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レイン・リベリオン  作者: まくら
第一部 『鉄の胎動』
28/38

28 15パーセントの絶望

 完全に閉ざされたブラストドアの向こうから、旧時代の亡霊が上げる、地獄の釜が煮えるような轟音が響いてくる。

 吹き飛ばされた衝撃で、カイはしばらくの間、動くことすらできなかった。


 FILTER INTEGRITY: 15%


 HUDに表示された、無慈悲な数字が彼を現実に引き戻す。

 この船の内部は、外のセクターCよりもさらに大気の汚染が酷い。フィルターの劣化は加速し、残された時間はもはや一時間もないだろう。


「……リア! 聞こえるか! クソッ、ダメか……!」


 通信機は、動力炉のエネルギー逆流(バックドラフト)によって完全に沈黙していた。

 カイは、完全に孤立した。


 出口は、塞がれた。

 来た道を戻るか? いや、あの自動防衛システムが待ち構える格納庫や、入り組んだ回廊を抜けて、崖の上まで戻る時間は、もう残されていない。


 カイは、スカベンジャーとして培った、数少ない知識を総動員する。

 巨大な船の構造。機関部は通常、船体の後方下部に位置する。ならば、巨大な貨物を搬入するための貨物倉や、船全体の指揮を執るブリッジは、船体の中央か前方にあるはずだ。そこなら、外に繋がる巨大なハッチや、脆くなった窓があるかもしれない。


 カイは、残された唯一の希望に賭け、船体の前方、そして上階を目指して、再び走り出した。

 船は、断末魔の獣のように、絶えず呻き声を上げていた。動力炉の暴走が、船体全体を歪ませているのだ。時折、頭上のパイプが破裂し、高圧の蒸気が噴き出す。カイはそれらを身をかがめてやり過ごし、崩れかけた通路を駆け抜けた。


 FILTER INTEGRITY: 10%


 焦りが、カイの呼吸を浅くする。

 やがて、彼は巨大なシャッターで閉ざされた区画――おそらく、メインの貨物倉へとたどり着いた。シャッターは、旧時代の遺物らしく、びくともしない。

 だが、その脇に、人一人が通れるほどの、小さなエアロックがあるのをカイは見つけ出した。制御盤は死んでいる。ドアは、衝撃で歪み、固く閉ざされていた。


「……これしか、ない……!」


 カイは、プラズマカッターをエアロックの継ぎ目に押し当てた。

 エネルギー残量は、もうほとんどない。カイは全ての残量を注ぎ込み、ドアのロック機構を焼き切る。

 けたたましい金属音と共に、ロックが破壊された。だが、ドアはまだ歪んだフレームに噛み付いて、開こうとしない。


 FILTER INTEGRITY: 07%


 カイは、トングで掴んだ合金の塊を一度地面に置くと、自らの身体をドアの隙間にねじ込み、渾身の力でこじ開けようとした。

 傷ついた腕が悲鳴を上げ、防護服が軋む。


「……開けッ!」


 カイの絶叫と共に、メリメリという音を立てて、歪んだ金属の扉が、ゆっくりと外側へ開いていった。


 カイは、転がり込むようにして、船の外へと脱出した。

 彼がたどり着いたのは、大きく傾いた船の甲板の上だった。眼下には、緑色に泡立つ毒の湖が広がっている。

 彼は船から出たのだ。


 目の前に広がるのは、広大な毒の海と、遥か彼方に見える崖の上の入り口。

 だが、安堵は一瞬で絶望に変わった。

 HUDに、新たな警告が叩きつけられる。


《WARNING: FILTER FAILURE IMMINENT. EVACUATE HAZARD ZONE.》


 FILTER INTEGRITY: 05%


 防護服の生命維持装置が、か細い警告音を発し始める。

 遥か彼方に見える、崖の上の入り口。そして、HUDに表示された『05%』という最後通告。

 カイの脳が、瞬時に生存確率を計算する。――間に合わない。


 その絶望的な計算結果が、思考を凍り付かせた。掴み取ったはずの希望の塊を手に、カイの足は、まるで甲板に縫い付けられたかのように、その場で動きを止めた。

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