第一章 異世界に落ちて・・・ (1)始まり
第一章 異世界に落ちて・・・
(1)始まり
俺はこの物語の主人公の[宇和紙 刀冶・作家名:鐵]四〇後半のおっさんだ。職業は小説家兼雑貨工藝士をやっている。小説家に成って一年程の老新人だ。
生まれ育ったのは、首都圏近郊の多少名の知れた街で、今は、とある地方山奥の古民家を購入して、自ら改装しながら田舎暮らしを楽しんでいたのだが・・・
ある日、出版社で打ち合わせが在るので、愛車のバイクで出版社に向かい色々な打合せこなして、担当者等関係者数名で、夕食を食べ、ホテルに戻り帰り支度を済まして、早目に眠りにつく。
翌朝、日の出頃に、ホテルをチェックアウトして、バイクで帰路に着いた。
十時頃、朝昼兼用の食事をサービスエリアで取り、バイクにも燃料を入れて、残り半分程を、『のんびり安全運転で』と、心の中で誓い、本線へと走り出した。
幾つかのトンネルを通り抜け、、長い高架橋の中央に差し掛かる少し手前で、進行方向の山が競り上がる様に見え、道路が波打つてたわみ、そのたわみが前後から迫り来る、目の前数メートルの所でたわみ同士がぶつかり道路が爆破された様に崩れ落ち、瓦礫と共にバイクごと空中に投げ出された。
必死にバイクしがみ付いていると、目の前に光り輝く穴が現れ、吸い込まれる様に穴の中へ入っていき、視界が白く塗り潰された。
光が弱まり視力が戻り視界が開ける頃、女性の声の様なものが頭の中に直接聞こえてきたが、まるで理解の出来ない謎の言語だった。
頭の片隅でそんな事を感じながら現実を受け入れたく無い災厄な状態で、悪い夢だと思い込みたかった。
開けた視界に映るのは、上半分が朱色に染まり始めた群青色の空、下半分が黒みがかった緑の森が見え、俺は上空数百メートルを、自由落下の真っ最中だった。
現実逃避の為か、作家脳のせいか、『ここが異世界なら魔法が使えるのでは』と考え、風のベールにくるまれるイメージを強く強く思い描いていると、自分とバイクが淡い黄緑色の光の粒に覆われている事に気付いた。
そして、全身に感じていた風圧が薄れている事に気付いた俺は、更に集中して、より強く風の防御幕のイメージを膨らませた。
すると、黄緑色の光がバイクごと全体を包み込んだ。
落下速度は、変わった様には思えないが、風圧は無くなり気持ちに少し余裕が生まれた。
地上が近づくと、森の中に三車線道路が収まる位の道の様なものが通っている様に見え、そこを黒く大きな生き物が移動して要るのが見えた。
更に地上が近付いて来ると、黒い生き物と、衝突するコースを取って居る事が明確に感じ取れた。
その黒い生き物は、黒曜石の様な透明感のある鱗に全身を覆われていて、六脚の後ろ脚と四脚の前脚を持ち、上半身が西洋のドラゴンの様で、下半身が東洋の龍の様な姿をしていた。
嫌な予感とは、大体当たるもので、その黒い生き物に真っ直ぐ向かって行くのであった。
半分は諦めの心境だったが、やはりこんな所で死にたくない気持ちも在り、何処にぶつかれば助かる確率が高いかと黒い塊を凝視していると、上前脚の真ん中より少し左の辺りが仄かに光っている様に見え、その場所に、後輪辺りからぶつかると、助かる予感がして、そこへ向うイメージを強く思い描いて目を固く瞑った。
次の瞬間、黄緑色の光が弾ける様に爆発し、爆風に巻き込まれる様にバイク毎吹き飛ばされ数十メートル先の大木の根本辺りでバウンドしてバイクから投げ出され大木の幹に背中からぶつかり意識が途切れた。
黒龍を中心に半径百メートル程の範囲の樹木がなぎ倒され。衝撃波は、祭壇の辺りまで届き供え物がなぎ倒され黒龍の花嫁も数メートル飛ばされ気を失った。
十数分後意識が戻った花嫁は、何が起きたか解らず惚けていた。
暫くして、気持ちが落ち着いてきて、周りの状況を観察出来る様になると、太陽が大分高い位置まで登っている事に気付き、黒龍が現れて居ない事に疑問と違和感を感じ、先程自分を、吹き飛ばした衝撃波が関係しているのではと考え始めた。
先ずは、自分の身体の状態を確認すると、体の彼方此方に内出血が見られ四肢の状態を確認すると、左脚の足首を動かすと、強い痛みが走った。
そこで自分自身に神々の贈物、『治癒の道程』を使い怪我の状態に適した治癒術を導き出し、自分自身の身体を癒した。
身体が癒えるとお腹が空いている事に気付き周りに、散乱して要るお供え物の中から、果物を見つけ出し、比較的に傷みの少ないきれいな状態物を選んでお腹を満たした。
人心地着いた所で、一番気になっていた爆心地を確認しに行くことに決めた。
祭壇から爆心地の方向へは、最初のうちは比較的なだらかで歩き易かったが、二十分を過ぎた頃から細い木や傷んだ木などが倒されていた。
更に進むと、道を塞ぐ様に沢山の木々が倒れていて、行く手を塞いでいた。
先に進むにはドレスの裾が長すぎて邪魔なので、スカートの下に隠し持っていた短剣を使って短く成る様に切り裂いた。
比較的、倒木の少なく安全に進めそうな所を選んで、進んでいた為、爆心地と思われる所に近づくと、黒龍の姿が視え、そこに近づく頃には、太陽は天頂を過ぎ少し傾き始めていた。
黒龍に恐る恐る近づいて、神々の贈物『治癒の道程』で確認すると、息絶えて要る事が解ってほっとひと息付いた。
気を取り直し、黒龍の周りを視回して見ると、少し離れた大木の残がいの近くに、見たことの無い不思議な形をした物が落ちていた。
その不思議な物の近くに、大木の根本辺りだけ残っている所に、変わった形の兜を付け見た事の無い服を着た男性らしき人が幹に寄りかかる用に座っていた。
胸元が浮き沈みしているので、生きては居る様だ。
近づいて、『治癒の道程』を使い怪我の状態を確認すると、ほとんど自然治癒していて術を使う必要が無い状態で、ただ意識を失っているだけのようだ。




