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レイン・リベリオン  作者: まくら
第二部 『主の資格』
34/38

33 ゼロからの再起動



 二度目の戦闘は、一度目よりも速く終わった。

 カイは、一度目の失敗から学び、より慎重に奇襲を仕掛けた。だが、敵のAIは、カイの動きを完全に学習していた。カイが潜むであろうビルの影に、一斉に牽制射撃を浴びせてくる。


 SIMULATION FAILED

 ――戦闘時間、一分四十五秒。


 三度目。カイは奇襲を諦め、機動力を活かしてヒットアンドアウェイに徹した。


 SIMULATION FAILED

 ――戦闘時間、二分三十秒。


 四度目、五度目、十度目……。

 カイは、何度も、何度も、仮想の上層区で撃墜され続けた。

 SIMULATION FAILEDの無慈悲な文字が、彼の網膜に焼き付く。汗で濡れた身体は、ニューラル・インターフェイスからのフィードバックで、まるで本当に殴打されたかのように痛みを訴えた。


『まだ分からんか、犬』


 十数回目の失敗の後、スピーカーからリアの冷たい声が響いた。


『お前がやっているのは、ただの延命だ。生き残るために逃げ回り、運良く相手が隙を見せたら噛みつくだけ。それでは、絶対に集団には勝てん』


「じゃあ、どうしろって言うんだ!」


 カイは、思わずコックピットの中で叫んでいた。

 下層区では、この戦い方だけが、彼を今日まで生かしてきた唯一の術だった。それを、リアは根底から否定する。


『敵を見るな。戦場を見ろ』


 リアの声が、静かに続いた。


『なぜ奴らが常に二機一組(ツーマンセル)で動くのか。なぜ、一機が陽動に出ている間、もう一機が必ずお前の死角を狙う位置にいるのか。お前のその場しのぎの奇襲は、全て奴らの掌の上だ。奴らは、お前という「個」ではなく、六機で構成された「一つのシステム」として、お前を狩っている』


 リアの言葉が、カイの頭を殴りつけた。

 システム。そうだ、奴らは一つの生き物のように、完璧に連携していた。

 自分は今まで、その生き物の、一本一本の指を折ろうとしていただけだったのだ。


『お前の汚い戦い方は、生き残るための知恵だ。それは認めよう。だがな、レクス7という規格外の力を『主』として振るうには、個の生存術だけではなく、戦場を支配するための『戦術』が必要だ』


 その言葉を最後に、リアは黙り込んだ。

 カイは、荒い呼吸を繰り返しながら、操縦桿を握りしめる。

 プライドが、邪魔をしていた。スカベンジャーとしての、自分の生き方そのものを否定されているような気がして。

 だが、モニターに映るエリアナの顔が、彼の脳裏をよぎる。


 ――彼女の謎を解き明かすために、俺はここにいる。


 カイは、大きく一度、深呼吸をした。

 リセットを要求する。


 再び、上層区の青い空が広がった。


 今回は、カイはすぐには動かなかった。

 彼は、ビルの屋上に機体を隠し、まずは眼下で完璧な陣形を組む敵部隊を、ただじっと観察した。

 リアの言った通りだった。二機一組の動き、死角を補い合う射線、前衛と後衛の見事な連携。

 カイは、これまで敵の「弾道」しか見ていなかった自分に気づいた。


(……システムの、弱点はどこだ)


 彼は、初めて敵を「殺すべき標的」としてではなく、「解くべきパズル」として見た。

 そして、気づく。彼らの完璧な陣形は、常にカイという一点を中心に構築されている。ならば――。


 カイは、敵部隊に突撃するのではなく、あえて全く関係のない、遠くのビル目掛けて、パルスライフルを数発撃ち込んだ。

 轟音と共に、ビルの一部が崩落する。

 その瞬間、敵部隊の完璧な陣形が、ほんの一瞬だけ、その「想定外の騒音」に気を取られて乱れた。


 ――好機!


 カイは、陣形が乱れたことで生まれた、わずかな射線の隙間へと、全速力で突っ込む。

 そして、敵が再び陣形を組み直す前に、二機の懐へと潜り込み、ゼロ距離でライフルを叩き込んだ。


 SIMULATION FAILED


 結果は、またも失敗だった。だが、内容はまるで違った。

 戦闘時間、十分二十秒。撃墜数、四機。


 ハッチが開き、カイは汗まみれのまま、ポッドから転がり出た。

 リアが、腕を組んで、データパッドを見下ろしている。


「……フン。ようやく犬から、猿に昇格したか」


 彼女は、カイに栄養バーと水のパックを投げ渡した。


「飲め。休憩は10分だ」


 リアは、工房の隅にある、むき出しの訓練スペースを指差した。


「次は、そのひ弱な身体を叩き直す。ギアを降りた後の、ナイフの使い方と、人間の殺し方だ」


 カイは、リアの言葉の意味を、一瞬、理解できなかった。

 シミュレーターでのあの死闘は、リアが言う訓練の、ほんの序の口に過ぎなかったらしい。

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