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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
バレリア大陸編
108/300

第108話 情報

 クロトが目を覚ます二日前、クロト達がラフト王国王都から魔族の町へと戻ってきた翌日へと遡る。

 その日、魔族の町は歓喜に湧いていた。それは、ケルベロスがもたらした一つの情報が原因だった。

 もちろん、その情報とはラフト王国国王バルバスの死だ。最強にして最悪と呼ばれたその国王の死は、この国の魔族にとってそれはもう嬉しい事だった。

 これで、この大陸も少しは良くなる。そう言う思いが、魔族達の儚い願いが、歓喜となり騒ぎとなっていた。一日中バカみたく騒ぐ程、皆が喜び、抱き合い、涙を流していた。

 ある者は墓の前で、ある者は愛しき人と、ある者は嗚咽を吐きながら。皆が皆、その喜びに胸を躍らせた。


 そんな歓喜に湧く町の一角にある病院内は静まり返っていた。

 ベッドに寝かされたクロトの状態が非常に悪かったのだ。

 ケルベロス、アオ、ライの方はそれ程――と、言っても十分重傷だったが、レベッカやレオナの力で十分治療出来た。だが、クロトの状態は最悪だった。細胞の殆どが焼け死に、手の施しようがない状態だった。

 この町の医者であるラヴィはクロトの状態を一目見て理解する。これは助からないと。

 それでも、レベッカは絶えず聖力を注ぎ、クロトの治療を続けていた。すでに丸一日聖力を使用し続けていた。レベッカ自身、限界はとうに超えていたが、やめようとはしなかった。

 処置室でレベッカが治療を続ける中、ケルベロスはアオと二人、部屋の前の椅子に腰掛けていた。朝だと言うのに、そこは薄暗かった。全ての窓には日差しを遮る様に分厚いカーテンがかかり、外の声が入ってこない様に窓も全て閉じられていた。

 そんな静かな廊下で沈黙するケルベロスとアオ。ケルベロスは腰を曲げ、膝に両肘を置き手を組み、合わせた親指を眉間に当て瞼を閉じていた。ケルベロスも経験上、クロトがどう言う状態なのか分かっていた。だから、助かる可能性が限りなく低い事を理解していた。

 一方、一つ間隔を開け椅子に腰掛けるアオは、背もたれに背を預け、天井を見上げていた。彼もクロト程ではないが、体はボロボロだった。まだ手、足に僅かな麻痺が残るほど、体を酷使した。ただ、彼の場合、精神力で肉体を強化していた分、それ程肉体へのダメージは少なかった。

 そんな静まり返った場所に突然、高い電子音が響く。ピピピピピッと、言う妙な音に、ケルベロスは瞼を開き眉間へとシワを寄せる。

 すると、その隣りでカチャと更に妙な音を響かせ、アオは手の平サイズの小型の機器を耳へと当てた。


「…………」


 その機械を耳にあて数秒、アオは一言も言葉を発しない。それから、また数秒が過ぎ、アオは思い出した様に声をあげる。


「あっ! 悪い。俺だ」


 アオが返答すると、耳に当てた機器からワーワーと声が漏れた。何を言っているのかは、ケルベロスには聞き取れなかったが、声質からその主が男であると分かった。

 その後、アオは真剣な表情で何度か言葉を交わす。数十分程、アオは静かに話をしていた。どんな話をしているのか、ケルベロスには分からないが、その真剣な表情から深刻な話だと言う事は分かる。

 しかし、ケルベロスの興味は、そのアオの持つ小型の機器に向いていた。ケルベロスは訝しげな表情を浮かべ、眉間に深いシワを寄せていた。何処かで開発された最新の機械だと言うのは分かる。だが、一体、何処の国が作ったか、考えていた。

 その後、数十分の話を終え、アオが静かに息を吐いた。その表情は暗く、何処か深刻そうだった。


「どうかしたのか?」


 アオへとケルベロスが静かに尋ねる。すると、アオは眉間にシワを寄せ、目を細めた。


「まぁ、色々な」

「色々?」

「ああ。今しがた分かった事だが、先日、東の大陸クレリンスで事件があった」


 真剣な表情でアオがそう告げた。その言葉にケルベロスは眉間にシワを寄せる。ここバレリア大陸では情報と言う情報が絶たれている為、ケルベロスは現在の世界情勢を知らない。世界各地で何が行われているのか、どんな事件があったのか、全く知る術がなかった。

 その為、アオの言う事件の事が気になった。ここ最近、大きな事件が多発していると、ケルベロスも感づいていたのだ。特にローブを着て正体を隠した連中が絡んだ事件が。

 一体、彼らが何者で、何を企んでいるのか分からない。ただ分かるのは、彼らは恐ろしく強い。今のケルベロスでは到底敵わない程に。

 一瞬だが表情を曇らせたケルベロスに、アオは笑みを浮かべ鼻から息を吐く。


「悩んでるな。若者よ」

「若者? お前も大概若いだろ?」

「はっはっはっ! 十代と二十代じゃ天と地程の差があるのさ」


 大らかに笑うアオに、ケルベロスは表情を歪め、鼻から息を吐いた。そして、真剣な顔で問う。


「で、何だ? その事件って?」

「あ、アレ? 今、完全に話を逸らすパターンじゃない?」


 苦笑するアオに、ケルベロスは切れ長の眼差しを向ける。その目にアオは引きつった笑みを浮かべ、右手で頭を掻いた。


「こ、怖い顔するなよ。分かった分かった。話すよ」


 アオは諦めた様にそう告げ、肩をすくめた。そして、真剣な顔で語り出した。


「数日前、クレリンス大陸、リックバード島に襲撃があった」

「襲撃? リックバードと言えば、確か……」


 ケルベロスが腕を組みそう呟くと、アオが静かに答える。


「クレリンス大陸の八会団の一人、天鎧が納める土地だ。八会団で最も人間と魔族の事を考えていた人物だ」


 そのアオの言葉にケルベロスは「そうか」と静かに返答した。

 ケルベロスもクレリンス大陸に存在する八会団と呼ばれる会を聞いた事があった。ただ、どう言う集まりなのかは詳しく知らなかった。

 訝しげな表情のケルベロスへと、アオは小さく頷く。


「まぁ、その八会団の事は今、置いておこう」

「あ、ああ……。それで、一体、誰に襲撃されたんだ?」


 ケルベロスが何気なくそう尋ねる。すると、アオは複雑そうな表情を浮かべ、ケルベロスから視線を逸らす。その行動にケルベロスは僅かに首を傾げ、目を細めた。


「言いにくい事だが……」


 言葉を濁すアオに、ケルベロスは苛立ち立ち上がる。


「何だ? 早く言え!」


 ケルベロスが怒鳴り、右腕を激しく振り抜いた。

 その言葉に、アオは深く息を吐くと瞼を閉じ、静かに口を開く。


「魔族だ……。クレリンスの八会団に所属する三つの魔族の軍が、リックバードへと攻め込んだ」

「ま、待て! あそこは中立なはずだ! 幾ら何でもそんな事……」


 動揺するケルベロスが声を荒げる。

 ケルベロスの言う通り、クレリンス大陸は基本的に中立国家となっている。人間も魔族も全てが平等の民主主義国家で、この世界で最も平和な場所だった。

 そんな場所で、アオが言った様な事件が起こるなど考えられなかった。

 驚きを隠せないケルベロスへと、アオは伏せ目がちに静かに告げる。


「事実だ。俺の知人も、その争いに巻き込まれた」

「だが、そんな事をすれば、クレリンス大陸だけの問題じゃすまなくなるぞ!」


 そう言い放ち、ケルベロスは奥歯を噛み締める。

 クレリンスと言う中立国があるからこそ、魔族と人間による大きな争いは収拾している。もちろん、小さな争いは度々行われているが、それ程大きな争い事は起こっていない。

 この地、バレリアの様に一方的なモノや、北の大陸フィンクでの国境付近の睨み合い。細かい争いは多々あるが、大きな問題となった事は無い。

 だが、今回の事が広がれば、間違いなく全ての均衡が崩れる。特に北の大陸フィンクでは戦いが激化するだろう。元々、あの地は国境付近での小さな争いが日常茶飯事だ。これを理由に相手国を攻め込むと、言った行動を取る事も出来る。

 やがて、それは大きな争いへと発展するだろう。

 拳を握るケルベロスが険しい表情を浮かべる中で、アオはふっと息を吐いた。


「落ち着け」

「これが、落ち着いていられるか! どう言う事か分かってるのか?」


 慌てふためくケルベロスの激しい言葉に、アオは困った様に右手で頭を掻いた。そして、もう一度深くため息を吐き、アオは静かに口を開く。


「魔族は洗脳されていただけだ。自分達の意思で攻め込んだわけじゃない」

「だが、その事実を信じるモノが――」

「いないだろうな。だから、この事はクレリンス大陸だけに留めて置く事になったらしい」

「そ、そうか……」


 アオの一言でケルベロスは安堵した様にそう呟いた。落ち着きを取り戻したケルベロスは、小さく息を吐いた。流石のケルベロスも、この事件には驚かされた。それ程、世界を揺るがす大事件だったのだ。

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