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霧の岬の処方箋 〜「先生、それ治療ですか観察ですか」「両方です」~  作者: 鉄百合


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5/6

海の宝石

ここまで読んでいただきありがとうございます。


正直に言うと、まだ感想が来ていなくて、手応えがあまり掴めていません。


自分でも、説明や感情の描写がうまくできていない気がしていて、読みにくくなっていないか少し不安があります。


キャラクターも、まだ完全に固まっているとは言えず、書きながら探っている状態です。

その分、話ごとに少しずつ輪郭がはっきりしていく形になると思います。


もし読んでいて気になる点やわかりにくいところがあれば、教えてもらえると助かります。

短い一言でも大丈夫です。


引き続き、よろしくお願いします。

海まで送り届けることになった。

 水槽車をノアが押し、私が荷物を持って浜辺へ向かう。朝の霧が薄く残り、海との境界が白く滲んでいた。


「ミィさん、海の近くで生活しているんですか」ノアが水槽車を押しながら聞いた。

「うん。いつもはもっと沖にいるけど」

「沖? 一人でですか」

「なかまがいる」ミィが言った。「でも、あんまり会わない」

「あんまり?」

「みんなずっと沖にいるから」


 人魚族は緩やかな群れ構造だと文献にあった。個体間の距離が大きく、めったに接触しないのだろう。ミィが陸に近い場所にいることも、何か理由があるのかもしれない。


 砂浜に出ると、波が静かに寄せていた。朝の浜辺には人影がなく、打ち上げられた海草と貝殻が点々と並んでいる。


 あの夜、ミィが横たわっていた場所を、私は何となく確認した。

 何も残っていなかった。


 水槽車を波打ち際まで運ぶ。


「じゃあ、ここで」


 ミィが水槽の縁に手をついて、海を見た。

 波が来て、引いた。また来て、引いた。

 ミィの目が、少し細くなった。


「……うみだ」


 小さな声だった。独り言のような声だった。


 ノアが水槽の水ごとミィをそっと波打ち際に移した。尾びれが砂に触れた瞬間、歌が漏れた。言葉ではない、音だけの歌。それでも意味があるように思えた。


 波が来た。


 ミィの体が海水に触れた瞬間、鱗の色が変わった。青銀色が一気に鮮やかになる。灯りの下で見ていたときとはまるで違う。本来の色だったのだろう。


 ——記録しておきたい。


「先生」ノアが小声で言った。

「わかっています」


 メモ帳は出さなかった。


 ミィが振り返った。ノアを見て、私を見た。


「ノア」

「はい」ノアが膝をついて目線を合わせた。

「ありがとう」ミィが言った。「ふわふわのこと、さわらせてくれて」


 ノアの耳がぴんと立ち、それからゆっくりと下がった。

「どういたしまして」


「またさわっていい?」

「……来るたびに触っていいですよ」


 ミィが小さく笑った。初めて見る表情だった。


「ゆーり」

「はい」

「またくる」ミィが言った。「やくそくだから」

「待っています」


 ミィが海へ向き直った。尾びれを砂に滑らせながら、ゆっくりと波の中へ入っていく。膝丈まで海水が来たとき、ミィが一度だけ振り返った。

それから、海の中へ消えた。


次の瞬間、水面の下で青銀色の光が走った。

尾びれが朝の光を受けて虹色に弾け、波の揺れとともに遠ざかっていく。鱗が光を屈折させるたびに、色が移ろい、また元へ戻る。


ふと、文献の一文が頭をよぎった。

——人魚族は「海の宝石」と呼ばれることがある。


読んだときは比喩だと思っていた。

確かに、と思った。


綺麗だ。


その光がゆっくりと遠ざかり、霧の中に溶けていった。

波が来て、引いた。また来て、引いた。


ミィの姿はもうなかった。

しかし遠くから、かすかに歌が聞こえた


 ノアが立ち上がり、砂を払った。

「……行っちゃいましたね」


「また来ます」

「そうですね」ノアが海を見た。耳がゆっくりと前を向いた。「来てくれるといいですね」


 私は何も言わなかった。


 来る。約束したから。

 それだけで十分だった

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