表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星影の道案内  作者: 海鈴 ひなた
プロローグ
1/6

プロローグ

「初めまして、私は風の上位精霊シルヴェリーヌ。ヴェリーとでもお呼びなさい」

 それが、彼女の一番最初の記憶であった。


 彼女はゆっくりと落ちていた。ほとんど光のない闇の中で、ゆっくりと。風は彼女を包み込み、優しく、その存在を愛でていた。彼女は目を閉じて、その不思議な感覚に身を委ねていた。落ちる速さは、一定だ。

 何分も、何時間も。

 どれだけの時間が過ぎただろう、ふいに、彼女を包み込む手が現れた。周りの風と同じように、強くも優しくもない力で、抱き上げる。その熱はほんのりと暖かく、彼女は先程までと違う感覚を味わうために数秒目を瞑り、開けた。そのときに、闇に溶け込んでいて全く見えなかった、腕が、肘が、肩が、首が、足が、少しずつ、気の遠くなるほどの時間をかけて、見えるようになった。

 その女の人は彼女を抱きしめた。彼女が暖かさを味わったように、女の人も彼女の体を味わった。女の人の両手は彼女よりも大きく、大人の大きさと、優しさだった。

 しばらくして、女の人は彼女を抱いて、何処かに向かった。足は揃えられたままだから、飛んでいるのだろう。彼女は理解が追いつかないという風に目を見開いていたが、女の人から逃げようとはしなかった。女の人のことを受け入れている。

 そして、女の人はなんの変哲もない闇に降りた。彼女を起こす。すると、驚くことに彼女は立つことができた。闇の靄は二人が立った場所にもあるから、空に浮かんでいるようにも見えた。女の人が、左手に下げたランプの灯りを付けた。二人の周りがぼんやりと橙色に染まる。女の人が右手で、彼女の左手を取る。彼女が握り返すと、女の人は手を引いて、一歩一歩を噛み締める歩調で歩いた。とてもゆっくりとした足取りだったから、彼女は難なく付いていった。女の人は彼女を導いているようにも見えた。自分達が少しずつ坂を上っていることに、彼女は気がついていなかった。

 幾分か歩き続けてまた、女の人が足を止めた。それと同時に、女の人の手の中のランプが消える。そして、彼女の左手を少しだけ持ち上げ、空になった両手で包んだ。そのとき、空気が震えた。彼女は耳を澄ます。

 

 ——私は……。

 

 女の人の声がした。彼女はさらに耳に意識を向ける。


 ——私は、あの星なの。

 

 そして女の人は、彼女の左手を高く掲げた。彼女が顔を上げる。頭上には、知らぬうちに星屑が散りばめられていた。その中でも一番輝いている星を、彼女の手が指している。

 あの、星?

 彼女は頭の中で反芻して、隣にいる女の人の顔を見ようとした。しかし、闇が邪魔をした。顔は黒に紛れて見えなかった。

 女の人がまた飛んで、彼女から遠ざかった。否、彼女が落ちて、女の人から遠ざかった。彼女は一生懸命女の人に近づこうとしたが、無理だ。

 突風。彼女は体を急に持ち上げられた。彼女は手を伸ばして、開いて、掴む。何度も何度も掴んでも、彼女が女の人に触れることはできなかった。女の人は、小さくなっていく彼女を見上げて、闇に紛れた顔で微笑んだ。顔は見えないけれど、微笑んでいる。彼女は精一杯口を動かしたが、その声は遥か彼方の天窓から差し込む光に吸い取られて、消えた。

 

 今、ドラノアイの森の長い夜が明ける。

 

 


始まってしまいました。気まぐれになるかもしれませんが、どうぞお付き合い下さい。ここから物語がどう動くか、私も楽しみです(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ