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04 どうせいっちゅうねん。

「リディア、アリステリア公爵に私から宜しくと言付かったこと必ず伝えなさい。いいですね?」

「……はい。」


カタリナの目が本気と書いてマジな感じだった。

若干血走ってるようにさえ見える。


「では、気を付けていってらっしゃい。」

「…………はい。」


リディア・パラケルスとしては10年過ごした地であるが、私としては初めて訪れる場所なのだ。

カタリナとしても娘が記憶喪失だと認識しているのだから、安心するようにもう少し心情に配慮してくれても良いと思うのだ。


正直に言うと、ちょっと引いた。

怖い。


「それでは、いってまいります。」


自分に必要なものだけでなく、目一杯の土産の品を持たされている。


『何があっても、絶対に、ぜっったいにアリステリア公爵の不興を買うな。』という気持ちが伝わってくる。

というか、実際に言われた。


しかも、屋敷の玄関を出る前に目一杯抱きしめられたのだ。

怖えぇよ。


「……気が重い。」


パラケルスは元をたどればアリステリア一門の分家・弟子筋にあたる。

『あたる』というのは、3代前に破門されているからだ。


我が家は錬金術師としては少々変わり種だ。

それは『金の錬成』という錬金術師としての至上命題を目指す『正統派』とは距離を置いているところに由来している。


つまり、銅や銀などの錬金術でいう『金の成り損ない』『未熟な金属』を金に錬成するという錬金術の大本の目標に対し、

「長い歴史でできてないし、とりあえず成り損ないでもいいから銅は銅のまま、銀は銀のまま、なんか使い方ねぇかな?」という発想の転換から、銅触媒を利用して染料と香辛料の改善・品質の向上で財を成したのだ。


今ではヴェスタリアでも指折りの輸出品を抱え、王国に多大な経済的貢献をなしたことで爵位と領地を与えられた成り上がり一族である。

ジゼルあたりに言わせれば、爵位を金で買った成金貴族なのだ。


まぁ、そこまでは良い。

問題はこの未熟な金属を金の錬成以外で使えないかという大本の発想がアリステリアの御膝元であるロメリアで生まれたものであった点だった。


要は「元々うちのシマで生まれた技術なんだからレシピ公開して恩を返せ」VS「そんなもん企業秘密で公開できるわけねぇだろ」という泥沼の権利争いが勃発する結果となったのだ。

結果は既に述べたとおりである。


カタリナが一縷の望みをかけているのは、その両家の冷え切った関係の改善の助けになったのがパラケルス一族開闢以来の天才『リディア』の存在であったからだった。


「……才能、ねぇ。」


カタリナには悪いが、自分がどうにかできる問題だとは思えなかった。

転生日本人である私に一体全体何をどうしろというのだ。


普通の家に生まれて普通の生活をしてきた私としては、自分の資質以前にそもそも人生の中で天才どころか才能そのものにお目にかかった実感さえない。

大体の人間はそんなもんだと思っている。


「まぁ、見方によっちゃ才能もズルみたいなもんだよね。」


人の半分の努力で上達する。持ってない人間が絶対届かない領域への切符を生まれ持っている。

あるいは、家が金持ちだとか、両親揃って美形だとか。

世の中には嫉妬で狂う人もいるなどというが、自分とは無縁の話であった。そんなに高望みして生きる性分ではなかったのだ。


「人の持ってるものをのぞき込んでズルだなんだと騒ぐのもせせこましいっていうか。まぁ、趣味じゃないしね。」


とりあえず、今回も自分にできる分の努力はしてみよう。

それでダメなら文句を言われる筋合いはないのだ。


私は自分で荷物を持ってクルトとコゼットを待たせている馬車に向かった。

違和感を感じたのは二人が少し困った様子でオロオロしているからであった。

目を凝らすと人影が一つ多いのだ。


「やぁ、リディア。僕もアリステリア領に用事があるんでね。どうせならとご一緒させてもらうことにしたよ。」


婚約者(縁談先延ばし中)、この国の最も尊き血を継ぐ王子、ビジネスパートナー。

ユリウス・ヴェスタリアの姿であった。


「……。」


言いたいことは山ほどあった。

だが、息を大きく吸い込んで気持ちを落ち着けようと思ったのだ。


まず、ご一緒させてもらうことにしたじゃねぇよ、とか。

相乗りするなら許可を取れと、とか。

そういう考えがあるなら先に連絡を寄越せ、とか。


まぁ、様々浮かんだ。

だが、どれも言ったところでどうしようもないことなのも分かっているのだ。


こっちは散々借りを作りまくったこの国の王子様の些細な『お願い』を断ることなどできないのだから。

散々ッぱらした手順の省略というやつである。


吸い込んだ息が胸をパンパンに膨らませてこれ以上はもう吐き出すしかないところまできていたのだ。

苛立ちは収まらないが、小市民生まれの私だから諦めも肝心であると割り切る事ができる。


それでも、一言だけ言いたいことがあった。


「やっぱ、ズルだろ。これ。」

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