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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
123/300

第123話 脱獄

 竜王プルートの息子であるティオに連れられ、ケルベロス達は城内を移動していた。

 流石にこの国の王子と言うだけはあり、警備が手薄い場所、時間帯などを詳しく把握しており、警備兵に見つかる事無く順調に進んでいた。

 足音も立てず、静かに慎重に進む四人。ティオを先頭にファイ、ルーイットと続き、最後尾にはケルベロス。魔力を封じるリングはルーイットが破壊した為、魔力は使用出来る。しかし、流石に龍魔族を相手に正面からぶつかり合う程、ケルベロスもバカではない。

 幾らケルベロスでも純粋な龍魔族たちを相手にする程余裕はないのだ。

 階段を上がり、城内を静かに移動する。何処に向かっているのか、ケルベロスは分からないが、出口ではないと言う事だけは理解し、静かに足を止めた。突然のケルベロスの行動に、ティオも足を止め振り向く。


「どうかしましたか?」


 不思議そうに尋ねるティオに、ケルベロスは鋭い眼差しを向ける。そして、魔力を体から揺らめかせた。明らかに戦闘モードへと入ったケルベロスの赤い瞳が、真っ直ぐにティオを見据え、握った拳の周りの空間が熱で歪む。

 突然の奇行にティオは真剣な眼差しを向ける。二人の行動に足を止めたルーイットとファイは、廊下の端へと寄る。険悪なムード。明らかに戦闘が始まる前触れに、思わずルーイットは息を呑んだ。

 そんな折だった。廊下の突き当りから声が轟く。


「いたぞ! 脱獄だ!」


 一人の若い兵士の声。その声に、次々と突き当たりから兵達がなだれ込み、前後を挟み撃ちにされた。完全に逃げ場を失ったが、ケルベロスとティオの睨み合いは続く。そして、静かにケルベロスは口を開く。


「どう言うつもりだ?」

「何の事ですか?」


 ケルベロスの問いに、ティオは即答した。鋭い眼差しが交錯し、互いの背後に迫る複数の兵の姿を視界に捉える。拳に蒼い炎を灯すケルベロスに、ティオも全身へと魔力をまとう。


「お前、出口に向かっていないだろ」

「えぇ。そうですね」


 ケルベロスの言葉にやはりティオは即答する。まるでその問いが向けられる事を知っていたかの様に。その言葉に鼻筋にシワを寄せたケルベロスは、黒髪を逆立てると魔力の波動を強めた。風などなかった廊下へと僅かな風が吹き荒れ、ルーイットの紺色の髪とファイの空色の髪が揺れ始める。

 ジリッと右足を踏み出すケルベロスへと、ティオも静かに動き出す。


「何のつもりですか? 今、争いをしている場合じゃないですよ」


 静かな表情、落ち着いた口調で尋ねるティオに、ケルベロスはただ拳を振り上げる。その行動にティオも動く。二人が同時に床を蹴り、間合いを詰める。その最中、ルーイットは叫ぶ。


「や、やめ――」


 だが、その瞬間、二人はすれ違い、互いの後方に佇む兵に向かって突っ込む。


「蒼炎拳!」


 ケルベロスが左足を踏み込むと同時に、蒼い炎に包まれた右拳を先頭に立つ一人の若い兵の腹へと打ち込む。腹部を覆う鋼鉄の鎧を高熱で溶かし、拳が兵の腹へと減り込んだ。ミシミシと骨が軋み、若い兵の口から唾液と共に血が吐き出される。


「がはっ!」


 そして、ケルベロスはその若い男の体を強引に後方へと弾くと、そのまま後ろから続いていた兵達へとぶつけた。兵達は衝撃で後方へと倒れ込み、ガシャンガシャンと鉄がぶつかり合う音が激しく響いた。

 それを見届け、ケルベロスはふっと息を吐き、肩の力を抜いた。

 一方、ケルベロスとすれ違ったティオは、左足を踏み込むと腰の位置に構えた右手の指を曲げ、手の平を僅かに前へと出す。


「ドラゴンクロー!」


 踏み込んだ左足を外へと捻り込む様に回し、連動するように体を捻らせ右手を放つ。兵の胸を覆う鋼鉄の胸当てへと向けて、魔力を宿した右手の平を。衝撃が鋼鉄の胸当てを砕き、その体を突き抜ける。踏ん張っていた兵の足は床から切り離された様に浮き上がり、後方へと弾き飛ぶ。弾かれた兵の体を、後ろから続いていた兵達が受け止めるが、それでも勢いは止まらず、彼らは廊下を横転した。

 手の甲から白煙を上げるティオは、深く息を吐き出すと、真っ直ぐに横転する兵達を見据える。そして、すぐに振り返るとケルベロスへと答える。


「すみません。説明不足でしたね」


 ティオの言葉にケルベロスは訝しげな表情を浮かべ、振り向いた。不快そうに鋭い眼差しを向けるケルベロスは、肩の力を抜くと腕を組んだ。

 二人の行動にキョトンとした表情を浮かべるルーイットは、オズオズと二人の顔を交互に見据える。そんなルーイットの肩へと左手を置いたファイは、全く表情を変えず告げる。


「安心してください。彼らは最初から争う気はありませんよ」

「えっ? えっ? で、でも……」


 困惑するルーイットだが、ファイは全く気にせず、二人へと視線を向ける。

 歩み寄るケルベロスとティオは、お互いの距離を縮め、静かに話を再開する。


「それで、ちゃんと説明してくれるんだろうな?」


 相変わらず険しい表情でケルベロスが尋ねる。すると、ティオはニコリと笑みを浮かべると、すぐ傍の部屋の扉を開き、室内へと足を踏み入れる。


「どうぞ。ここは、私の部屋です」

「おい……こんな事してる場合じゃないだろ?」


 部屋へと入っていくティオに、不満げにケルベロスはそう言った。しかし、ティオは全く聞く耳を持たず部屋の奥へと消えていった。

 不満に息を吐いたケルベロスの横をすり抜け、ルーイットとファイも部屋へと足を踏み入れる。王子の部屋と言うには殺風景な光景にルーイットは驚いていた。

 ベッドとただ一つの本棚だけ。広々としているのに、こんなにもモノが無い部屋は珍しかった。唯一部屋に備え付けられてある暖炉の中へと、ティオは身を屈め入っていく。

 部屋に最後に入ったケルベロスは静かに扉を閉めると、わけが分からず暖炉に潜り込むティオへと尋ねる。


「一体、何をしているんだ? 逃げ出すんじゃないのか?」

「えぇ。そのつもりですよ。でも、その前に私専用の武器を回収しておきたいんです」


 静かにそう述べるティオに、ケルベロスは腕を組み怪訝そうな表情を見せる。ケルベロスがそんな表情を浮かべたのにはわけがある。

 基本的に龍魔族と言うのは武器を使用しない。獣魔族の様に身体能力が高いからと言うわけではなく、龍魔族の場合は己の肉体を武器として扱う事が出来る。ティオが使ったドラゴンクローが良い例だ。

 アレは魔力を手に集め激しい衝撃を体内に打ち込み体を破壊する事が出来る。そのほかにも自分の手を龍の爪の様にして相手を引き裂く事なども容易く出来、武器など全く持って必要ないのだ。

 その為、何故ティオが武器を探しているのか全く理解出来なかった。

 不服そうなケルベロスに対し、ティオは暖炉から静かに姿を見せる。オレンジブラウンの髪にはクモの巣を付け、その手には大柄の盾を握っていた。それの何処が武器なんだと言いたげなケルベロスの視線を感じたのか、ティオは穏やかに笑い左手で髪に付いたクモの巣を払いながら言う。


「これは、盾の様ですが、鞘となっておりまして、一応片手剣となっています。まぁ、鞘といっても盾になるんですが……」


 困り顔でそう告げるティオへとケルベロスはジト目を向ける。


「一体、どっちなんだ?」

「まぁ、ガーディアンの使う武器だと……そう考えてくれていいですよ」


 ティオがそう言うとケルベロスは納得した様に頷く。言われて見ればガーディアンの扱う武器も今ティオが持っている盾と剣が一緒になったモノだった。

 しかし、それでも不思議だった。何故、龍魔族であるティオが武器を必要とするのかが。


「なぁ、お前、何で武器を使うんだ?」


 思わずケルベロスがそう尋ねる。すると、ティオは困り顔で、それで居て悲しげな表情で答える。


「私は……ハーフです。純粋な龍魔族と違い、私には頑丈な鱗はありません。ギリギリ龍化……モドキは出来ますが、恐らく私は本気で龍化した龍魔族には決して勝てないでしょう。それを補う為の武器です」


 伏せ目がちで自らの武器を見据えるティオに、ケルベロスは「そうか」と静かに呟き、鼻から息を吐いた。考えてみたらそうだ。ハーフである以上、何かしらの欠点があるのは当たり前だった。それだけ、純血と混血の差は大きいのだ。

 静まり返った室内で、ファイは静かに息を吐きティオへと目を向ける。


「それで、ここでのん気にしていていいのですか?」

「あっ! そ、そうですね。では、急ぎましょうか」


 ティオは慌ててそう言うと、剣を抜く。


「お、おい! お前、何を――」

「近道しますよ」


 ティオはそう言うと床を切りつけた。そして、床は音をたて崩れ落ち、四人は落ちる。砕石と共に――。

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