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17 ロメリアの噂話

「ロメリアはね、研究機関だから。魔法でできるものは魔法無しでも再現できるはずって考えが盛んなんだよ。

いわゆる魔導士系の学者が魔法で新しい理論を生み出せないかを担当してて、学術系の学者が魔法の再現をどうやって行うかの検証を担当してるの。」


「あぁ、なるほど。」


キアラはニコニコとオットーへ聞こうとしていたことの補足をし始めた。


「もちろん開拓と検証の両方を自分でやる人も多いし、学者じゃないけど魔導士としての下積みのためにロメリアにいる子もいるよ。

逆に魔力はないけど頭が抜群にいいから学術系に専念してる学者も、オットー君がこのタイプだね。」


「オットー先生は魔力がないんですか? 魔法陣の研究をしてるのに?」


「魔法陣は本人の魔力に依存しない技術だからね、魔法陣の理論設計を下書きして魔導士見習いの子とか他の研究員に清書をお願いしてるんだよ。コゼットなんかは昔よく手伝ってたね。」


なるほど、その辺は人が集まる町らしい相互援助の仕組みがあるのかと納得した。

キアラに言わせてみれば、ロメリアのゼミ制度というのはまだまだ縦社会の側面が強くオットーのような人は肩身が狭いそうだが。


「おいしい?」

「……は、はい。」


話のお供に出された食べ物への感想は有無を言わせぬ雰囲気であった。

オットーの研究室で再会したキアラに無理やり手を引かれて食堂に連れ出され、二人でテーブルをはさんで30分は経つ。


私は食べ終わる前にわんこそばのように追加されるデザートに白目をむいていたのだ。


「それにしても、久しぶりだねぇ。ロメリアへは何か用事があってきたの?」

「えと、師匠に呼び出されて。ロメリアで出回ってる偽薬の調査を課題として出されたんです。」


「? 姉さんに?」


キアラは机に両肘で頬杖をつきながら目を丸くした。

何か意外だったのだろうか。


「だって、それって領主の仕事でしょ? 自分でやらないにしても市長にでも任せるべきだと思うけど……。それを弟子に丸投げって、あんまり姉さんらしくはないかな?って。」

「……はあ? そうなんですかね?」


目を合わせたまま二人して首をかしげたのだ。

なんというか、不思議な雰囲気の人である。この人と話していると時間がゆっくり過ぎるように感じるのだ。


悪い気はしないが、仕事を任された身としてはのほほんとしている場合ではなかった。

さっきも必要な情報を集めていた最中であったのだ。


「あの、キアラさ__」

「『おねいちゃん』。」


「……はい?」


ニッコリと笑ったまま、キアラは私の言葉を遮った。


「『お姉ちゃん』に何でも聞いていいよ? 人付き合いの悪いオットー君より私の方がロメリアのこと何でも答えてあげられるもの。」

「あ、えっと。……はい。」


怖い。


表情も目も笑っているのに迫力がある。

さすがはアリステリアの血族ということなのだろうか。


「何か血を原料にした薬について聞いてませんか? 噂でもなんでもいいんですが。」


「あるよぉ、噂。わたし、今は寮母をやってるからね。若い魔導士系の学者たちの間でいくつか流れてるね。」


「……どんな?」


私の問いにキアラは頬杖をついたままニコニコとした表情を崩さず黙り込んだ。

何かあるのかと思ったが、はたと要求をされているのだと気づいたのだ。


「どんな噂があるんです……? お、お姉ちゃん。」


「くふっ、君、変わったね。人間味が出たというか、愛嬌が湧いたというか。」


くつくつと含み笑いをするキアラを見て、からかわれていることに気づいた。

意外といい性格をした人である。


「まぁ、年甲斐もなくあんまり意地悪してちゃだめだよね。

そうだね。噂と言えば、『血液の接種で魔力が向上しないっていうのは高位の魔導士たちが優位を保つための嘘』だとか、『新しい血の加工方法が確立されて従来の徒弟制度はもうすぐ崩れ去る』とかかな? 


最近急に広まってる感じだね。」


「……陰謀論、ですよね? それ。」


「そうだねぇ。でも、『エリート』も意外とハマったりするんだよ。特に自分に都合が良くて保守派と対立するようなものはね。」


まぁ、現実的にそうではないと証明するのも難しいのだから一方的に間違っているとも言いづらいのか。

少なくとも、先行研究への疑念というのは一概に否定をされるべきというものでもない。あくまで『検証を前提にしているのなら』だが。


「あと血に関する噂なら『最近夜な夜な夢破れた学者たちの霊が姿をなして、命を求めて家畜の生き血をすすってる! 教授会はそれを隠してる!』みたいなのもあるね。」



「 ガチの陰謀論じゃねぇか! 」



思わず声が出た。

ジャパニーズツッコミである。


「あっはっは。リディア、本当に変わったねぇ。うんうん。ちょっと寂しい気もするけど、いいよいいよ。今の君も好きだな、わたし。」


「……。」


この人の雰囲気につられているのだろうか。つい、素が出てくる。

エレオノーラとはまた違ったカリスマ性という感じなのだろうか。


話を続けようとすると、今度は横から声がかかった。


「あの……。リディア・パラケルス導士ですよね?」


「……?」


顔を向けると、そこには朴訥とした青年がオズオズとした様子で立っていた。

年は若い。15やそこらの成人したてのころよりは上という感じであろうか。


「えっと、はい。」


『導士』といえば、リディアが15の時にロメリアで取得した最終学位だったはずだが。

『学士』『修士』『博士』『導士』『老師』の5階位で『導士』と『老師』からまた細かい区分があって『准教授』『教授』として扱われるって感じだったか?


この青年がロメリア時代のリディアの関係者かどうかはいまいち判断がつかなかった。

多分というか、相手の様子を伺っても初対面だと思う。 少なくともこちらに覚えはない。


ただ、青年がこちらに声をかけてから食堂が見守るように静まり返ったのが気になった。


まるで誰もが視線を向けないまま聞き耳を立てているように不気味だ。

なんだろう、大声のツッコミが気に障ったなら謝るほかないのだが。


「あの。……ふぅ。……っ! リディア様が啓示派の教会に聖女として認定されたという噂は本当なのでしょうか!?」


「……はい?」

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