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32 手紙

届くことのなかった手紙を読んでいる。


自分の近況と、仕送りは足りているのか、調子はどうか。

書かれているのはどれもありふれたことであるが、言葉はぎこちないものであった。


一度捨てられたものを持ち出されたためだろう、紙はボロボロで汚れが目立つ部分などは字を判読することも難しい。

そういう部分には新しいインクで元々あったであろう文面が補完されているのだ。


すべてではない。おそらく、出来る限りのことをしながら自分で書き足せるものだけでも修復しようとしたのだろう。

そんな手紙がテーブルにはいくつも置かれているのだ。


「……ジゼル様。」

「これ、リディアが?」


ロメリアからの付き合いであるリディアの従者に声をかけられたので、なんのけなしに聞いてみたのだ。

当たり前であるが答えは肯定であった。こんなことをわざわざするのはあの女しかいないのだから。


「バカな子ね。」


やはり貴族らしからぬ女である。

こんなことをしてなんとするとは言わぬが。私からすれば、そもそもこんなことを思い付きあまつさえ実行しようとする心持ちに呆れてしまう。


「それで、坊やは見つかったの?」

「いえ、雨も強く日も落ちてしまいましたので、また明日探そうということになりました。」


「リディアは?」

「さきほどグレイが無理やり連れ戻してきて、今は湯舟で温まらせています。」


ただの子供の家出なのだからそう騒ぎ立てるな、などと気休めを言ってやったが気が気でない様子であった。

まぁ、いなくなった子供と憔悴した主の両方を心配するはめになっているのだからコゼットの心労も相当なものなのであろう。


「あの……。リディア様が、ジゼル様にお願いがあるのだとか……。」

「お願い?」


坊やを探すのを手伝ってほしいとかそんな内容であろうか。

別に吝かではないが、王都の地理に疎く本人との接点も大してないのでどこを探せばよいのかなどは全く思いつかず力になれるかは疑問に思った。


しかし、そんな杞憂はいざ知らずコゼットから伝えられた『お願い事』の内容に目を丸くしたのだ。


「クルトをオルセラで養子として温かく迎えてやってはくれないか? と。」

「はぁ?」


「……。」


あまりに頓珍漢な願い事とやらに気の抜けた返答をしてしまった。

ただその内容を聞けば、なんとなくではあるがリディアと坊やの間に何があったのかは察することができた。


「本当にバカな子ね。」


思わず苦笑いが出たのだ。

『ヴェスタリアの黄金』と呼ばれた過去はもう影も形もない。随分子供っぽくなったものだ。


私は送られた相手に読まれることのなかった継ぎ接ぎだらけの手紙を置いて部屋を出た。

本当に仕方のない女であると呆れかえって物も言えぬが、自分の過去を振り返ってもみれば随分くだらない意地を張っていたことが思い起こされる。


だから、せめてこの親心のこもった手紙が届くよう手伝うくらいはしてやろうとは思ったのだ。

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