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34 出立と見送り

突入の手筈を整え、満たした腹ごなしに屋敷の玄関でストレッチをしていると夜闇の中から見知った人影が浮かんできた。


「アーデル殿?」


コツコツと靴を鳴らし、並び立つメンツを見ると軽口を叩いた。


「城でも堕としにいかれるんですか?」


「私のサーベルは?」

「こちらに。」


アーデルの軽口を無視して、ジゼルは自分の剣を受け取ると腰に差し外套を翻した。

続いて「人数分の馬はいるの?」と問うと、それにコゼットが答える。


「5頭おります。」

「グレイ殿を入れたら一頭足りないじゃない。」


「リディア様は一人で乗馬できませんので、むしろ丁度です。」

「えぇ……。」


それを受けてジゼルから非難の視線が向いた。

まぁ、貴族の令嬢が馬にも乗れず相乗りをさせてもらうというのはみっともないのであろうから仕方がない。


「何か?」

「別になんでもないわよ。」


各々が自分の身支度を整えている中、玄関の扉が内から開く音にひかれて視線を向けるとカタリナの姿があった。

疲れた顔からは、雨の中クルトを探し回った痕跡がありありと見て取れた。


「リディア。」

「……はい。」


思えば先日の社交界から始まり地下組織への潜入に続いてクルトのことまで、この人には心労をかけっぱなしであった。

「いい加減文句の一つも言われるのであろうか。」と心の中で準備をして向き直ると、カタリナはじっとこちらを見て口を開いた。


「あなたも無理はしないでね。」

「え? あ、はい。」


「? どうかしたの?」


私の返答が腑に落ちないのか、カタリナは不思議そうに私の言葉を待った。


「……いえ、お母さまにもいい加減愛想をつかされるものかとも思っていましたので。」

「なんですか、それ。」


カタリナは私の返答を可笑しそうにコロコロと笑う。

私としては、そこそこ本気で言ったつもりであったのだが……。


「そりゃあ、もう少し落ち着いてくれればと思わないことはないですけれどね?」

「……デスヨネー。」


「でも、親子なんてそんなものですよ?

子供があっちいって連れ戻しにいって、そっちいって叱りにいって。頭を悩ませながらするものです。子育てなんて。」


「……大変そうですね。」

「当たり前です。」


だから母親は強いのだ、とカタリナは胸を張ってエッヘンと鼻を鳴らした。


「それに、なーんにも心配することのない子なんてつまらないわよ。」

「……。」


「クルトはいい子よ、リディア。」

「……はい。」


カタリナは私の髪を指の甲で撫でてから、そっとに肩に手を置いた。

そして、厳しくも優しい口調で諭すように助言を手渡してくれた。


「素直にね。」

「はい!」


これ以上は言う必要もないであろうと、カタリナはコゼットが馬を連れてきたのを確認してか一歩下がった。

私は差し出された手を握って馬に乗ったのだ。


「しっかり、捕まっていてくださいね。リディア嬢。」

「ユリウス!?」


自分の従者の後ろに乗ったとばかり思っていたから、その声に驚いて視線が泳いだ。


「ち、ちがっ! コゼット!!」

「いえ。私としても、てっきりこちらに乗られるものとばかり思っていたのですが、リディア様がユリウス殿下の手を取ったので驚いています。」


手綱を操るユリウスを恨みがましく見ると、本当に理解していないのか目を丸くして視線を返してきた。

ユリウスが靴で馬の横腹を叩いて合図を出すと、馬の回頭に合わせて走り始め他の面子が後に続いた。


屋敷を出て通り過ぎる景色を意識から追い出せば、あとは前だけを向いて目的地に向かったのだ。

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