3 鋼の巨影
廃工場の入り口を塞ぐように、そいつは立っていた。
人間の形をしている──だが、その輪郭は完全に金属に覆われ、背中には重機のようなアームが二本、無造作に折り畳まれている。
赤く発光するバイザーが、暗闇の中で不気味に瞬いた。
その存在感だけで、空気が圧し潰されるように重くなる。
バトルギアのHUDが、即座に新しい警告を点滅させた。
《脅威ランク:A。戦闘推奨》
「……また勝手に言いやがって」
カイは一歩後ずさる。
だが、男は動かない。ただ、そのバイザー越しの視線だけが、じわじわとカイを射抜いてくる。
「それを着て生きてるガキがいるとはな……」
低く響く声。金属の共鳴音が混ざっている。
男はゆっくりと右腕を持ち上げた。
前腕の装甲がスライドし、内蔵された砲口がカイへと向けられる。
《先制行動を推奨──》
次の瞬間、閃光。
耳を劈く轟音と共に、鉄扉の残骸が吹き飛び、破片が壁や床を抉った。
カイは咄嗟に左腕のシールドを展開し、衝撃を受け止める。
衝撃の中で、心臓が速く打ち始めた。
さっきの治安部隊とは次元が違う。これは──正面からやれば確実に死ぬ。
男は一歩、また一歩と踏み出す。床が沈み込み、鉄骨が軋む。
まるで戦車が人の形をして歩いているようだった。
「バトルギアを渡せ。でなければ──粉々だ」
逃げるか、戦うか。
選択を迫られるカイの頭の中で、HUDが次々と戦術ルートを描き出す。
出口は背後にひとつ──だが、男との距離はあまりに近い。
《戦闘モード・フェーズ2起動可能。使用しますか?》
喉が渇く。だが、躊躇している暇はない。
男の砲口が、再び青白い光を帯び始めた。
「……やるしかねぇか」
カイは奥歯を噛みしめ、HUDの“承認”に意識を合わせた。
バトルギアの脚部が低く唸り、全身の装甲がわずかに形を変える。
視界が赤黒く染まった。
次の瞬間、鋼と鋼がぶつかる轟音が、廃工場全体を揺らした──