43 必要なおせっかい
「まったく、本当にどうしようもない子だこと。」
ユリウス殿下と事後処理に出張らっているパラケルス伯の代わりにリディアの容態を見てから部屋を後にした。
良く考えれば先日の地下組織掃作戦から始まり、ナタリアとかいう闇金融の元に殴りこんだらこんだでワラワラと出てくる警備兵をアーデルと共に一手に引き受けさせられ、
損な役回りばかり押し付けられているのではないかと流石に文句の一つも言いたくなる。
オルセラ伯の嫡女であるこの私を顎でこき使うとは良い度胸である。借りはいずれきっちり返してもらわねばならない。
ゴテゴテと装飾が施されているパラケルス伯爵邸の廊下を歩きながら一人愚痴っている。
私とて淑女である。引き受けた仕事を全うすることに異存などはないのだ。
それが、王国の顔たる王都を守るためであるなら骨身くらいは惜しまぬ気構えである。
「だから、『これ』は本当に貸しよ。リディア。」
目的の部屋の前に着き、溜息を一つついてから扉を開けたのだ。
「……ジゼル様。」
「そのままでいいわ。」
部屋に入るとベッドわきにある腰掛に座ったコゼットが立って迎えようとした。
ベッドにいる少年はというと、座ったまま居心地悪そうに項垂れている。
体のあちこちを包帯で巻かれて痛ましい限りであった。
「……リディアは?」
坊やが視線を僅かに泳がしながら問うた。
「眠ってるわ。貧血みたいなものだから安心しなさい。
随分長い間、魔法を使ってなかったところに一気に魔力を巡らせて体が驚いただけよ。貴方よりずっと軽症だから。」
「……。」
辛気臭い子供だな、と思った。
何度か剣の稽古をつけてやったが、もっと勝気な印象だった。
とすると、やはりナタリアの屋敷に向かう前にリディアと坊やの間に起こったと予想した通りのことがあったのだろう。
やはり、気乗りしない。
そもそも親子だ家族だの話に嬉々として首を突っ込む質ではないのだ。
だが、まぁ、仕方ない。
これは多分、私にしかできぬ役目であるだろう。
「コゼット、悪いけど少し外してちょうだい。」
「……かしこまりました。」
コゼットは一礼をすると静かに部屋を出た。
扉を閉める時に少し躊躇ったようであるが、流石にそのまま部屋の前に居座って聞き耳を立てるようなことはすまい。部屋から遠ざかる足音が聞こえた。
「……。」
ますますと居心地の悪そうな少年を見て、一つ息を深くついた。
「喧嘩したそうね、リディアと。」
「……。」
私の言葉に坊やは跳ねるようにビクりと肩を揺らした。
「ま、あんな情けない主に愛想を尽かす気は分からないではないけれどね。」
「……っ!」
睨みつけるように恨みがましい視線が飛んできたが、子供の非難などなんだというのだ。
私は無視して話を続けてやった。
「あなたが望むなら、オルセラで養子に迎えてあげても構わないわよ。」
「……だれが。」
「言っとくけど、別に私から『お誘い』してるわけじゃないの。頼まれたから言ってるだけよ。」
「……誰にさ?」
「リディアよ。」
「……っ!?」
恨みがましくこちらを見ていた目は様相を変え、覗き込むように見開かれていた。
しばらく真偽を図る様に私を観察していたが、表情から察したのだろうか、それを嘘でないと感じるとガックリと項垂れたのだ。
「アーデルの小間使いが欲しかったのよね。
あれも騎士号をとって暫く経つのに配下の一人も作らず私の周りばかりウロチョロしてるから、そろそろ独り立ちさせようかと思ってたところだから丁度良かったわ。」
坊やは下を向いたまま、シーツを掴んだ自分の手ばかり見ていた。
全く失礼な小僧である。大貴族の嫡女が話しているというのに。
まったくもってあの主にお似合いである。
「ま、別にどうしたいかはあなたに任せるけどね。
ただ自分がどうしたいか決める前に、『これ』は読んでおきなさい。」
私は坊やの膝の上に落とすようにポンと束になった手紙をほうったのだ。




