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15 舞い込んだゴシップ

「恥ずかしいところをお見せしてしまった。声が聞こえたので来客かと迎えようと思ったんだけどタイミングが悪かったね。」

「いえ、私の方こそすみません……。あんな風に扉を開けるべきじゃないのに……。」


コゼットはペコペコと頭を下げて謝っていた。

何事にも動じない鉄の女と思っていたが、この意外な百面相は見ていて楽しい。


「自己紹介が遅れて申し訳ない。

僕はオットー・クラフト。神学術科で魔法陣の研究をしている者です。初めまして……、ではありませんね。ミス・リディア。」


「あ、はい。その節はどうも。」


オットーは笑って自己紹介をすると柔和な笑顔を見せた。やはり感じの良い人である。

ただ、私としては今はオットー自身より気になって仕方ないことがあったのだ。


「お二人の関係は?」

「……。」


ニヨニヨと、おそらく私は気持ち悪い表情を浮かべているのだろう。

コゼットは露骨に嫌そうな顔をした。隣にいる年端もないクルトでさえ呆れた様子である。


ただ私としては異世界に来て、あれやこれやを押し付けられてきた中でようやく害のない純粋なゴシップが舞い込んできたのだ。

こういう時くらいは楽しまなければやってられないというものだ。


「コゼット君は特別生だったからゼミには参加していなくてね、人手が足りない僕の研究を手伝ってくれていたんですよ。」

「ほっほぉ~?」


「それやめてくださいリディア様。はしたないですよ。」


人けのない研究室、男女二人、何も起きないはずもなく!? つまりはそんな感じなのだろうか?

ただ、雰囲気的にはコゼットの片思いという方がアリそうだ。それはそれで(私が)盛り上がってくる。


「クラフト先生。今日は、少しお話をお聞きできればと思って伺ったのですが……。アポも取らず申し訳ありません。」

「んー。」


「……何か?」


弛緩した空気を引き締めるためコゼットが本題に話を戻そうとすると、今度はオットーが困ったように答えた。


「その、クラフト先生というのは慣れないね?」

「あ、いえ。その……。先日、念願の導師号を取得されたと聞き及んでおりましたので……。めでたいことですし。」


「なるほど。気持ちは嬉しいけど、できれば前みたいに『オットーさん』とでも呼んでくれるほうが嬉しいかな。」

「……。では、オットー先生と……。」


___甘ぁああい!!


なんというか、全身が痒い。ムズムズするのだ。


あの鉄面皮のコゼットが頬を染めてうつむいて対応しているのを見て、顔が自然とニヤけるのが分かった。

というか、かわいいなこいつ。


ことここに至ってはクルトまでニヤけ始めたのが視界の端に映っていた。


「リディア様!!」

「分かった、分かってるってばよ……。」


怒られた。

お叱りを受けて、私は目を見開いて歯を食いしばって表情を固定したのだ。


まぁ、実際のところ研究室に訪問していつまでも賑やかしなどやっている場合ではない。

エレオノーラから調査を課された『偽薬』について聞かねばならない。


オットーは魔法と血の関係について見識があるとのことだが。はて、と首を傾げた。


「師匠から『血の偽薬』について調査を命じられたんですが、オットー先生は魔法陣の研究をされているんですよね?」

「えぇ、その通りです。」


「その、魔法陣については明るくなくて。二つの関係が見えてこないのですが。」


相手の研究テーマについて「知らない」と正面から言うのはいささか気が引けたが、ここは知ったかぶりをしても仕方ないと割り切ったのである。

オットーは少し意外な表情を見せてから、「あぁ」と恐らくは煤被りの噂を思い出して納得して気を悪くすることはなかった。


「そうですね。魔法陣というのは魔導士の血をインクに使って描くんですよ。

だから、血と魔法の関係については他の学者よりそれなりに理解が深いと思います。図らずもコゼット君が予想した通り、ロメリア内の『偽薬』についてもいくつか噂は聞いていますよ。」


ビンゴ、ということなのだろう。

オットーを訪ねてからアワアワと動揺してばかりのコゼットだが、やはり仕事は確かであった。

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