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レイン・リベリオン  作者: まくら
第一部 『鉄の胎動』
31/38

幕間 盤上の駒

 カイとリアが工房の奥で、リアが告げた次なる地獄に備え始めた、まさにその時。

彼らが知らない場所で、世界の歯車は、カイという新たな軸を得て、ゆっくりと、しかし確実に回り始めていた。


**********


 上層区の地下深く、照明を落とした司令室に、ホログラムの報告書が浮かび上がっている。

 セクターF-12で大破した、黒いカスタムギアの残骸。そして、それを引き起こした旧式機「レクス7」の戦闘データ。


「……意図的な構造物の崩落、か。面白い手を使う」


 一人の士官が、冷たい声で呟いた。


「さらに、この残骸の座標を、セクターJのオークションで売り払った、と。我々の存在を公然と挑発する、見事な度胸だ」


 部下の報告が続く。


「はっ。座標の売却先は、現在調査中。ですが、オークションで『量子カスケード変調器』を競り落としたのは、溶接(ウェルディング)横丁(・アレイ)のメカニック、『リア』に雇われた少年との情報が入っています」


「……リア。あの『魔女』か」


 士官は、忌々しげにその名を口にした。


「どちらにせよ、我々の『庭』を荒らしたネズミは、駆除せねばならん」


 彼は、新たなバトルギアの設計図をモニターに表示させた。

 それは、カイが戦った量産型のカスタムギアとは比較にならないほど、凶悪で、洗練されたフォルムをしていた。


「次の番犬を送れ。……今度は、首輪を付けて連れ帰れとな。閣下のご命令だ」


**********


 上層区、最上層。雲を見下ろす、純白のオフィス。

 仮面のディーラーが、膝をつき、部屋の主である影に向かって報告していた。


「……申し訳ありません。例の『変調器』、確保に失敗いたしました」


『構わん』


 影からの声は、男とも女とも、老人とも若者ともつかない、奇妙に合成された声だった。


『むしろ、面白いことになった。競り勝ったのは、リアの差し金だそうだな』


「はっ。運び屋は、カイ・レインと名乗る下層区の少年です」


『カイ……レイン……』


 影は、その名前を反芻するように繰り返した。


『いや、今はどうでもいい。それより、リアだ。……あのネズミが、まだ生きていたか。しかも、あの『遺産』の側に現れるとはな』


 声には、侮蔑と、そしてわずかな愉悦が混じっていた。


『計画を変更する。変調器の回収は、一時中断だ』


「……と、おっしゃいますと?」


『あの魔女が、何をしようとしているのか。見極める必要がある。レクス7を再生させるつもりなら、好都合だ。我々が手を下すまでもなく、必要なパーツを揃えてくれるだろう。……泳がせておけ。最後に、全てを回収すればいい』


 影は、窓の外に広がる、雲海の上の青空を見つめていた。


「全て、だ」


**********


 どこでもなく、どこにでもある場所。

 無数の情報が光の線となって飛び交う、データ空間。

 いくつかの無機質な声が、観測結果を共有していた。


▶ SUBJECT: KAI RAIN // STATUS: ACTIVE. BASE OF OPERATIONS: WELDING ALLEY.

▶ SUBJECT: LIA // STATUS: ACTIVE. CONTACT WITH SUBJECT KAI RAIN CONFIRMED.


▶ ASSET: QUANTUM CASCADE MODULATOR // STATUS: ACQUIRED BY SUBJECTS.

▶ ASSET: RESONANT TITANIUM ALLOY // STATUS: ACQUIRED BY SUBJECTS.


▶ ANALYSIS: PROBABILITY OF REX-7 REACTIVATION... 78.4%. ESCALATING.


 沈黙。

 やがて、全ての声の主であるかのような、一つの威厳ある声が、結論を下した。


▶ CONTINUE OBSERVATION. INTERVENTION IS UNNECESSARY AT THIS PHASE.

▶ OUR TRIGGER IS, AND ALWAYS WILL BE, THE MOMENT THE WORLD'S 'ARBITRATION' COLLAPSES.


 光の線は、再び静かな流れを取り戻す。

 ――観測は継続。現段階での介入は不要。世界の『調停』が崩れる、その瞬間にこそ、我々は引き金を引く。


 盤上の駒は揃い、ゲームの幕は上がった。あとは、誰が最初の一手を間違えるか。

 ただ、それだけを、彼らは待っていた。

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