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レイン・リベリオン  作者: まくら
第二部 『主の資格』
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40 魔女の迎撃



「カイ!」

 

 リアの鋭い声が、工房に響き渡る。


「作業を中断しろ! ……客が来た。それも、とびきり面倒なのがな!」


 カイはレーザー溶接機を床に放り投げ、リアが睨みつけるメインモニターへと駆け寄った。

 工房の外部に設置された、複数の隠しセンサーの映像。その全てに、見慣れない黒い戦闘服の男たちが映っていた。


「……こいつら、赤蛇会やハイエナの連中とは、モノが違う」


 カイが、その統率された動きに息を呑む。


「……ああ」


 リアは忌々しげに吐き捨てた。


「セクターFでお前を追ってきた、軍の非公式部隊……その増援だ。お前がオークションで座標を売ったせいで、奴らにここがバレた。あたしの計算より、三日も早い。クソが!」


 カイが反論する間もなく、工房の重厚なブラストドアが、ドォン! という凄まじい衝撃音と共に激しく震えた。

 彼らは、ノックなどという生易しいものではなく、最初から攻城用の破城槌か何かで、正面からこじ開けるつもりだった。


「レクス7はバラバラだ! シミュレーターも、ステルス機も起動が間に合わない!」


「慌てるな」


 リアの表情から、焦りの色は消えていた。代わりに、自らの「城」を荒らされたことへの、氷のような怒りが浮かぶ。


「ここは、あたしの工房だ。……あたしのルールで、歓迎してやる」


 彼女はコンソールを叩き、工房全体のセキュリティを戦闘モードへと移行させた。カイがシミュレーターと格闘している裏で、リアがこの『Xデー』に備えて密かに再構築していた、侵入者(ハイエナ)共を迎え撃つための罠だ。

 ガシャン! という音と共に、工房の内部隔壁が下り、カイとリア、そして解体中のレクス7がいるメインベイだけが、安全な聖域として隔離される。


 ドォン! 二度目の衝撃音。ブラストドアが、明らかに歪み始めている。

 それと同時に、リアのコンソールが甲高い警告音を発した。敵が工房のシステムに、強力な電子妨害とハッキングを仕掛けてきたのだ。

 だが、リアは待っていたとばかりに、その攻撃の軌道を逆探知し、数秒にも満たない猛烈な速度でキーを叩きつけた。


「……食いついた」


 敵の攻撃を「裏口」として利用し、リアのシステムが相手の軍用回線に侵入していく。ノイズ混じりの、冷徹な命令がスピーカーから響き渡った。


『……三分だ。三分であの鉄の塊を突破する。第二、第三分隊は、ダクトと屋上から同時侵入。ターゲットはパイロットと、メカニック。生死は問わんが、工房と機体は、可能な限り無傷で制圧しろ』


 リアは、敵の作戦の全貌を聞き終えると、忌々しげに舌打ちして通信を断ち切った。


「……カイ」


 リアは、カイの目を見た。


「お前に教えた、バトルギアのバイタルマップを思い出せ」


「は?」


「工房も、機体も、同じだ。急所(バイタル)がある」


 リアは、工房の配管図をモニターに表示させた。その一点が、赤く点滅している。


「正面ゲートの真上、第3冷却パイプだ。あれは、この工房の地下にある、メインジェネレーターの冷却液(クーラント)が通ってる。……中身は、マイナス190度の液体窒素だ」


 リアの口元が、残忍な笑みで吊り上がる。


「扉が破られた瞬間、お前があれを撃ち抜け。タイミングを間違えるなよ」


 ゴウッ!  ついに、ブラストドアが、内側へと吹き飛んだ。

 爆煙と粉塵の中から、完全武装の部隊が、シールドを構えて突入してくる。


「……今だ!」

 リアの叫びと、カイがパルスガンを撃つのは、同時だった。

 カイの放った弾丸は、部隊の頭上を飛び越え、リアが指示したパイプを正確に撃ち抜いた。


 次の瞬間、世界が白に染まった。

 破壊されたパイプから、極低温の液体窒素が、霧状になって突入してきた部隊へと降り注ぐ。


「グァアアアアッ!?」

「目があ! 凍る!」


 人間の悲鳴が、金属が急激な冷却で軋む音と重なる。

 一瞬にして、突入部隊は、武器を構えたままの不気味な氷像へと姿を変えた。


「……第一陣、排除」  


 リアが、冷ややかに呟く。

 だが、その安堵は一瞬だった。


 けたたましい警告音。

 リアが、信じられないものを見たかのように、別のモニターを睨みつけた。


「……嘘だろ」


 そこには、天井の、遥か上。

 リアのステルス輸送機が隠されている、隠しドックのハッチが、外部から、まるで缶詰のようにこじ開けられようとしている映像が、映し出されていた。


「……あたしの『足』の場所が、バレてる……!」


 敵は、リアの行動パターンと、工房の構造すら、完全に解析していたのだ。

 正面突破は、陽動。

 カイとリアの頭上から、本命の死神が、今まさに降下しようとしていた。

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