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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
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第12話 舞い上がる蒼い炎

 空中を飛び回る魚群。

 唖然とするクロトは、セラの方に顔を向けた。そのクロトの表情に、セラも苦笑し肩をすくめた。「くっ」と声を漏らしたケルベロスは、右手に淡い蒼の炎を灯した。しかし、その瞬間、飛び回る魚群が連携する様に突如動きを変え、急降下する。


「来るぞ!」


 ケルベロスが叫び、拳に炎を乗せ飛ばすが魚群に当たる事無く空へと消えた。


「チッ!」


 舌打ちをし、もう一度拳に炎を乗せる。だが、何度やっても炎は空へと消えていく。どれだけ威力があっても、空中を泳ぐ様に移動する魚群の前では、無意味だった。

 一方、急降下してきた魚群は、船へと体をぶつけ、船体は大きく横に揺れる。


「きゃっ!」


 突然の揺れに、セラが声をあげ、ケルベロスが視線をセラの方へと向けた。


「セラ様! ――ッ!」


 ケルベロスが叫ぶと同時に、後方から腹の膨らんだ魚が衝突する。よろめき、甲板へと手を着いたケルベロスは、振り向き様に拳に乗せた炎を飛ばした。だが、炎は無常にも空へと散る。


「くっ!」

「何とかしないと、この船がもたないぞ!」


 クロトが、手すりにしがみつき叫ぶ。船体は軋み、これ以上体当たりを受ければ、危険な状態だった。


「クロト! どうにかしてよ!」

「無理言うなよ! だ、大体、俺よりケルベロスに言うべきセリフだろ!」


 甲板に座り込み、両手で頭を押さえるセラに、そう怒鳴りながら、クロトは空中を飛び交う魚群へと目を向けた。確かに、早くこの状況を打破しなければならないが、クロトには戦う為のすべが無かった。劫火の炎を灯そうにも、どうすれば出てくるのかも分からないし、出した所で消し方が分からない。先日出した雷も、どうやって出したのかすら分からない。頼りになるのはケルベロスだけだが、コッチはコッチで冷静さを失い、完全に魚群のペースに呑まれていた。

 手すりに掴まりながらも考える。この状況をどうするかを。だが、その思考回路が途切れる。セラに迫る一体の魚。その魚の鋭いヒレがセラへと迫る、その光景が視界に入ったからだ。


「セラ!」


 クロトが叫ぶと、セラが顔を上げる。そして、セラの視界にも入る。迫る鋭利なヒレが――。


「きゃっ!」


 悲鳴を上げると、ケルベロスも気付くだが、間に合わない。どれだけ早く炎を飛ばしても、ケルベロスの炎では――。

 その刹那だった。突如、空気が変わり、衝撃音と共にセラに迫っていた魚が手すりへと体を打ちつけ甲板へと転がる。その体を包むのは赤黒い炎。そして、クロトの突き出された拳からは、僅かながら赤黒い炎が揺らめいていた。


「はぁ…はぁ……」


 無我夢中で放った一撃。セラを助けなければならない、どうにかしなければならないと、とっさに拳を作り、ケルベロスがやる様に勢い良く突き出しただけだった。その瞬間、拳から赤黒い炎が放たれ、魚の横っ腹にぶちあたったのだ。

 赤黒い炎に包まれながら、甲板を飛び跳ねる魚は徐々にその力を失い、やがて動かなくなった。


「セラ様! だ、大丈夫ですか!」


 ケルベロスがセラへと駆け寄り、声を掛ける。僅かに体を震わせるセラを支え、ケルベロスは飛び交う魚群を睨み付けた。


「貴様等……生きて帰れると思うなよ」


 喉の奥から吐き出した様なおぞましい声に、空気が一気に張り詰める。静かにケルベロスが立ち上がると、その体の周りの空気が僅かに歪んで映る。


(い、嫌な予感しかしねぇー)


 と、クロトは後退り、表情を引き攣らせ合掌する。空を泳ぐ魚群に対し。そして、次の瞬間、舞う。蒼い炎が、空へ向かって。美しく華麗に動き、荒々しく激しく燃え上がる。圧倒的だった。そして、一瞬だった。あれが、ケルベロスの本気なのだろう。両拳に蒼い炎を纏わせ、迫り来る魚群を次々焼き払いながら、空中を舞い最後に腹の膨れた魚を撃墜した。

 蒼い炎を噴きながら海へと帰っていく魚群を見送り、甲板へと降り立ったケルベロス。その手にはあの腹の膨れた魚が一尾。こんがりと焼け、炎はとうに消えていた。


「ふぅ……手間取らせやがって」

「うわー。圧倒的……」


 思わずそう漏らすと、焼けた魚が突如震えだす。


「な、何だ?」

「えっ! て、言うか、その状況で動けるの?」


 セラがそう声を上げると、魚の腹から鋭利な刃物が飛び出す。まだ何かあるのか、と身構えるケルベロスが、セラを後ろへ下がらせた。

 一方、死角になって全く何が起こっているのか分からないクロトは、一人首を傾げる。


「どうしたんだ?」


 歩み寄るクロトに、ケルベロスは鋭い視線を向け、


「来るな!」

「えっ?」


 クロトが足を止めるとほぼ同時だった。魚の腹が裂け、中から小さな子供が甲板へと転がった。淡い朱色の髪に、幼く可愛らしい顔立ち。耳は尖っておらず、すぐに魔族ではないと分かった。背中には茶色のリュックを背負っていた。

 一瞬、何が起こったのか分からず、ケルベロスもセラも硬直する。その中で、その子の体だけがピクリと動き、咳と同時に口から水が吐き出された。


「げほっ、げほっ」

「き、キミ、大丈夫!」


 咳き込む子供に、ようやくセラが駆け寄りそう声を掛けると、その子は薄らと目を開き、


「い、生きてるッス……た、助かったッス……」


 と、呟き、もう一度「ごほっごほっ」と咳き込み水を吐いた。そんな子供の背中をセラは優しく擦った。


「大丈夫? 無理しないでいいよ?」


 そんなセラの言葉に、「ありがとうッス」と僅かに口元に笑みを浮かべた子供の表情が不意に固まる。セラの顔をジッと見据えたまま。意識がハッキリし、自分がどう言う状況なのかを、その子は理解し唇を震わせる。


「た、た、た、助かって無いッス! ま、ま、ま、まぞ、魔族ッス!」


 大声をあげ、その場から飛び退くと、セラ・ケルベロス・クロトの順に顔を見据え、右手で指を差し、


「あ、あんたら、魔族じゃねぇッスか!」


 と、また大声を上げた。その言葉にケルベロスはあからさまに苛立った表情を浮かべ、一歩踏み出し右手に蒼い炎を灯す。


「だったら何だ? ここで――」

「やめろ! ケルベロス! 相手は子供――」

「黙れ! 子供でも人間は人間だ!」


 ケルベロスの右肩を掴み、止め様と試みたクロトだったが、その腹に右肘を打ち込まれ、その場に膝を落とした。


「うぐっ……おまっ……」


 腹を押さえ、蹲りながらもケルベロスの顔を見据えるクロトを、小さく鼻で笑いケルベロスは足を進める。そんなケルベロスに怯え、口をガクガク震わせ、


「や、やや、やめるッス! じ、自分は、しょ、しょ、商人ッス。しょう、商人はしゅ、しゅ、種族な、なんて、関係ないッス!」

「それで? そんな事、俺には関係無い」


 涙目の子供に、静かに淡々とそう述べ、ケルベロスは更に一歩近付くと、セラがその子の前に立ち、ケルベロスを睨んだ。その行動にケルベロスは、右手の炎を消し、静かに俯く。そんなケルベロスにセラは静かに優しく言葉を告げる。


「ケルベロスが人間を憎む気持ちは分かるけど、こんな子供を殺すのはダメだよ。私達、魔族だって、自分の子供が殺されたら悲しいし、それはまた次の憎しみを生むだけなんだから」

「分かってます。セラ様なら、こうすると言う事も……だが、港まで連れて行くだけです。その後の命の保障はしない」


 ケルベロスに睨まれ、おびえる様にセラの背中に隠れると、リュックから一本の剣を取り出し、


「じ、自分は、ぜ、全然怖くなんかないッスから! く、来るならきやがれッス!」


 と、セラの背中に隠れながら剣を突き出していた。

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