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09 子供の躾

「お前、バカだろ。」




ふむ、生意気な小僧である。悪くない。


私は拳骨をクルトの頭に落とした。




「痛ってぇな!?」


抗議の声が上がったが無視した。しつけは大事だ。


なにしろ親族でもなければ、お互いの社会的な背景もまったく異なる。だから、やって良いこと、やってダメなこと・そして上下関係は明確にする必要があると考えたのだ。




「クルト。よく聞きなさい。あんたの借金は私が立て替えた、でもタダでやったわけじゃない。


この屋敷にいる間、衣食住は保証するけどやってもらうこともしっかりあるから。あと、私のことは『お嬢様』か『リディア様』と呼びなさい。敬語も覚えてもらうからね。」


「わかってんよ。でも、いきなり3年後に聖剣に挑めって言われても。意味わかんねぇって。」




それは、まぁ、そうだろう。


実情としては、本当に挑むだけで良いので大した負担を負わせる気はないが、少なくとも表向きに言い訳が経つ程度には教育をする必要がある。


無駄に気持ちが緩んだり甘えが出ないようにそのことは伝えないことにしたのだ。


だから、クルトとしては自分が足蹴にした相手に突然連れ去られ『おまえ、勇者になれ』という無理難題をふっかけられた形になる。




「んー……。そう考えると精神的にはやっぱ結構な負担なのか?」


「?」




顎に手を当てて考えた。


まずは気持ちの面でも落ち着いてもらわねばならないかもしれない。侍従長によれば、この子は警戒してか昨夜も今朝も出された食事にほとんど手を付けなかったようだし。




「それに身なりもね……。」


一応無理やり風呂に入れたのでベタベタとはしてないが長年のクセがついているせいか髪はボサボサのままである。


服装は一晩あけているのに襤褸を身にまとったままだ。




「……なんだよ。」


クルトはバツが悪そうに眼をそらした。




「あんた、服はどうしたの? 昨日渡したよね?」


「あんなフリフリした服、着れるわけないだろ!!」




今日一番の威勢であった。やはり、子供は元気な方が良い。


まぁ、服に関しては私のお古を適当に渡したのだ。反発する気も分からんではない。今着てるものよりは良くないか? と思ってしまうが。




急激な環境の変化に心理面が追い付かないのかもしれない。


あれもこれもどれもそれも今日から変えろ、というのは確かにいささか乱暴ではある。




「つっても、その格好でうろつかれても困るのよね。こっちとしても。」


見ていて普通に心が痛む。


それに『パラケルス伯爵令嬢は、拾った捨て子ショタをみすぼらしい格好のまま飼っている』などと噂されてはたまったものではないのだ。




「しょうがないな。ちょっと準備するから待ってな。」


お座りのハンドサインがこの世界にあるかは知らないが、手で合図をした。




「……何を?」


警戒している。もう表情からして怯え切った野良犬である。


こんな状態でまともにコミュニケーションなど取れるはずがないのだ。だから、レクリエーションが必要である。




「買い物行くよ。あんたの服も買うから、採寸するのに付いてきなさい。」




口をぽっかり空けたクルトをおいて、とりあえず町に出ても目立っていちいち指を指されないカジュアルな服に着替えに戻る。




思えば、この世界で目覚めて言語だの慣習だの歴史だのを覚えるのに必死だったため、楽しみらしい楽しみを脇においてやってきたのだ。


ちょっとくらい自分にご褒美があって良いだろう。




何せ、まったく知らない国の首都でショッピングである。しかも、伯爵令嬢として豪遊できる。これは楽しいに違いない。間違いない。




コホン。


もちろん、一番の目的はクルトに合わせた服を調達することである。


分かっている。

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