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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
フィンク大陸編
118/300

第118話 セラの秘密

 クロト達一行は大型のソリに乗っていた。

 木製のソリを引くのは六頭の氷の犬。エメラルドが作り出したモノだった。

 ここフィンク大陸は一年中雪の降る寒い大陸の為、王都まで氷は溶ける事は無いだろうと言う事だった。手綱を握るのはファイで、クロト、ケルベロス、ルーイットの三人は暖房設備の整った屋根つきのソリの中に居た。

 竜王プルートの居る王都まで、数万キロの距離。果てしなく遠い距離だが、氷で作られた犬は休む必要も無く走り続ける事が出来る為、何事も無く全力で飛ばせば二、三週間で到着する予定だった。

 大型のソリの中は広々としていて、クロト達三人が横になっても苦にならない程だった。これだけ大きいと耐久度に不安が残るが、そこもエメラルドの氷で補強されている為、安心と言う事だった。

 壁に備え付けられた窓から外を覗くルーイットは、紺色の獣耳をうなだらせる。セラを一人だけ残してきて不安だったのだ。

 もちろん、それはケルベロスも同じで、ソリの中は少々重苦しい空気が漂っていた。

 そんな空気の中、床に横たわるクロトは小さな呻き声を上げる。


「あぁ……うぅ……」


 クロトはソリに酔っていた。雪の所為で滑るのか、ソリは案外乱暴に曲がり激しく揺れていた。その影響でクロトは酔っていたのだ。元々、乗り物に弱いと言う所があった為、早い段階でダウンしていた。

 横たわるクロトを尻目に、ルーイットは吐息を漏らしケルベロスへと視線を向ける。その視線にケルベロスは気付き、鋭い眼差しでルーイットを睨む。


「何だ?」


 低い声でケルベロスが尋ねる。すると、不安げな表情でルーイットは告げる。


「セラちゃん、大丈夫かな?」

「だ、大丈夫だよ……。セラが……決めた……うぷっ!」


 ルーイットの問いに答えたのはクロトだった。だが、すぐに吐き気に襲われ言葉を呑み込む。

 平伏すクロトの姿に、ケルベロスはムッとした表情を見せたが、すぐに息を吐きルーイットへと答える。


「コイツの言う通りだ。セラが決めた事だ」

「でも、相手は氷の女王だよ? 何かあったら……」


 不安そうに目を泳がせるルーイットに、ケルベロスは腕を組み壁に背を預け答える。


「あの人がデュバル様と一緒に修行した人だと言うのは、その実力から明らかだろう。

 それに、あの言動からすると、彼女はセラの力の秘密を知っている。恐らく女王――いや、セラの母から聞かされていたんだろう」


 ケルベロスが冷静な状況分析からそんな答えを導き出す。エメラルドの力は間違いなく三大魔王と渡り合える程の力がある。だからこそ、セラを任せて大丈夫だと判断したのだ。

 しかし、ルーイットは納得が行かないのか、不服そうな表情で尋ねる。


「ねぇ、そのセラちゃんの力の秘密って何? 確かに、セラはデュバル様の娘だろうけど……。私、そんなに強いって印象が無いんだけど?」


 ルーイットのその言葉に、ケルベロスはジト目を向けた。


「セラは仮にも魔王の娘だぞ? 弱いわけないんだよ」

「えっ? でも、ケルベロスってセラの護衛でしょ? それに、私、セラが戦っている所、見た事ないよ?」


 不思議そうなルーイットに、ケルベロスは吐息を漏らした。そして、頭を左右に振ると静かに答える。


「当然だ。セラの魔力は危険過ぎる。故に、王妃が封印したんだよ」

「王妃……て、事は、セラちゃんのお母さんが? 一体、どうして?」


 ルーイットの問いに、ケルベロスは不快そうな表情を浮かべる。苛立ちを見せるケルベロスに、ルーイットは不満そうに唇を尖らせた。


「な、何よ! その目は!」

「お前は、人の話を聞いていないのか?」

「えっ?」

「言っただろ? セラの魔力は危険過ぎると」


 ケルベロスが腕を組みながらそう告げた。その言葉にルーイットはやはり納得できないと、不服そうな顔を向ける。

 とてもじゃないがセラがそんなに魔力が高いとは思えなかった。そもそも、危険過ぎるというのがどう言う事なのかイマイチ理解出来なかった。

 そんなルーイットの顔に、ケルベロスは深く息を吐く。ケルベロスもその当時、その場に居たわけじゃない為、詳しい話は分からない。だが、デュバルから直接聞いた話を、そのままルーイットにする事にした。


「これは、デュバル様から聞いた事だ。正確かは分からない。ただ、十六年程前か……」

「十六年前? それって、あの英雄戦争が起こる前?」

「ああ」


 眉をひそめ問い掛けたルーイットへとケルベロスは小さく頷き、短く返答した。

 その返答に、ルーイットは記憶を辿る。英雄戦争が起こる前に、何か大きな事件はあっただろうかと。しかし、記憶を辿っても、大きな事件が起こった記憶はなかった。と、言ってもその当時ルーイットも二歳程だった為、記憶は曖昧だった。

 考え込むルーイットを、ケルベロスは「ふん」と鼻で笑う。


「な、何よ! 一生懸命記憶を辿ってるのに!」

「記憶も何も、当時、お前は二歳程だろ? それに、大事にはなっていない。強大な力ゆえに、悪用されかねないと、一部の者しか知らされていないらしい」

「そ、そっか……」


 納得した様に頷くルーイットに、ケルベロスは疲れた様にため息を吐くと、話を続ける。


「で、十六年前……それは――セラが生まれた日だ」

「えっ? セラの?」

「ああ。王妃がセラを出産した日、立ち会っていた者達、警備兵、城内に居た者達数百と言う人が消滅した」

「しょ、消滅って! う、嘘でしょ! デュバル様は、何してたのよ!」


 大慌てで声を荒げると、荷台の前の方から静かなファイの声が響く。


「デュバル様は、丁度未開の地を調査しに軍を率いていたそうですよ」


 ファイの言葉にケルベロスは不快そうに目を細め、鼻から静かに息を吐く。そして、ファイの声のした方へと顔を向け告げる。


「お前、盗み聞きか?」

「盗み聞き? 人聞きが悪い。聞こえただけです」


 静かに答えたファイに、ケルベロスは小さく舌打ちをした。その舌打ちが聞こえたのかファイは「出すぎたまねを」と答え、押し黙ってしまった。

 憮然とした表情のケルベロスへと、ルーイットは呆れた眼差しを向ける。


「ちょっと、失礼じゃない?」

「知るか。それより、もういいか?」


 腕を組んだままソッポを向くケルベロスが、そう告げると、ルーイットは慌てて答える。


「よ、よくないよ! ちゃんと説明しなさいよ! 何で、そんな大人数が消滅したのよ!」

「一説には生まれたばかりのセラの魔力によって、城全体が呑み込まれ魔力の弱い者から次々と消えていった……と、言う事らしい」

「一説には? らしい? 何で、そんな曖昧な答えなのよ?」


 眉間にシワを寄せ、目を細めるルーイットへとケルベロスは肩を竦める。


「言っただろ。城に居た数百の人が消えたんだ。その瞬間を目撃した人は居ない。

 唯一消滅しなかった王妃は、出産の疲れで意識を失っていたらしいからな」

「えっ……そ、それって……」

「そうだ。実質、城に残った者で消えなかったのは、セラと王妃の二人だけだ」


 ケルベロスの言葉にルーイットは絶句していた。信じられなかった。十六年前、セラの生まれた日にそんな事が起こっていたなんて。

 言葉を失うルーイットへと、ケルベロスは表情を曇らせる。


「何が起こったのか、今となっては誰も知らない事だ。だが、デュバル様が城に戻った頃には、すでにセラには封印が施されていたらしい。

 恐らく、王妃は意識を取り戻した時に何かを見た、いや、もしくは何かを感じたのかも知れん。

 だからこそ、五重もの複雑な術式でセラの魔力、能力、全てを封じたんだろうな」


 話し終えたケルベロスが小さく吐息を漏らし、肩を落とした。そして、ルーイットは理解する。デュバルの直属の部下であるケルベロスが、何故セラの護衛をしているのかと言う事を。

 それは、セラを守る為と言うのもあるだろうが、一番の目的は恐らくセラの封印を解かれない様にする為なのだと。

 渋い表情を浮かべるルーイットへと、ケルベロスの切れ長な目が向けられる。


「そう言えば、お前はどうしてクロトと一緒に居たんだ? お前、城のメイドとして働いているって……」

「うん。働いてたよ。シオのお目付け役として」

「シオ……か。そう言えば、あいつ人間と一緒に居たな」


 ケルベロスが俯き、思い出したようにそう呟いた。その言葉にルーイットは聊か驚いた表情を浮かべる。


「ま、マジで?」

「ああ。俺は暴走していたから詳しい事は分からんがな」

「へ、へぇー……確か、英雄に会いに行くって城を飛び出したんだけど……アイツ」


 呆れ顔のルーイットが右肩をやや落とし失笑する。そして、ケルベロスは呆れた様に頭を左右に振った。

 やがて自然と二人の間には沈黙が漂い、それから言葉を交わす事が無く時は過ぎて行った。

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