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01 ンフッwって言うな。

男ならロッキー・バルボアのような益荒男が望ましい。

父が若い時代を懐かしんで買ったロッキーシリーズのDVDを幼心に鼻息を荒くしながら見たのが初恋のきっかけであった。

ロッキーシリーズはただの映画ではない。道を外れてしまったヤンチャな男が運をつかみ、挫折し、師との別れを越えて老いていくまでを、ボクシングを通して語る人生劇だ。


脇道にそれてしまったが私としては「男とは傷だらけになりながらも踏ん張り、愛する人を守って共に成長する」そういう漢気が大事なのだ。

つまり、何を言いたいかというと……。

私が3年前突然目を覚ましたこの世界の男どもは、その真逆であるという愚痴である。


「リディア嬢。お久しぶりです。お加減を悪くされたと聞いて心配していましたが無事回復されたようで何よりです」

体にぴったりと合った燕尾服を着た貴族令息が眉をあげ、目尻をさげながら挨拶をしてきた。知り合いらしい。

「ご心配をおかけしました。何もかもが以前の通り……とは言いませんが、なんとかパラケルス伯の名を継げるように励んでおります。」

ご令息は値踏みをするように私を見て、吐息を漏らすような声で笑い愛想を振りまいた。

「んふ、以前のあなたも素敵でしたが、印象が変わった今のお姿もより素敵ですよ。」


ンフッwって言うな。


「ありがとう。今日はたくさんの御令嬢・御令息の方々をお呼びしておりますので、あなたも今夜は是非楽しんでくださいね。」

要約すると、私に構うな。他の奴と喋ってこい。である。


いわゆる宮中言葉というやつだ。

日本でいうと、京都人がにっこり笑いながら人を刺す言い回しをする(※偏見)理由とだいたい同じである。

貴族社会なんて、いつ情勢がひっくり返って敵と味方が入れ替わるか分からないうえに、メンツ商売だ。

「後で何が起きるか分からんし、とりえあず表面上だけは仲良くしましょうね」という人間社会共通の知恵である。


「えぇ、私としても今日はリディア嬢ととても有意義な会話ができて光栄でした。」

二往復の会話の中にどんな意義を見出したのかは知らんが、まぁ、社交辞令だろうか。

あるいは「王国内でも有数の大貴族令嬢の回復祝いに真っ先に挨拶に向かった」という既成事実があればよい、という感じなのかもしれない。貴族社会……怖い。


「んふ、では、これで失礼いたします」と付け加え男は去っていった。


ンフッwって言うな。


見渡せば、給仕は男がしている。

この世界では政治や軍事・経営は女が行っており、男とは見目麗しく清廉たれと教育され、パーティがあればパートナーに腕を引かれアクセサリーや調度品のような扱いをされている。

そのせいか、平成初期の女児向けアニメに出てくるキザ男のようにくぐもった鼻を抜けた吐息でンフwというあの独特な笑みを出す。


勘弁してくれ。

私はどちらかといえば守られたい系の女子である。そしてマッチョイズム信仰の徒であるのだ。

ライオン社会かここは?

生まれ変わった今生で私が恋に落ちるのは無理かもしれないと絶望しながら、なんとか(自認)3年間の教育をうけた貴族作法を総動員してパラケルス伯爵令嬢として振舞わねばならない。


私の気持ちや都合はどうあれ、メンツで食ってる家の人間たちに養われているのだ。

その家のメンツを潰さないようにせめて努力は尽くすべきだ、と自分に言い聞かせ気合を入れ直した。


なぜなら、本日のメインイベントがここから始まるからだ。


「リディア様! 今日この場をもって貴方との婚約は破棄させていただく!」


__婚約破棄というものはもう少し風情があるものだと思っていた。

ざわめく貴婦人たち。グラスをトレイに載せて運ぶ男たちが、みな不安そうに目を伏せた。


「んふ、理由はお分かりですね? リディア様」

王国全体に名を轟かせるバカ王子。第4王子・レオは髪をかき上げ片目をつむって私に問うた。


ンフッwって言うな。カス。


喉にたまった息を一度すべて吐き出した。

まずは、3年前、私がこのナヨナヨ男どもで溢れかえった世界にてリディア・パラケルスとして満身創痍の体で目を覚ましたところから語らねばなるまい。


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