16 地下組織のヒドラ
「それで、王都に隠れているのは結局どのくらいの規模になるのです? 向こうの勢力がどの程度になるのかという話ですけれど。」
地下組織を掃討するのは良いとして、まずは彼我の戦力の確認をしたい。ジゼルが実務的な話を切りこんだ。
武門を重んじる騎士系貴族らしい視点である。
「王都で暗躍している組織は3つですね。」
事前調査の結果なのだろう。
ユリウスは王都内での地下組織についての説明に入った。
「麻薬などの違法な物品の流通を扱っている組織が1つ。売春・人身売買を斡旋している組織が1つ。そして、賭博や地下闘技場など違法集会を仕切っている組織が一つ。」
それぞれの組織の長と見られている人物の名をあげて似顔絵をテーブルに広げている。
麻薬・人身売買・違法集会。
うむ、絵にかいたような悪の地下組織のヒドラだ。
この世界にヒドラの伝説があるのかどうかは知らんが。
「ただ、どの組織が高位貴族やレオと繋がりを持っているのかまでは分かりませんでした。
『掃討作戦』とは言っても、 幹部構成員は捕縛していただきたい。情報が欲しいのです。」
「3つの組織がそれぞれ独立しているのですか? 扱っている分野がそれぞれ分かれているので、てっきり1つの大きな組織の下部組織かと思いましたが。」
疑問を投げた。話の腰を折るべきか迷ったが、細かい情報でも共有した方が良いと判断したためである。
「情報や人事の交換はあると見た方が良いでしょう。
ただ、もともとの母体となる組織自体は別であったようなので、やはり3つの独立した組織だと考えた方がよいかと。」
「……。」
私が少し考えを巡らせているとカタリナが付け加えるように考えを述べる。
「つまり、王都内での地下市場の生存競争を生き残った3つの頂点捕食者と考えるのが妥当ですね。
集団での暴力性も、運営を行う組織力も、それぞれがそれだけ強固なものであると。」
「なるほど。」
ようは蟲毒を生き残った魑魅魍魎の上澄みということだろう。
あるいは、それこそ敗者を取り込んで巨大化して力をつけたということだ。
どちらにせよ、一介の地下組織として考えない方が良いと肝に銘じることにした。
なにせ、第2王子がじきじきに出張って解決にあたろうというのだ。
「それぞれが保有する戦力は?」
今度はジゼルが問うた。
「それぞれが約100名程度の傭兵を抱えていると考えてください。ただ、戦闘になったとしても市街地や地下になりますので、一度に相手取るようなことにはならないはずです。」
端的なユリウスの問いに、ジゼルは肩をすくめ鼻を鳴らす。
「騎士の1:100の法則ですわね。その程度なら何の問題もありませんわ。」
「?」
知らない単語が出てきた。
ユリウスやカタリナ、そばに控えたコゼットとアーデルもこれには特に疑問を持たなかったようだったので、この場で質問して話の腰をおるのはやめておこうと考えた。
あとで誰かに聞けばよい。
代わりにジゼルがした質問の流れに沿った問いを提示することにする。
「相手側に高位の騎士や魔導士がいる可能性はないのですか? つまり、数で劣るこちらが質の面で後れを取る可能性ということですけれど。」
ジロリとジゼルに睨まれたのを感じ、それに気づかないフリをした。
騎士系貴族からすれば、「地下組織程度に後れを取る」、「高位の騎士が金目当てで地下組織に協力する」どちらにしても侮辱と受けられかねないが、必要な問いだ。
「可能性は低いですが否定はできません。そのため、まずは調査を込みで顧客として潜り込むことを提案します。」
ユリウスが答えると「あぁ、それでこの人選ですか。」とカタリナが妙な納得をした。
他のメンバーにも目を向けると、それぞれ肩をすくめたり苦笑いをしている。ジゼルだけは不満そうに「フン」と鼻を鳴らした。
話についていけていないのは自分だけであったようだ、流石にこれについては聞こうとするとコゼットが口を開いた。
「権謀術数が得意で黒い噂が絶えない第2王子、貴族間でのいざこざを町中で引っ張り出すような素行が悪くプライドばかりが高い騎士系貴族。」
コゼットが分かりやすく指折り潜入メンバーを数え始めたことで、私も理由にピンときた。
「傍若無人が服を着ていた過去を持ち心身喪失の噂がある悪役令嬢。これは、確かに地下組織に顧客として行っても不思議じゃないですね。
しかも、いい感じにお互いがお互いの腹の中を探ってそうな微妙な距離感で信頼関係がなさそうなメンバー、完璧な布陣かと考えます。」
腫れものフレンズであった。
ひとつのテーブルに三種類の地雷が膝を突き合わせて座っている。
こっちもこっちでヒドラだ。
しかも、主人や目上の人間を物怖じせず揶揄する従者付きである。
「まぁ、そういうことです。」
ユリウスが笑った。
いや、笑い事ではないのだが。まぁ、それは今は良い。
「それぞれ分かれて行動するなら、誰がどの組織に近づきますの?」
ジゼルはどこ吹く風で話をすすめた。これに関してどうこう言う気はないと態度で示している。
意外と周りからの自分の評価は気にならない性格なのだろうか。
「できれば、わたしに麻薬組織を任せていただきたいです。
組織の性質上、王都内の地理にかなり精通しているようでしょうから領主伯爵令嬢のお二方では地理的な不利を押し付けられる可能性があるかと。」
「ま、妥当ですわね。ユリウス殿下を売春窟に向かわせるわけにもいきませんし。」
ジゼルの言に一瞬「なぜ?」と疑問を感じたが、はたと気づいた。
そう、この世界の売春宿は女が男を買うのだ、と。
薄いランジェリーを身にまとった下着の男たちが怪し気なライトに照らされる姿が思い浮かぶ。
それに気づいた瞬間に有無を言わせぬ勢いで私は裏集会組織への潜入を志願したのだった。
この世界で売春宿がどう運営されているか知らんが、クネクネしたナヨナヨ男たちの巣窟に行くのは生理的に無理だ。
絶対に行きたくない。
そうして、潜入の手順が確認され、夜を待ったのであった。




