06 ロメリア前広場
アリステリア領の間所を通り更にしばらく馬車を走らせるとついに街に着いた。
コゼットに促されて馬車から降りた町はパラケルスや王都とはまた違った風情をうかがわせている。
「なんというか、王国の西側も地域よりも建物が入り組んでるように見えるね。」
「実際かなり入り組んでますよ。
勾配もありますし、道も狭くて人通りもあります。はぐれないようにして下さいね。」
「馬車はここに置いてくの?」
「はい。ロメリアに馬車で登るのは面倒なので。」
「ふーん。」
まぁ、良く分からんがそういうものなのかと納得した。
3人でコゼットの後ろについて少し歩くと、確かに道は入り組んでいるしグニャグニャ曲がって登ったり下ったりであった。
まっすぐ広い道を中心に区画が分かれているように作られた王都とはかなり様子が違う。
見知らぬ町でドキドキするが、通る道が迷路みたいでちょっと不安になった。
「クルト。手つなごうか。」
10歳やそこらの子供を連れて歩くのは少し不安になり、手を差し出したのだ。
クルトは「ん」と腕を伸ばして素直に手を繋いでくれた。
勝気なこの子のことだから嫌がるかと思ったので少し意外だったが、やはり幼心に不安なのだろうか。
少し歩いていると広場につく。
町に入ってからちょくちょく道の先で開けた場所に出ていたが、ひときわ大きな広場にここが目的地なのだと一目で分かった。
「切符を買ってきます。ここで、少し待っていてください。」
「切符?」
大きな河川があるから船でも使うのだろうかと思ったが、私の声は聞こえなかったのかコゼットはトコトコと足早に去っていった。
段取りを全て任せて申し訳ない気持ちはある。ただ、勝手知らぬ町の広場で置き去りと言うのは少々心細い。
「ユリウスはロメリアには来たことあるの?」
「ん? あぁ、そうだね。昔、少しね。」
「……ふーん。」
聞いてほしくないのか、歯切れが悪い。
まぁ、別に根掘り葉掘り聞く必要もない。居残り組に町のことを知っている者がいるというなら少しは安心するというものだ。
緊張も少し解けてきて、初めて訪れた街並みを見まわしていると違和感に気づいた。
通り過ぎる人たちが何故かこちらを見ているのだ。
敵意や嫌味な視線ではないので、何故かと素朴に疑問に思っていたら理由はすぐに分かった。
「……っ! ……っ!!」
「……クルト?」
私の近くを通る人がいるとクルトがガルガル威嚇するのだ。
人が通るたびに相手と私の間に割って入ってオオアリクイのように足幅を開いて髪の毛を逆立てるように警戒している。
……なんだこの可愛い生物。
その姿を見てから、先ほどクルトが素直に手を繋いだ理由を察した。
私としては子供の面倒を見ようとしていたのだが、クルトからしたら私がはぐれてしまわないようにと思ったのだろう。
可愛い奴め。
「クルト、お腹減っちゃった。悪いんだけど、あそこの出店のお菓子買ってきてくれる?」
「え? んー……。」
予想外のおつかいにクルトは目を丸くして手渡した財布と私の顔を交互に見た。
流石にこのままずっと番犬をさせておくわけにもいかない。
道行く人はこの可愛いナイトを微笑ましく見ているのだが、クスクス笑われるので本人がヘソを曲げはじめてしまっているようであったのだ。
良かれと思ってやっているのだろうから注意するのも忍びない。だから、お菓子で釣ることにした。
「クルトの分も買ってきていいから。」
「……。分かった。でも、ちゃんとここにいろよ! 勝手にどっか行くなよ!!」
「はいはい。」
トコトコと歩いて出店の列に並ぶクルトを眺めてから落ち着いた心で景観を楽しもうとあたりを見回した。
石造りの建物は暖色系のものが多く、高さは結構そろっていて見ていて楽しい気分になる。カフェテリアや商店が建物の一階に自然と溶け込んでいるのも感じが良い。
向かい合った建物を縄で通して洗濯物が干されているような光景も生活感があってなんだかワクワクするのだ。
出店や露店の食べ物の匂いもあってちょっとしたお祭りの中にいるようだった。
賑やかな街の様子を楽しんで、少しすると、広場の場所を広くとって人だかりが疎らに集まり始めた。
「なんだろ?」
「ん? あぁ、旅芸人かな? この辺には結構来るんだよ。」
私の独り言にもユリウスはしっかりと答えてくれた。
人だかりが邪魔で背伸びしても何をしてるか良く見えない。音を聞こうにも子供の笑い声が壁になっている。
「ちょっと見てくる。」
「……え?」
ユリウスの間の抜けた返答を無視して人だかりに混ざりに行った。
出店の列に並んだクルトには身振り手振りで合図したから大丈夫だろう。




