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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
120/300

第120話 白銀の騎士団 “龍殺し”

 クロトは一人、国境付近をウロウロとしていた。

 つい先日、クロト達は王都へと辿り着いた。その後、すぐにクロトはケルベロス達と別れ、グランダースとヴェルモットの国境へとやってきたのだ。目的はもちろんケルベロスとルーイットの知人を助ける為。その為に、クロトはヴェルモット王国へと侵入しなければならないのだ。

 しかし、流石は国境付近。警備は頑丈で、高く分厚い魔法石を埋め込んだ鉄の壁が長く連なっていた。その鉄の壁に魔法石が練り込んであると分かったのは、クロトの右目が僅かな魔力の波動を感じたからだ。故に、クロトは壁に沿いゆっくりと歩みを進めていた。

 国境付近と言う事もあり争いも激しいのだろう。地面は抉れ、雪など殆ど積もっていない。木々もなぎ倒され、荒地となっていた。

 そんな道を歩むクロトは、不意に足を止める。壁に触れて歩いていたのだが、魔力の波動が明らかに途切れた。作為的なモノを感じ、クロトは壁から離れる。


「もしかして……」


 クロトはその壁と他の壁を見比べる。やはりその一部の壁だけが魔力を発していない。ただの鉄の壁となっていた。ただの鉄の壁と魔法石の練り込まれた鉄の壁では、その強度は天と地ほどの差が生まれる。そして、ここがただの鉄の壁と言う事は――

 クロトが表情を歪め、飛び退くのと同時だった。鉄の壁が赤くなり、遅れて鉄板を砕き紅蓮の炎がグランダース領土を抉る。飛び退き距離を置いたクロトは、右目に魔力を集中する。

 微弱な波動が右目に映し出される。どれもこれも微弱すぎて微かにしか映らないが、その中で一際目立った赤い蒸気が破壊された壁の向こうからジワジワとあふれ出していた。

 その爆音にグランダース陣営も反応を示し、鐘の音と共に兵の声が轟く。


「敵襲! 敵襲!」


 高らかに轟いた声に、古びた砦から兵が飛び出す。防寒着を羽織った龍魔族の兵達。彼らは、武器も持たず姿を見せると、崩れた壁から侵入するヴェルモット王国軍を視界へと捕捉する。

 何度も交戦しているのだろう。グランダース軍の動きは素早く、すでに壊れた壁を囲む様に陣を組んでいた。その中にクロトも巻き込まれていた。

 まさかの事態に、クロトは困惑し状況を判断する為に周囲を見回す。外にはグランダース軍、内にはヴェルモット王国軍。予期していなかった最悪の状況に、クロトは表情をしかめる。どうするべきかを必死に考え、頭をフル回転させる。

 だが、そんな余裕を与えぬ程の強い気配が、グランダース軍から漂う。赤い二つの霧状の煙が激しく混ざり合い、不気味に渦を巻く。

 息を呑むクロトの額からは大粒の汗が零れ落ちる。そして、その視線は自然とその二つの気配の一つへと向く。グランダース軍が一人、龍魔族の男へと。

 オレンジブラウンの短髪を揺らし、耳の付け根から生えた金色の角が薄らと輝きを放つ。間違いなくこの中では別格の龍魔族だ。

 そうクロトが感じたのは右目で見た気配だけではなく、その男の威風堂々とした風格からだった。上半身も下半身も筋肉隆々としており、まさしく戦士と言うべき姿だった。

 腕を組み仁王立ちする龍魔族の男はゴツイ顔でヴェルモット王国軍を見据え、切れ長の目の奥から覗く淡い赤色の瞳を煌かせる。


「懲りずにまた来たか!」


 野太い龍魔族の男の声に、崩れた壁の向こうから小柄な優男が姿を見せる。両手に禍々しい剣を一本ずつ持ったその男は、長い瑠璃色の髪を揺らし眼鏡越しに漆黒の瞳を輝かせた。

 風貌は龍魔族の男と対照的だが、その体から溢れ出す闘気はヴェルモット王国軍の中では圧倒的だった。

 シュッとした穏やかな顔立ちのその男は、右手の親指で眼鏡を上げると、フッと息を漏らし龍魔族の男を見上げる。


「ドラゴンスレイヤーの私があなたに引導を差し上げますよ。グランダース防衛軍第四支部隊長、“鋼竜”のレパンド」

「その言葉、ソックリそのまま返すぜ。白銀の騎士団、通称“龍殺し”のウィルヴィス」


 互いの姿、互いの言葉に、彼らの放つ魔力、精神力が激しさを増し、二人の間で激しく衝突する。

 そして、レパンドと呼ばれた龍魔族の男に、まず変化が起こる。体が徐々に銀色へと変化し、その皮膚に鱗模様が浮き上がる。龍魔族が使える龍化ではなく、魔力を体にまとう事により、龍としての特性が体に現れているのだ。

 龍魔族の体に宿す龍は、指紋と同じく一人一人全く別の龍となっている。レパンドが体に宿る龍。それは、鋼竜の名の如く、鋼の龍――。すなわち、鉄壁の守り、鋼の如く頑丈な肉体を指し示していた。

 しかし、そんなレパンドの変化にうろたえる事無く、ウィルヴィスと呼ばれた優男は両手の剣を構える。鱗模様の刻まれた不気味な双剣が、下段と上段にそれぞれ構えられていた。

 静まり返るその一帯。クロトは、ただ見据える事しか出来ない。下手に動くと巻き込まれてしまうと直感していた。その為、息を呑み、ただひたすら気配だけを消し、機を窺っていた。


「行くぞ! 野郎共!」


 まず、動き出したのはレパンドだった。野太い声をあげ、地を蹴る。爆音が轟き、地面が砕け、レパンドは跳躍した。太陽を背に、空を舞うレパンドの姿を見上げ、ウィルヴィスは微笑する。


「行きますよ! 皆さん! 業火の如く侵略するのです!」


 その言葉通り、二つの刃に紅蓮の炎が迸る。そして、二人の声に、兵士達も動き出す。怒号を轟かせ、激しく衝突した。

 その衝突にやや遅れ、龍魔族レパンドと人間ウィルヴィスの二人も衝突する。上空から拳を叩きつける様に降り立ったレパンドの拳と、それを撃墜する様に振り抜かれたウィルヴィスの二つの剣とが――。

 重々しく激しい衝撃が広がり、周囲に居た兵達を軽々と吹き飛ばす。地面は砕け、円形に窪む。まず始めに砕石が宙へと浮き、遅れて砂塵が外へと流れる。

 ピリピリと張り詰めた空気に、クロトは僅かながら呑まれ始めていた。どうすればいい、何をしたらいい。そんな事を考え、ただ呆然と立ち尽くす。

 理由は簡単だ。クロトがここに来た理由、それは、人間に捕まり幽閉させる為。その為には、龍魔族には悪いが、負けてもらわないといけない。だが、魔族のクロトが人間に加担するわけには行かないのだ。

 奥歯を噛み締め、拳を握り締め、ただ状況を冷静に分析し、クロトはただ見届ける。この戦いの一部始終を。

 レパンドとウィルヴィスの衝突から数秒。火花を散らせ、二人が遂に離れる。鋼鉄の鱗をまとうレパンドの拳には傷一つ付かず、ウィルヴィスのその刃も刃こぼれ一つしていない。

 好敵手の存在に互いに不適な笑みを浮かべ、ほぼ同時に地を蹴る。身体能力は圧倒的に龍魔族が上。故に、同時に地を蹴ったが、衝突したのは真ん中よりもウィルヴィス側へと数メートル程押し込んだ形でだった。

 もちろん、初速から加速。そして、込められた力はその距離によりレパンドの方が圧倒的に上だったが、ウィルヴィスはその衝撃を軽く受け流し、カウンターでその刃でレパンドの腹部を切りつける。

 二人が交錯し、火花と閃光を広げる。互いに背を向けあい、間に土煙が舞う。


「くっ……」

「チッ……」


 僅かに二人の口角から血が溢れ出す。

 レパンドの衣服は裂け、鱗で覆われた無傷の腹部があらわとなる。しかし、衝撃だけは吸収できず、口から血が溢れたのだ。

 一方のウィルヴィスも同じく完全に衝撃を受け流せなかった。故に、彼も口から血を流していた。

 互いに決定打を欠くが、それでも地力の差では圧倒的に龍魔族であるレパンドが有利だった。長期戦になれば、間違いなくレパンドが勝利するだろう。

 だが、それでも、ウィルヴィスは不適な笑みを浮かべる。眼鏡のレンズが先程の衝撃で割れ、すでに役割を果たさない。その為、ウィルヴィスは眼鏡を外すと、それを地面へと捨てた。


「やれやれ……お気に入りの眼鏡が割れてしまいました」


 肩を僅かに竦め、静かに振り返る。周囲では互いの兵がぶつかり合い騒がしいが、ウィルヴィスは気にせず、静かに笑う。


「流石に強い。鋼竜の名は伊達じゃありませんね」


 穏やかな表情でレパンドを褒め称える。しかし、その目の奥から覗く殺意にその場の空気が変った。それにいち早く気付いたのはクロトだった。


(な、何だこの気配……)


 今まで見えていた赤い煙が突如どす黒いモノへと変化した。それは、間違いなく危険なものだった。その為、クロトは動き出す。魔力を放出し、二人の間へと割ってはいる。


「龍魔族、レパンドさん! 今すぐ退いてください!」


 クロトがそう叫び両手に赤黒い炎を灯す。しかし、突然現れたクロトの言う事を、レパンドが聞くわけも無く、


「貴様! 何のマネだ! 俺に背を向け、逃げ出せと言うか!」


 と、野太い声で反論する。

 だが、ウィルヴィスは猶予を与える気は無いらしく、両手に持った剣を一つに合わせ、ゆっくりと頭上へと振り上げる。異様な力がその刃を逆巻き、クロトは表情を歪めるとウィルヴィスへと背を向け、レパンドへと駆ける。

 この行動にウィルヴィスは悟る。


「へぇーっ……この力に気付いているみたいですね。しかし、残念ですが――間に合いませんよ!」


 語尾を強め、ウィルヴィスが勢いをつける様に背をそらせる。だが、その刹那クロトの姿をウィルヴィスは見失う。


(何処に――)


 ウィルヴィスがそう考える最中、鈍い打撃音が耳に届く。そして、遅れてクロトの叫び声。


「うおおおおっ!」


 その叫び声が大地を僅かに揺るがし、同時に宙を龍魔族レパンドが舞う。そこで、ウィルヴィスも気付く。


「彼を逃がす為に、当身を食らわせ放り投げたと言う所ですか? しかし、それも無駄な努力ですよ!」


 ウィルヴィスが反転し、地上へと落ちたレパンドの方へと体を向ける。だが、そこで更にクロトの声が轟く。


「業火!」


 甲高く響き渡るその声と共に、グランダース軍とヴェルモット王国軍を裂く様に地面から赤黒い炎が壁となり噴き上がる。

 額から汗を零すクロトは、地面へと落とした右手を持ち上げ、静かに体を起こす。ウィルヴィスはそんなクロトへと静かに体を向けると、不適な笑みを浮かべる。


「へぇーっ。面白いですねー。彼らに手を出すなって事なんですか? なら、仕方ありませんね」


 ジリッとウィルヴィスが足を動かす。その動きにクロトも身構える。


「龍狩り!」


 ウィルヴィスが叫び、その剣を振り下ろす。閃光が瞬き、クロトの視界が遮られる。


(ぐっ! 何が――)


 地面を砕く音が耳に届き、衝撃がクロトの体を突きぬけた。

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