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レイン・リベリオン  作者: まくら
第三部 『反逆の狼煙』
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54 進化の断絶

 それは、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的だった。

 基地を埋め尽くしていた量産型バトルギアの残骸が、燃え盛る鉄屑となってアスファルトに転がっている。

 カイは、炎の中を悠然と歩いていた。

 敵の銃弾は当たらず、当たったとしても、その装甲を傷つけることすらできない。


『……ひ、怯むな! 奴は一機だ! 包囲しろ!』


 スピーカーから、指揮官の悲鳴に近い命令が響く。

 だが、恐怖に支配された兵士たちの動きは鈍い。


(……つまらないな)


 カイは、無意識にそう感じていた。

 以前はあれほど脅威だった「軍の兵器」が、今の彼には、スローモーションで動くブリキのオモチャに見える。

 同調したレクス7のセンサーが、敵の関節駆動音、エンジンの熱量変化、さらにはパイロットの心拍数までをも感知し、次の動きを完全に予測させてしまうのだ。


 その時。

 基地の格納庫(ハンガー)が爆発音と共に吹き飛び、黒い影が飛び出した。

 それは、今までカイが相手にしていた量産型とは、明らかに異なる機体だった。

 流線型の装甲、背部には大型のスラスター、そして両腕には高周波ブレード。

 軍が対レクス7用に投入した、対レクス7用の次世代型カスタム機――『ケルベロス』だ。


「……ネズミが調子に乗るなよ!」


 エースパイロットと思われる男の怒号と共に、ケルベロスが猛スピードで突っ込んでくる。

 速い。量産型の三倍近い推力。高周波ブレードが、空気を切り裂く甲高い音を立てて、レクス7の首元へと迫る。


 だが。


(……なるほど。いい機体だ)


 カイは、冷静に分析していた。

 機体の性能は高い。だが、それを操るパイロットの思考が、機体の速度に追いついていない。

 カイには、敵がブレードを振り下ろすまでの「タメ」の時間が、永遠のように長く感じられた。


 ――ガギィンッ!


 火花が散る。

 レクス7は、ケルベロスのブレードを、素手で受け止めていた。

 「共振性チタン合金」の掌が、高周波の振動を相殺し、刃を完全に無効化している。


「な、なんだと!? 俺のブレードを……!」


「……遅いんだよ」


 カイが思考する。

 レクス7の腕が、人間の反射速度を超えた神速で動く。

 敵のブレードをへし折り、そのままの手刀で、ケルベロスの胸部装甲を貫いた。


 ズドンッ!

 衝撃が背中まで突き抜ける。

 動力炉を一撃で破壊されたケルベロスは、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


 一瞬の静寂。

 そして、生き残った兵士たちの間に、絶望的なパニックが広がった。


「ば、化け物だ……! 勝てるわけがない!」


「撤退だ! 総員退避ッ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げ出す軍の車両。

 カイは、それを追わなかった。

 逃げた兵士たちが持ち帰る「恐怖」こそが、下層区全体に広めるべき、最高の宣伝材料になるからだ。


『……見事だ、カイ』


 通信機から、リアの満足げな声が響く。


『お前とレクス7は、もはや「兵器」の枠を超えた。人と機械の境界がない……あの上層区の研究者たちが夢見た、進化の究極形だ』


 カイは、炎上する基地の中央で、静かに立ち尽くす。

 その様子を、遠く離れた廃ビルの屋上から、一人の人影が見つめていた。

 フードを目深に被った、レジスタンスの女だ。

 彼女は、双眼鏡を下ろすと、震える手で通信機を握りしめた。


「……本物だ。……我々が待ち望んでいた、『世界を変える力』が、ついに現れた」


 雨が上がり、雲の切れ間から、上層区の人工太陽の光が差し込む。

 その光の中で、(みどり)の瞳を持つ鋼鉄の巨人は、新たな時代の到来を告げるように、静かに咆哮を上げた。

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