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プロローグ


    一年で最も月の光が弱い日の深い夜の深い森にて・・・



 北側に壁のように連なる山脈、その麓に広がる樹海の森、この森は【グリデシア領】の三分の一を占める広大な土地だが、開拓を進める事が出来ていない。

その森の中を貫く用に北東に向かう真っ直ぐな一本道が走っている。

その道を、馬車の隊列が急ぎ足で、走り抜けていた。


 中央に貴族が使う重厚な作りの馬車、前後には三台の荷馬車が中央の馬車を守る用でもあり、逃がさない用にも見える形で挟み込んでいる。

中央の馬車には、純白の花嫁衣装を連想させるドレスに身包んだ、美しい少女が一人で顔を俯かせて乗っていた。

彼女の名は、『グリデシア領領主の次女で、[ティーゼリーネ・フォータス・グリデシア]』である。若干十三歳にして「白の聖女」と呼ばれ、今節で十五歳に成ったばかり、他国にも名の知れた光属性術師で最高峰の治癒術師、彼女に治せない病も傷も無いと云われる程に治癒術に長けていた。

そんな彼女が何故このような場所を、移動して要るのか?


 この隊列が向かっている先は、【黒龍の森】と呼ばれている、恐ろしい古龍種が一体、黒き鱗に覆われた気性が荒く、とても恐ろしい【黒龍】の住まう場所である。

五年毎に一人、十三歳から十七歳の乙女の中から最も術力の強い者が選ばれ、黒龍の花嫁(生け贄)として捧げられるのであった。

仮令それが領主の娘であっても・・・

むしろ領民を守るために、彼女が選ばれたことを、領主父親は、誇らしい事と思っていた。


 最後の休憩が終わり一時間を少し越えた頃、ぽっかりと開けた広場に着いた。

七台の馬車を止めても十分な空間があるほどに、広さが有った。入って来た所の反対側に大人が三人並んで通れる位の細い道が有る。

広場では、荷馬車に載せられていた供え物や神輿などが下ろされ、運び易い様に並べられていく。

荷物が全て下ろし終わると、各馬車に分譲して乗ってきた男達二十名の内十八名が供え物を、担ぎ棒を使って、細い道の奥へ運び込んでいく、残りの二人は、貴族馬車の近くで見張りをして要る。

全てのお供え物が運び終わると、奇麗な布で飾られた神輿に少女が載せられ、八人男達が担ぎ残りが松明を掲げて前後を挟む様に並び細い道を、黙々と足音すら立てずに進んで行く。

暫く進むとお供え物が並ぶ大きな祭壇の様な所に着いく。

その中央に、ひと際綺麗に装飾された台座が在り、その上に神輿ごと少女は載せられた。

男達は、少女の方を視る事無く俯き加減に来た道を足早に引き返していくのだった。


 神輿の上で、何の感慨も浮かばず惚けて居ると、いつの間にか辺りが明るく成っていた。

ふっと何かの気配を感じ東の方の空を見上げると、、緑色に光る物体が、目の前の森の方角にに落ちていく様にみえた。



 この時よりも十日程前のこと。


【サイフェリスト王国】の王都近くの森の中に在る一軒家に手紙が届いた。

その家の主で、「黒の魔女」の二つ名を持つ、[フランシア・デル・オクジール]に宛てられた手紙で、差出人は、[ティーゼリーネ・フォータス・グリデシア]からである。

内容を掻い摘んで記すと「黒龍の花嫁に選ばれた事、魔術師の師匠である[フランシア・デル・オクジール]を、尊敬している事、この手紙が最後の便りになる事、今迄の全てへの感謝」が、五枚の便箋にびっしりと書き連ねられていた。

その手紙を読み終えると、自宅の書庫に駆け込み古龍に関する文献を片っ端から引っ張り出し、一字一句漏らさないように読み漁り【黒龍】を倒す方法を探し始めた。


[フランシア・デル・オクジール]と[ティーゼリーネ・フォータス・グリデシア]との出逢いは、十年前の[ティーゼリーネ・フォータス・グリデシア]の洗礼の儀を、王都の神殿で行われた際、儀式の後に模様されたお披露目会に招待され気まぐれで出席したのが切っ掛けで、[ティーゼリーネ・フォータス・グリデシア]の才能に惹かれ自ら声を掛けて弟子として迎え入れた。

その愛弟子の命を師匠である私が、まもりたいと思い、例え相打ちでも彼女を救いたいとあらゆる方法を 検討していた。

古龍種の唯一の弱点である、逆鱗を、貫ければ倒せるのだが・・・

一般的な術師よりも数十倍術力量を持ち術の精度、威力も高い彼女でも、古龍の鱗を貫く術を発動させるのには、十数分間の術歌を、途切れることなく、音程を外すことなく行う必要がある。。(*術歌とは、高度な術を発動する詠唱術に節を付け術力の練り込み精度を上げる技術である)

無詠唱魔術も存在しているが、威力、精度共に詠唱魔術に劣るとされている。

黒龍に、気づかれない程の遠距離では、有効射程から大きく離れてしまう。

色々、考えたが中々良い方法が浮かんでこない。

五日後、王立図書館の一般人が入れない、特別閲覧室を訪れ可能性のある本を不眠不休読み漁っていると、何かを、掴みかけたような気がするが、具体的な方法が浮かばずに悩み続け、気付けば最後の日を迎えていた。

結局間に合わなかった自分に脱力し意識が混濁した状態で彷徨う様に自宅の居間の寝椅子に突っ伏して意識を手放した。


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