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03 測れないもの

「おぉ……!」


庭ではクルトとコゼットが木剣を使った稽古をしていた。

稽古とは言っても、かなり実戦さながらな打ち込み合いのようであった。


クルトはその小さな体の身軽さを利用して右へ左へフットワークを活かしてコゼットへ迫っている。

素人目に見れば攻めているクルトが主導権を握っているように見えるが、そこは指南の妙というものなのだろうか。

コゼットはクルトの剣激をいなして最後はに腕を掴みあげて剣で頭をコツンと打った。木剣にもかからわず、わざわざ峰を返したあたりを見るとまだまだ余裕を残しているようであった。


「くっそー……!」

「午後にはリディア様と一緒にアリステリア領に向かう馬車に乗りますよ。クルトも準備なさい。」


悔しそうな声をあげながらクルトは仰向けになって芝生に体を倒した。

コゼットは口頭でいくつかの助言をした後に予定を言い渡してから、メイド服のスカートの汚れを払って屋敷へ戻ってきたのだ。


「お疲れ様。」

「あぁ、リディア様。いえ、疲れたというほどのことではないです。いい運動になりますよ。」


少しだけ息を切らしている様子であったが、表情には平然としている。


「クルトはどう? その、3年後には間に合いそう?」


ジゼルに言わせれば、才能自体は十分とのことだったが。

この分だと剣士としての実力が一人前になるまでには長い目で見るべきなのだろうかと思いつつ、コゼットに所感を聞いたのだった。


「……私は、騎士としては特別秀でた才能がありません。」

「? ……うん。」


少し重たい口調であった。

コゼットは進んで戦いに臨むタイプではないし、そもそも本業はパラケルスの侍従長だ。

剣士として、騎士として誇りを持っているタイプではないと思っていたのでその様子に少し驚いた。


意外なその言葉の持つ意味を探ろうとすると、コゼットが自ら話を続けた。


「これは持論ですが、才能というものは自分より上の者の評価はできないと思っています。

自分より勝っているとは気づけても、それを測る手段がない、と。


だから、私には騎士としてジゼル様が上か、アーデル殿が上なのか。あるいは、魔導士としてエレオノーラ公爵殿下が上か、かつてのリディア様の方が勝っていたのかは判断がつきません。」


「……うん。」


私はクルトが3年後に勇者になることを夢見ている。

あの子には才能があるとも信じている。やはり自分の引き取った子は可愛いのだ。


だが、それが身内びいきであることも自覚している。


だからこそ「それでも」と続くコゼットの言葉に驚いたのだ。


「それでも、あの子なら……本当に聖剣に選ばれるかもしれない……。そう思わざるを得ません……。」

「……っ。」


驚いているのは、むしろコゼットの方であったようだった。

いつも落ち着いた様子を崩さないこの従者が、振り返ってクルトを見る目はわずかに見開かれていた。


起き上がって黙々と木剣の素振りをこなしていたクルトは、単調な作業に飽きたのか剣を振りまわしながらピョンピョンと跳ねまわっていた。

私は少ししてから、それが先ほどのコゼットとの打ち合いを反芻しながら仮想敵を相手にしたイメージトレーニングであることに気づく。


素人目に見ても分かる。

たった数秒前の動きよりも疾く、鋭い。


「……この子なら、もしかしたら。……本当に。」


コゼットは心底驚いた表情を伺わせながら頬を親指で拭ったのだ。

頬には赤みが残っており、それがクルトの剣が本当に僅かであるが届いていたことを表していた。

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