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レイン・リベリオン  作者: まくら
第一部 『鉄の胎動』
25/38

25 旧時代の亡霊



 船内に一歩足を踏み入れたカイを、過去の亡霊たちが出迎えた。

 彼のライトが照らし出したのは、どこまでも続く暗黒の回廊と、壁や床にへばりつく、おびただしい数の人骨だった。この船の乗組員たちの、最後の姿。彼らは、何らかの絶望的な状況の中で、ここで果てたのだろう。


 カイは死者たちに一瞥をくれると、すぐに思考を切り替えた。感傷に浸っている暇はない。HUDに表示されるフィルターの劣化ゲージが、彼の命の残り時間を容赦なく刻んでいた。

 リアの作った共振スキャナーを取り出す。船内では、外部の電磁ノイズが遮断されるためか、シグナルはより強く、そして明確に船の深部を指し示していた。


(……機関部か、やはり)


 カイは、入り組んだ迷路のような通路を、スキャナーだけを頼りに進んでいく。

 船体は巨大な墓標のように静まり返っていたが、それは偽りの静寂だった。時折、船体のどこかが軋む、巨大な金属の呻き声が響き渡る。カイは、構造的に脆くなった床を避け、崩落した天井を乗り越え、慎重に、だが素早く進んだ。


 やがて、彼は開けた区画――かつての格納庫だったであろう場所に出た。

 その中央を横切ろうとした瞬間、カイは本能的に物陰に飛び込んだ。

 格納庫の天井の隅で、赤いランプが明滅し、錆びついた機銃が、不気味な駆動音を立てて旋回を始めたのだ。

 旧時代の、自動防衛システム。非常用電源か何かで、未だにかろうじて生きている亡霊だった。


 機銃の動きは鈍く、センサーも劣化している。だが、あの口径の弾丸を受ければ、防護服ごと身体が吹き飛ぶ。

 カイは銃撃戦という最悪の選択を避け、防衛システムの死角を縫うように、コンテナの影から影へと、息を殺して移動した。数分にも感じられる緊張の末、彼はなんとか格納庫をやり過ごし、機関部へと続く、巨大なブラストドアの前にたどり着いた。


 ドアは半ばこじ開けられたように歪み、隙間ができている。カイはパルスガンの出力を上げ、その隙間を焼き切って、人が一人通れるだけの穴を広げた。


 そして、その穴を抜けた先で、カイは言葉を失った。

 そこは、船の心臓部である機関室だった。

 空間の中央には、カイが見たこともない、巨大で複雑な形状の動力炉(リアクター)が鎮座している。その表面はひび割れ、内部から不気味な青白い光が漏れ出していた。


 共振スキャナーが、けたたましい警告音と共に、これまでで最も強い反応を示した。

 ――動力炉、そのものに。


 カイが探していた「共振性チタン合金」は、単独のパーツとして存在するのではなかった。それは、この未知の動力炉を、巨大な鳥籠のように覆っている、格子状の制御フレームそのものだったのだ。


 合金を手に入れるには、この暴走寸前の心臓を覆う檻を、直接破壊し、切り取るしかない。

 カイがその事実に気づいた、まさにその瞬間。


《DANGER: UNIDENTIFIED ENERGY SOURCE DETECTED. EXTREME RADIATION HAZARD.》


 HUDが、放射線レベルの急上昇を示す、新たな警告を発した。


(なんだこれは……危険信号? 未確認のエネルギー源……放射線だと!? クソっ、この心臓、ただ不安定なだけじゃない、暴走しかけてるのか!)


 カイは、青白く明滅する、旧時代の心臓を前に、立ち尽くしていた。

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