルベロスは小さく舌打ちすると、砕石を次々と移動しルーイットの体をその腕に抱え込む。


「しっかり掴まってろ!」

「わ、わわ、わか、わかぁぁぁぁぁぁっ!」


 ルーイットの悲鳴がケルベロスの鼓膜を激しく振動させ、ケルベロスは表情をしかめた。

 何処まで落ちるつもりなのか、ティオは手を休める事なく剣を振り抜く。金属音に遅れて何度も火花が散り、床は綺麗に落ちる。

 やがて、ティオの手が止まった。それを確認し、ケルベロスは体勢を整える。遅れてファイも魔力を練り静かに上を見据え、床が抜け吹き抜けとなったその空間にファイは静かに吐息を吹き掛ける。冷気が広がり抜けた床を修復する様に氷が張った。

 降り注ぐ砕石は次々と床へと衝突し、激しい土煙が舞い上がる。轟音だけが轟き、爆風が噴き上がる。

 そんな中でティオがまず瓦礫の上へと着地し、遅れてファイ、ケルベロスと瓦礫に降り立つ。激しく舞う土煙にケルベロスは目を細め、辺りを見回した。

 何が何だか分からないその光景に、唖然としていると上の階から声が響く。


「な、何の音だ!」

「何だこれは!」


 驚く声が轟き、氷の向こうに兵達の姿が映った。だが、彼らが乗っても氷の床は崩れる事がない。

 ようやく部屋に立ち込めていた土煙が薄くなり、ケルベロスは剣を収めたティオの姿を視界に捉える。膝を落とし長く静かに息を漏らすティオは、腰を上げ背筋を伸ばす。


「んんーっ……どうです? 近道――」

「バカか! あんなに大きな音を立てれば、兵に気付かれるだろ!」


 笑顔で振り向いたティオへとケルベロスは間髪居れずに怒鳴った。その怒鳴り声にティオは思わず両手で耳を塞ぎ、顔をしかめた。呼吸を荒げるケルベロスに対し、ひょこっと間に割ってはいるルーイットは両手を胸の前へと出し、


「ま、まぁまぁ」


と、苦笑する。

 とりあえず、一番被害を被ったのはルーイットの為、彼女がそう言うならとケルベロスは怒りを呑み込んだ。

 二人の騒ぎに瓦礫を踏み締めるファイは、部屋を見回した後静かに口を開く。


「聞きたい事があるのですが……」


 丁寧な口調での問いに、耳を塞いでいたティオは手を離し、笑みをファイへと向ける。


「何ですか?」

「何処から出るつもりですか?」


 ファイの静かな問いに、場の空気が明らかに白ける。あからさまに変な視線を送るケルベロスに、ファイはフッと息を吐くと、腰へと手をあてもう一度周囲を見回し尋ねる。


「見てください。辺り一帯瓦礫で埋もれているんですよ? ドアはおろか窓さえ塞がっている。この状況を見て、何処から出ると?」


 僅かながら怒気の込められた声にケルベロスは眉間にシワを寄せる。

 ファイに言われようやくケルベロスもその事に気付いた。

 険悪なムードが流れ、ルーイットはどうにかしなければと慌ただしく両腕をパタパタと振っていた。どうにかしないといけないと思うが、どうすればいいのか分からずうろたえていたのだ。

 うろたえるルーイットの姿に、ティオは何故か和みクスクスと笑う。あまりにもおかしかった。うろたえるルーイットの様は。だが、当の本人にしてみれば真面目にやっている事の為、笑われる事は不本意だった。

 その為、クスクスと笑うティオをルーイットは頬を膨らし睨みつけた。

 そんな折だった。部屋のドアが突如軋み、激しく外側から叩かれる。瓦礫が僅かに崩れ、少しだけ開かれたドアから声が響く。


「ここを開けろ! 今すぐにだ!」


 野太い怒声が轟き、何度も扉が積もった瓦礫とぶつかり合う。その物音に小さく吐息を漏らしたティオは、真剣な表情をケルベロスへと向ける。


「とりあえず、ここから逃げ出してから話はしましょう!」

「いや……全部、お前の所為だからな」


 ジト目を向けるケルベロスに「ははは」と笑うティオはもう一度盾から剣を抜くと、その剣で外側の壁を切りつけた。

 壁に切れ目が走り、やがて音をたて崩れ落ちる。一瞬の太刀筋はやはり目を見張るモノがあり、ただの王子とは思えぬ実力者であるとケルベロスは改めて分かった。

 壁が崩れ落ち、光が差し込む。そこに向かいティオは跳躍する。


「さぁ、付いて来て下さい!」


と、叫んで。

 その声にファイが続き、ケルベロスがルーイットを抱え外へと飛び出した。

 だが、そこで異変は起こる。土煙を抜け外へと飛び出したケルベロス達の視界に入ったのは、一人の男の姿だった。

 槍を背負った赤黒い長髪を揺らす若い男。耳の付け根から覗く漆黒の角が不気味に輝き、赤い瞳が壁穴から飛び出す皆の姿を確りと捉えていた。明らかに他の兵とは異なる雰囲気、風貌のその男の姿にケルベロスとファイは息を呑んだ。

 一足先に着地したティオは、すぐに体を捻り、その男の方へと体を向ける。足元に土煙を巻き上げたティオは、左手に持った盾を体の前へと出す。

 刹那、闘気が男の体から湧き出し、周囲を激しいプレッシャーが襲う。


(なっ! 何だ! コイツ!)


 遅れて着地したケルベロスが、そのプレッシャーに耐え切れず思わず左膝を地へと落とした。同じくファイも静かに着地すると同時に思わず膝が落ち、手を地面へと落とした。


(何……体が……)


 ファイの表情が僅かに険しくなる。体が地面に押し付けられる様な感覚にファイは驚いていた。

 激しい重圧の中で、何とか若い男と対峙するティオは、眉間にシワを寄せると、奥歯を噛み締める。


「に、兄さん……」

「――!」

「ッ!」


 ティオの言葉にケルベロスとファイは表情をしかめた。と、同時に理解する。これが、竜王プルートの力を引く、純粋な龍魔族の王族の力なのだと。

 張り詰めた空気に息を呑むティオは、剣を握りなおしゆっくりと左足を前に踏み出した。


「何処に行くつもりなんだ?」


 雄々しい声でティオの兄が尋ねる。その言葉にティオは強い眼差しを向け告げる。


「私はここを出て行きます!」

「出て行ってどうする? お前に出来る事などないぞ」


 好戦的な声にティオの表情は更に険しくなる。そして、唇を噛み締め、男へと返答する。


「そんな事、やって見ないとわかりません! それに、私は父上の死に疑問を持っています。父上があの様に簡単に死ぬとは思えないのです!」


 力強く言い放つティオへと若い男は赤黒い髪を揺らすと、体から放っていた威圧感を弱め、ふっ、と息を吐いた。


「そうか……。お前がそこまで考えているのなら、止めはしない。だが、これだけは言っておく。もうじき、戦争が始まる。ヴェルモット王国とのな」

「くっ……やはり、止められないんですか?」


 ティオの言葉に若い男は小さく左右に首を振った。


「無理だ。俺には止められん。それに、親父が死んだ事はすでにヴェルモットの連中に知られている」

「なっ! 何故!」

「その内、その理由も分かる。首謀者がすでに動き出している……そう言う事だ」


 ティオの兄はそう告げると赤黒い髪を揺らし背を向けた。そして、静かな足取りでその場を去る。その背を見据え、ティオは険しい表情を浮かべ、ケルベロスもファイもただ呼吸だけを乱していた。

 それ程、彼が放つ殺気は異様で禍々しかった。



 天空に浮かぶ島にある古城。

 その広間に一人の男が居た。漆黒のローブを纏い顔を隠す様に頭に深々とローブを被っていた。腰の位置に銀色の銃が収まったガンホルダーが、ローブの合間から僅かに覗く。

 何かをするわけでも無く、一人薄暗い中で腕を組み壁にもたれ佇む。部屋に備え付けられた大きな古時計は振り子を一定のリズムで揺らし、秒針が刻々と時を刻む。

 そんな静かな部屋にドアの軋む音が響き、薄暗い室内へと僅かな明かりが差し込む。俯いていた男はゆっくりを顔上げ、開かれたドアから伸びる人影へと視線を向ける。


「おっ? あんただけか?」


 ドアを開けた男が、静かにそう呟く。和服に下駄を履いた男は、結った長い黒髪を揺らし、部屋へと足を踏み入れる。下駄がカツカツと甲高い音をたて、やがて中央へと置かれた面長のテーブルへと腰を下ろす。

 そして、もう一度部屋を見回し、ローブを着た男へと視線を向ける。


「他の連中はどうしたんだ?」

「先の戦いで負傷した二人は各々体を癒している」

「へぇー。じゃあ、アイツはどうしたんだ? 今回は傍観者ってわけじゃねぇーのか?」


 腰にぶら下げた刀へと肘を置き、不適に笑う和服の男に対し、漆黒のローブを纏った男は赤い瞳を向ける。


「ああ。今回はあの人が指揮を取るらしい。とりあえず、手は出すな……との事だ」


 静かな口調でそう返答すると、和服の男は鼻で笑い肩を竦める。


「おうおう。強気だ事。相手はあの白銀の騎士団と龍魔族だろ?」

「心配なのか?」


 男の問いかけに、和服の男は表情を歪める。


「誰が心配なんてするかよ。足手纏いが増えるのは勘弁して欲しいっていいてぇーんだよ」

「そう……だな」


 静かに漆黒のローブを纏った男はそう呟き、やがて瞼を閉じた。また部屋は静寂に包まれ、和服の男は呆れた様子で部屋を後にした。

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